断罪されている令嬢
神様は、出した水晶玉をゴトリと地面に置いた。
「これを覗いてみて」
言われた通り、じっと水晶玉を見てみる。無色透明の玉は、只々白を映し出していた。
「?」
ところが暫くすると、何かの映像が映し出される。じっくり見ようと水晶玉を凝視した。
色とりどりのドレスを着た女性たちに、こちらも黒や青、シルバーのスーツのような服を着ている男性たち。中心には一人の美しい女性と、小柄な女性の肩を抱いている男性。すぐ後ろには3人の男性も見える。
「これは?」
神様に問う。
「これはね、さっき言ったもう一つの世界で実際に起こっている事よ。一人で立っている彼女はね、今回で同じ人生を5回過ごしているの」
なんだそれは。タイムループとかいうやつ?
「神である私にもどうにも出来ない程の力が働いていて……私にもどうしてなのかわからないの。もしかしたら、もっとベテランの神であればなんとか出来たのかもしれない。でも私はまだ神になって間もなくて力不足なの」
悔しそうに唇を噛む神様。思わず神様の口に触れて噛むのをやめさせる。
「彼女の名前はね、アレクサンドラ・ヴィストリアーノ。公爵令嬢という、高位の貴族令嬢よ。対して女性の肩を抱いてアレクサンドラと対峙しているのが、ラウリス・バルティスと言って、この国の第二王子でアレクサンドラの婚約者よ」
「は?どうして彼女の婚約者が、他の女の肩を抱いて意気揚々としているの?」
あれか?王族だから、他にも愛人がいて当然とかって腐った考えの奴なのか?
「順を追って話しましょうか。肩を抱かれている彼女は、デルフィーナ・セレートと言って聖魔法の持ち主なの」
「え?魔法?魔法が使えるの?」
テンションが一気に上がる。
「ええ、使えるわ。この世界には一般的な魔法、火や水、風や土、それから雷や氷。空間魔法もあるわ。そして一番希少価値が高いのが聖魔法なの」
「聖魔法ってなあに?」
「読んで字のごとくよ。聖なる魔法が使えるわ。この国では治癒や浄化、そして稀にだけれど魅了もあるわ」
治癒や浄化はなんとなくわかる。でも魅了って?
「彼女はね魅了を使って、第二王子や後ろにいる男性たちを虜にしているの」
「は?なにそれ。魅了って惚れ薬的な物?そんなの卑怯じゃない」
「そうなの。なのに、どういう訳かこの国では聖魔法の力の中に魅了がある事が認知されていない。私が何度か教会の神官を通して教えたのだけれど、いつの間にかなかった事になっている」
神をも凌駕する力が働いているって事?怖すぎない?
「彼女が落とした男性はね、皆、親がこの国の重鎮なの。黒髪のロザーリオ・マルケッティは公爵家で、父親が宰相よ。赤髪のオレステ・ロダートの父親は騎士団の団長。白髪のセヴェリン・フレゴリーニの父親は魔術師団の団長よ。第二王子は言わなくてもわかるわよね」
「王様ね」
「そう。セヴェリン・フレゴリーニ以外は皆、婚約者のいる身よ。皆、婚約者そっちのけで彼女を崇拝するの」
「ムカつくわね」
「でしょ。聖魔法の彼女はね、転生者よ。そして嘘つき。毎回、ありもしないデマをでっち上げてアレクサンドラを罠にかけるの。そして最終的にあの状況に陥れる」
「あのって今の?」
「そう。ありもしない罪で断罪されるのよ。そして、男たちに粗末な馬車に乗せられて国から追い出される。あのドレスの姿でよ。彼女は夜が明ける前に死んでしまうの」
「助けてあげられないの?」
「神である私には人の生死に、干渉は許されていない。だからその前に何か手を打とうとするのだけれど、何かの力に阻まれてしまう。後から大人たちが事実を知る事になるけれど、時すでに遅し。国王も、証拠がないのと自分の息子可愛さに、事件を揉み消してしまう」
ムカムカしてくる。
「その後、あいつらはどうしているの?」
「アレクサンドラの遺体だったものが見つかるのは大分先なの。森の奥深くまで行ってしまっているから。だから普通に過ごすわ。彼女はここから誰か一人に絞って行くの。運命の相手を決めるのよ」
酷すぎる。私が代わりに奴らをぶっ飛ばしたい。
「今、代わりにぶっ飛ばしたいって思ったでしょ」
「うん、思った」
神様がニッコリと笑った。