カップリング
14歳になった。
「よっしゃー!」
ラウリスたちと友人関係になってから早6年。今日もオレステを負かしている。
「はあ、どうしても上手く立ち回れない」
打ち付けた背中をさすりながら、オレステが首を傾げる。
オレステが茶会の席で体術の勝負をしようと言ったのは本気だった。剣の稽古もしているオレステはすっかり逞しくなった。ここ数年でぐっと背が伸びガタイがいい。ラウリスやロザーリオよりも一回り近く大きいのだ。
「オレステに組み手をされたら絶対に負けるからね。組まれる前に手を打つ。先手必勝よ」
「でも、組んでも一瞬で外されるじゃないか」
「組んですぐは外れるわ。問題なのは、寝技や絞め技に持ち込まれた時よ」
こんな体格差のあるオレステにそれをされたら、あっという間に死ぬ。
「アリーは一体、何を目指しているんだい?」
お茶を飲もうとテーブルへ着くと、ロザーリオに聞かれた。
「……何も目指してはいないけれど、そうね……剣の稽古も始めて、騎士にでもなる?」
軽い気持ちで言うと、オレステが悲痛な声を上げた。
「止めてくれ。俺の心労が半端ない気がする」
「あ、酷い」
横からも文句が来た。
「アリー、オレステを苛めないで」
チタだ。私が騎士になるのは、オレステを苛める事になるのか?
「チタが、すっかり私離れしてしまったわ」
チアに抱きつく。チタとオレステはすっかり公認カップルだ。学校に入る前に婚約する事になるだろう。
もしかして、あの時のオレステの婚約者は。そう考えることもあるが、答えは出ないので今は考えるのをやめている。
「アリー離れなんてしてないわよ」
慌ててチタも抱きついてきた。
「ふふ、嘘よ。チタとチアは、一生私の大事な親友だもの。おばあちゃんになっても三人でお茶会をするのよ」
「ふふふ、それとっても素敵ね」
チアが笑う。チタも笑った。
「その中には私たちは入っていないのか?」
ラウリスがつまらなそうに言う。
「入れてもいいけれど、奥様がそれを許してくれるのかって話じゃない?」
いくら友人関係だと言っても、自分の夫が他の女性たちと楽しそうにお茶会をする事を許す事は期待できない。
「俺は大丈夫だぞ。一緒に行くから」
オレステがニコニコと言う。
「僕も行きたい……出来ればチアと一緒に」
どさくさに紛れてロザーリオが告白した。皆の視線がロザーリオに集中する。
「まあ、本当に?嬉しいわ」
告白されたチアは可憐に微笑んだ。同性の私でもドキリとするほど美しい笑みだった。
ロザーリオがチアの前で跪く。
「フェリチア。初めて会った時からずっと美しいと思っていました。どうか私の婚約者に。そして大人になったら結婚してください」
陽に当たったロザーリオの黒髪が艶めいている。アイスブルーの瞳もキラキラだ。
「ありがとう、ロザーリオ。私も、ちゃんと私をわかってくれているあなたが好きよ」
ミルクティー色の長い髪が、ふわりと風になびく。ペリドットの瞳は、陽の光が反射して煌いていた。
二人の姿はキラキラしていて綺麗だった。
「あぶれたの、私とラウリスだけ?」
幸せ気分の真っ只中、現実が私の頭を打ち付けた。
「あぶれたって言うな。なんか凹む」
「そうね。言った私も凹んだわ」
二人で凹んでいると、ロザーリオといつの間にか手を握り合っていたチアが笑った。
「なら、お二人でカップルになってしまえばいいんじゃないかしら?」
ラウリスと顔を見合わせる。
「ないな。じゃじゃ馬を嫁にするのは大変そうだ」
「ムッ。私だって、自分より強い人がいいもの」
二人で言い合いながら笑った。
ラウリスの事は友人としては好きだ。だが、胸の奥深くで彼を拒絶する気持ちがあるのだ。それはそうだろう。これで婚約者にでもなってしまったら、再び殴らなければいけなくなってしまう。友人たちをボコるのは、流石に気が引ける。
「まあ、私は結婚自体するつもりないしね」
そう呟くと、どこから来たのか、一羽の鳥が頭上で羽ばたきながら囀り出した。