急転直下
私にだけ何もしていない?
「どうしてわかったの?」
エンベルト殿下が、一人一人と目線を合わせる。
「私の魔力は、他の魔力を感知する事が出来るので、彼女から魔力が放出された瞬間感じ取ったのです。なんだか靄のように見えたそれは、アリーだけを綺麗に避けていました」
「兄上は膨大な魔力の持ち主なんだ」
ラウリスが自慢げに言う。ブラコンの鑑だな。
それにしても、私にだけかけなかったという事は、皆にかけたのはやはり魅了なのだろう。またもや私を国外追放しようとしているのか?どうして私、いや、アレクサンドラに固執する?過去に何か因縁でもあったのだろうか?
一人で考えていると、頭をポンポンと撫でられた。
「心配しないでいいですよ。何かあってもアリーは私が守りますから」
綺麗な笑みを目の前で見てしまう。カーッと一気に熱が広がった。皆が温い目で見ていて居心地が悪い。
「ところでアリー」
熱に浮かされたまま、顔だけ殿下に向ける。
「お守りは他にも作れるのでしょうか?」
「お守り?」
「そう、お守りです。他にも作る事は出来ますか?」
「作れるけれど、媒体となる物がないと」
「それはなんでもいいのですか?」
「宝石が付いた物という事が必須よ。大きさとかは関係ないかな」
「じゃあ、宝石のついた物を渡したら作ってくれるでしょうか?」
ラウリスが不思議そうに尋ねる。
「兄上?誰かの為に作って欲しいという事ですか?」
ニッコリと微笑んだエンベルト殿下。
「はい、そうですよ。大切な子にね」
「え?」
ずくり、と嫌な感じに胸が痛んだ。
「彼女に何か悪い作用があったらいけませんから。彼女にもお守りを渡してあげたいと思って。よろしいですか?アリー」
優し気な表情で話す殿下。
「……」
「アリー?」
「……あ、うん……わかった」
私の様子がおかしくなった事に皆が気付く。殿下も気付いたはずだ。それでも話は続いた。
「彼女が持っている物を使った方がいいのでしょうか?それとも新しく用意した方がいいのかな?新しい物がいいのなら、すぐに用意しなくては。アリー、どちらがいいですか?」
「……どちらでも、大丈夫」
なんとか返事だけはした。でももう、そこから先の会話は入って来なかった。
どうやって帰ってきたのか……気付いたら私は寮のベッドに座っていた。
「お嬢様?お帰りになっておりますか?」
メリーの声が聞こえる。
真っ暗な部屋に座っている私を見て、驚いたメリーは慌てて私に駆け寄った。
「どうしました?何があったのですか?」
「メリー……胸が痛い」
そう言った私の目からは、ポロポロと涙が流れ出した。
「お嬢様」
ギュッとメリーに抱きしめられる。堪えきれなくなった私は嗚咽を漏らした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ガキンッ!
私の背後から金属同士のぶつかり合う音が聞こえた。
「来ましたね」
予測していたものの、攻撃を防げた事に安堵の息を吐いてしまう。
「本当に強いようですね。影がいなかったら、完全にあの世行きでした」
来訪者を真っ直ぐ見る。
「わざと、か」
「はい、そうです」
「目的は私か?……ならば、そちらの影でも使って呼べば良かったのでは?お嬢様をあんなに傷つけて……そんな必要がどこにあったと?」
再び殺気が膨らんだ。
「アリーには申し訳ない事をしたと思っています。ですがそうでもしないと、会ってはくれないと思いまして。彼女には明日一番に謝罪と弁解をするつもりです」
「ふっ」
不敵に笑った彼女。
「甘いな」
「え?」
「いや、何も。それで、一体私に何用だ?」
肌がザワザワする。涼しい顔になった彼女だが、殺気を消そうとしない。しかし、目的のためには彼女の存在が必要だ。
「共同戦線を張りませんか?」
「は?」
「君だそうですね。お守りを作るように進言したのは」
「……」
「彼女の力を知っていたのですか?」
「……」
何も話してくれるつもりはないようだ。
「私はね、アリーを守りたいのです」
「……」
「今日、早速お守りが役に立つことがありました。だが、アリーだけお守りが作動する事がありませんでした。彼女にだけ魔法をかけなかったという事です」
返事はないが、しっかり話は聞いてくれているようだ。
「アリーもその事で何かを感じたようです。これから先も、きっと同じような事が起こるでしょう。そうなると結果的にアリーに良くない気がするのです。君もそう思っているのでしょう。思っているというより確信している、かな」
「……私に何を求める?」
「共同戦線を張って、全力でアリーを守りたいと思っています」
「……」
「どうです?」
暫し考えた彼女は答えた。
「その為にお嬢様を傷つけたのか?」
再び、殺気が膨らんだ。殺気で部屋が息苦しくなる程だった。
「王太子はどうやら女心を甘く見ているらしい……フンッ、おまえがお嬢様に許される事が出来たら、その時は考えてやろう」
そう言った彼女は消えた。