じゃじゃ馬でした
「し、知りませんわ。私が足を出したという証拠でもありますの?」
思いっきり動揺している。これではやったと言っているようなものだ。
「ふふ、犯人って分が悪くなると証拠を出せって言うわよねぇ。ちょっと失礼」
テーブルを拝借して皿を置く。そして令嬢の二の腕を掴んで無理矢理立たせた。
「ちょっと!痛いじゃない!」
文句を言っている彼女を無視して、しゃがみ込みドレスの裾をまくる。
「何するのよ!?」
ヒステリックに叫ぶ彼女の頭を、下に向けさせた。
「これは?」
彼女の右足の甲には、しっかりと私が付けた足跡が付いていた。
「そ、そ、それは」
言い淀む令嬢と、もう一人の令嬢を交互に見る。
「どうせ殿下たちが私たちの席に座ってしまった事が悔しかったのでしょう。その気持ちはわからないでもないわ。だけれど、文句があるなら直接口で言えばいいでしょう。足をかけるなんて卑怯者のする事よ。
しかも、一度だけなら私は笑って見過ごしていたわ。許せなかったのは二度目よ。あなた方わかっているの?私はたくさんのスイーツを皿に盛っていた。もし転んでしまったら、全てがゴミになってしまうのよ。作ってくれた人にも、食材にも失礼だわ!」
「本当にな」
そう言って、私の手を取ったのは王子だった。赤髪は、テーブルに置いた皿を取ってくれる。
「彼女の言う通りだ。あの席に座ったのはあくまでも私の意志。文句があるのなら私に直接言って欲しい。それと、初めて見る令嬢だからと舐めてかかっているようだが、彼女は公爵家筆頭の令嬢だ」
それだけ言うと、王子は私をエスコートして席に戻る。
「ねえ、最後の脅しはいらないんじゃない?」
「あのくらい言っておかないと、ああいう事をする女は、再び同じような事をする」
「あら?意外とわかっているのね」
「ああ、ヴィストリアーノ嬢が、とんだじゃじゃ馬だったというのは見誤ったけどな」
「ふふ、騙せていたようね」
「ああ、すっかり」
私たちは笑った。
「流石アリー。私だったら絶対に転んでいたわ」
チタが感心する。
「アリーにはあんな攻撃なんて、攻撃のうちに入らないわよね」
チアも笑う。
「ヴィストリアーノ嬢は運動神経がいいみたいだな。2度とも、華麗に避けるどころかしっかり踏んでたもんな」
「ふふ、動体視力も瞬発力もその辺の男性には負けないわ」
「いいね、今度俺と体術勝負しないか?」
「いいわよ。負けても泣かないでね」
「言ったな」
「ジャンネス様も強いですが、ヴィストリアーノ嬢も強いのですね。私はどんなに鍛えても筋肉が付かなくて……強くなれるのが羨ましい」
「私、別に筋骨隆々じゃないわよ」
「え?」
「ほら」
袖を捲って腕をさらけ出す。
「別にどこにも筋肉なんてないでしょ」
黒髪が真っ赤になっている。
「おい!はしたない事をするな!」
王子が私の腕を掴んで、袖を元に戻した。
「別に腕なんて平気じゃない。もっと暑い季節には袖の短い服装になるでしょ」
「そういう問題じゃない……はあぁ、本当にとんだじゃじゃ馬だな」
双子は笑い転げている。
それからも六人で、色々な話をした。
「なあ、せっかく仲良くなったのだから、名前で呼び合わないか?私の事はラウリスでいい」
ラウリス殿下が提案する。
「敬称無しで呼ぶの?」
「じゃじゃ馬でもそこを気にするのか?」
「一応ね。不敬って後から言わない?」
「はは、言わないよ」
「わかったわ。じゃあ私の事はアリーと呼んで」
ニッコリと笑顔で言うと、大きく溜息を吐くラウリス。
「その笑顔だけ見たら、深窓の令嬢って思ってもおかしくないよな」
「確かに。目を見張るほど美しいですよね」
チタとチアの時といい、ロザーリオは素直に誉める人のようだ。
「ふふ、ありがとう。ロザーリオ」
笑顔で返事をした時だった。
「た、た、大変です!」
茶会の会場である中庭の警護をしていた近衛騎士が、大きな声を上げた。