美しい二人
「アリー!」
私を見つけたチタとチアが走り寄ってきた。ラウリスたちもこちらへやって来る。
チタとチアに片方ずつ手を握られる。
「良かった。大丈夫だという事はわかっていたのだけれど、やっぱり心配で」
チタがウルウルしている。
「魔馬の件は心配していなかったけれど……この状況は予想外ね」
チアは二人を見上げている。
「やあ、君たちが噂のカンプラーニ家の双子のレディたちですね」
エンベルト殿下が爽やかな笑顔を向けた。二人はうっすらと頬を染めた。
『その気持ち、わかるよ』
美しい顔に微笑みを向けられるとそうなってしまうという事は、先程自分が体感した事だ。
「フェリチタ・カンプラーニでございます」
「フェリチア・カンプラーニでございます」
二人が挨拶をすると、エンベルト殿下も挨拶を返した。
「フェリチタ嬢とフェリチア嬢はアリーの友人なのですか?」
「はい、幼馴染です」
チアが答えるとエンベルト殿下が笑った。
「そうですか、それは楽しそうですね」
意外な言葉に二人は一瞬、言葉を失った。それでもすぐにとても嬉しそうな表情で「はい」と答えていた。
それからエンベルト殿下は、ラウリスの頭を優しく撫でた。
「すまなかったね。騒ぎを起こしてしまって」
「いいえ、兄様は大丈夫ですか?」
途端に弟の顔になったラウリスは、エンベルト殿下を気遣う。
「ふふ、私は大丈夫。アリーが見事に魔馬を止めましたから」
男三人が驚いた表情で私を見た。きっとエンベルト殿下が魔馬を止めたと思っていたのだろう。
「お集まりの皆様。この度は私の不注意で騒ぎを起こしてしまった事、本当に申し訳ありません。引き続き、こちらで楽しんで頂けたら嬉しく思います」
エンベルト殿下は、ホール全体に聞こえるように大きな声で挨拶をした。声変わりが始まっているのだろうか、少しハスキートーンだ。
後ろではお兄様も頭を下げていた。そんなお兄様に近づいたのはロザーリオだった。
「ジャンネス様、ジャンネス様も彼女が魔馬を止めた所を見たのですか?」
「私は残念ながら。ただ、アリーなら出来るのは間違いないですから」
こちらも美しい顔で微笑む。会場中の令嬢方は、先程から二人の男性に釘付け状態だ。
「エンベルト殿下、そろそろ参りませんと」
お兄様が真面目な顔に戻り、エンベルト殿下を呼んだ。
「そっか、そうだね。あの魔馬の治療をしないと。じゃあまたね、アリー」
「はい」
戻る間際、お兄様が私の前で膝を折る。
「帰りは?一緒に帰る?」
「お兄様が早く終わるならそうしたいな」
「わかった。そこの王子に後で掛け合おう」
「ふふ、ちゃんと聞こえていますよ」
エンベルト殿下が答えるが、丸っと無視をして私を抱きしめたお兄様。
「じゃあ、また後でね」
いつものように頬にキスをしてくれる。
「うん、またね」
私もキスを返した。
「チタとチアも。またいつでも遊びにおいで」
「はあい」
「ねえ、ジャン。今の羨ましいのだけれど」
そう言っているエンベルト殿下の背中を無理矢理押して、お兄様達はホールから去って行った。
パタリと音を立てて閉じた扉を暫く見つめる。最初に声を出したのはチタだった。
「私、エンベルト殿下を間近で見たの初めてよ。ジャン兄様に負けないくらい綺麗な人ね」
チタの言葉を切っ掛けに、会場中が二人の美しい男性の話でもちきりになった。
「ねえ、それよりも」
チアが私に向き直る。
「魔馬はどうだった?」
チアは魔馬の方に興味があるらしい。
「全身が赤くて鬣が金色だった。すっごく綺麗な子だったわ」
「そうなの?赤い身体の魔馬は見た事ないわ。で?どうして暴れていたの?」
「左のお尻の所にね、鞭で出来たような傷があったわ」
多分、躾とかではなく折檻されたのだろう。
「痛みのせいだったのね」
チアが沈痛な面持ちになる。私はチアの手を握った。
「でも大丈夫。大人しくなったし、エンベルト殿下が処分する事はないって言っていたから」
「それなら良かった。やっぱりアリーは凄いわね」
「どうして魔馬を止められたんだ?」
黙って話を聞いていたラウリスが話に入ってきた。