あああ!
小柄で庇護欲をそそるような雰囲気の女性だ……なんだか既視感がある。いつ?どこで?暫く考えていると、令嬢が挨拶を始めた。
「デルフィーナ・セレートと申します。聖魔法を使います。このクラスは、高位の方々ばかりで緊張していますが仲良くしてもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げて微笑んだ彼女に、男性たちからため息が洩れた。
『あの女だ!!』
過去のラウリスたちを魅了で骨抜きにし、私じゃない私をボロボロにした女だった。
咄嗟にラウリスを見る。ぼーっとあの女を見ている。
「ラウリス、どうしたの?まさか!?……一目惚れしたわけじゃ」
ラウリスの肩を掴み、グラグラと揺らす。
「いや」
「ラウリス!しっかりして。ラウリス!」
尚も揺らし続ける私の両手を掴んだラウリス。こめかみがピクピクしている。
「落ち着け!そうじゃない。アリーにもらったピアスが一瞬、熱くなった気がしたんだ」
「え?」
見ればオレステたちも不思議そうに耳を触っている。チタとチアも指輪をジッと見つめていた。
エンベルト殿下を見れば、見た事のないような険しい表情をしていた。きっと殿下も熱を感じたのだろう。
自己紹介が終わり、あとは明日からの授業の流れを説明されて、今日は解散となる。何気なくあの女を見ると、クラスの数人に囲まれて楽しそうに話していた。
「皆。真っ直ぐ寮に戻るのか?食事して行かないか?」
ラウリスの言葉で私たちは、校内にある食堂へと足を運んだ。
「あれって何だったんだろうな?」
「わからない。ほんの一瞬だったし」
「でも、皆がそうなったという事は、何かしらお守りに作用する事があったという事でしょ」
食事をしながら、先程の出来事を話す。
「あのセレートとか言う令嬢が挨拶した時だよね」
「そうだったわ」
「彼女が何かをしたって事かしら?でも一体何を?」
「んー、なんだろうな?」
皆が真剣に意見を交わしている中、私は話に入っていけない。
「あのぉ、それなんだけど」
「ん?アリー?どうしたの?」
皆の視線が一斉に私に集中する。
「熱くなった原因に心当たりがあるのか?」
ラウリスの視線が痛い。
多分、魅了なのだろうと思う。だが、私には確信が持てなかった。
「そうじゃなくてね……私は熱くならなかったのだけれど」
「え?」
皆の声が綺麗に揃った。
「アリーは熱さを感じなかったって事?」
チタに聞き返される。
「うん。何も」
熱さどころか何も感じなかったのだ。それなのに、魅了だと断定する事は出来ない。
「もしかしたらお守りを作った本人だからとか?」
ロザーリオがフォローしてくれる。
「……鈍いから、じゃないのか」
ラウリスがロザーリオのフォローを台無しにした。
「もうっ」
ぷんすかしていると、私たちの席に近づく足音が聞こえた。
「兄上」
ラウリスが嬉しそうに後ろを向く。
『どういう事?なんでわかったの?足音?足音でエンベルト殿下だってわかったの?どんだけブラコン?私でさえ、足音だけではお兄様だってわからないわよ』
脳内で盛大に突っ込んでおく。
「ふふ、皆驚きましたか?」
クスクスと笑いながらエンベルト殿下が来た。当然のように一緒の席に座る。
「驚いたわ。まさか、先生の真似事を始めるなんて。ラウリスなんて口がポカンって開きっぱなしだったもの」
「サプライズ成功のようですね」
爽やかに笑った殿下の表情が、すぐに真剣なものになった。
「アリー。このピアスの効力はどのくらい持つのでしょう?」
「ああ、それは着けている本人が死ぬまでよ」
「……嘘」
「嘘じゃないわ。メリー、私の侍女がその方がいいって」
「そう……ですか」
何かを考えるように口を閉じた殿下。
「兄上」
遮ったのはラウリスだった。
「兄上もピアスが一瞬熱くなりましたか?」
「ええ、なりました」
「じゃあ、やっぱりアリーだけ鈍かったって事かしら?」
「チアが酷い」
感情は鈍いかもしれないけれど、感覚は敏感だと思っていたのに。
そんな意見に、首を横に振ったエンベルト殿下。
「それは多分、アリーにだけ何もしていないからでしょう」