表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

童話

夜空の映画館

作者: 碧衣 奈美

「あれぇ? おっかしいなぁ。どこにおいたっけ」

 ぼくは自分の部屋のあちこちをひっくり返し、さがしものをしていた。

 ふかふかで暖かい、空色のコート。母さんが編んでくれた毛糸のぼうしにてぶくろ。それにマフラー。

 これなら、今日みたいに雪のふってる寒い夜だってへーき。

 うん、そこまではいいんだ。全部身につけて、いつだって出かけられる。

 でも、もう一つ、大切なものがみつからない。

 コンコン

 ぼくの家の玄関のドアを、だれかが叩く音。

「あ、もうそんな時間? はーい。今、行くよ」

 ぼくは元気よく返事をした。

 それから、急いで玄関へ走って行く。外には友達が待ってるはずだから。

 もっとも、待たせたって、みんな寒さなんてぜんぜん気にしない。

 もしかしたら、寒いっていう感覚も、知らないんじゃないかしら。

「お待たせ」

 ぼくはドアを開ける。そこには友達が待っていた。

 みんな、真っ白な体に、色とりどりのマフラーやぼうしをつけてる。

 だけど、これはぼくみたいに寒さをふせぐためじゃなくって、飾りなんだ。

 だって雪だるまに、ぼーかんぐ、なんていらないもんね。

 そう、ぼくを迎えに来てくれたのは、三人の雪だるま。

 あ、人じゃないから三体って言うべきなのかな。

「やあ。早く行こう。みんな、待ってるよ」

「うん……。でも、チケットをどこに置いたか、わすれちゃって」

 今夜、ぼく達は映画をみに行くんだ。

 それなのに、ぼくときたらチケットをどこにしまったのか忘れちゃった。

 だから、さっきからずっと部屋の中をさがしていたんだ。

 でも、見付からない。どうしよう、もう映画が始まっちゃうよ。

 そんなぼくを見て、雪だるま達はくすくすと笑った。

「もう、忘れんぼさんだなぁ、きみは」

「え?」

 ひとりの雪だるまが、かぶっていた赤いぼうしを取った。そこに手を突っ込むと、紙が出てくる。映画のチケットだ。

「忘れちゃうかも知れないから、ぼくに持っていてって言ったじゃないか」

「あ、そうか」

 そうだ、そうだったんだ。

 ぼくはちょっと忘れんぼで、さっきみたいに何かをさがすことがよくあるんだ。

 それを知っている雪だるまが、持っていてあげようかって言ってくれたから、お願いしたんだ。

 それをすっかり忘れちゃって、ぼくはどこにもない映画のチケットをずっとさがしちゃって。

「あー、よかったぁ。もう行けないかと思っちゃった」

「さぁ、早く行こう」

 雪だるま達が言い、みんなでエア・カーに乗り込む。

 ぼくはまだ小さいから、この空飛ぶ車を運転できないんだ。

 だから、雪だるまにおまかせ。ぼくは後ろに乗り込んだ。

 車が動き出す。はやく飛ぶと、ゆっくり降ってるはずの雪がまるでふぶきみたいだ。

 下を見ると、まちの灯りがキラキラしてて、とってもきれい。

 ぼく、映画館にはまだ行ったことがないんだ。それに、今夜、どんな映画をするか、ぼくは知らないの。

 となりに座ってる雪だるまに聞いたっていいんだけど、それじゃあ、楽しみがなくなっちゃうもんね。

 車はまちを抜けて、丘へ来た。ここからまちを見渡せるんだ。

 やっぱりきれいだな。でも、これから始まる映画はもっときれいなはずなんだ。

 丘には、友達の雪だるまを連れたぼくの友達もたくさん来ている。

 目が合うとお互いに手を振った。

 ここにははきっと、人より雪だるまの方がたくさんいるかも。

 みんな、ぼくと一緒に来た雪だるまと同じように、カラフルなマフラーやぼうしをつけてる。

 うん。とってもかわいい。

 とっても大きな機械の周りに、雪だるま達があつまっているのが見えた。

「あれ、なあに?」

 ぼくは近くにいた雪だるまに聞いてみた。

「あれは映写機だよ」

 ふぅん、とぼくはうなずいた。でも、ちょっとよくわかんない。

 だって、ぼくはエーシャキなんて知らないんだもの。でもたぶん、あれで映画がみられるんだな。

「やあ、ようこそ、坊や」

 とっても大きな雪だるまが、ぼくの頭をポンポンってたたきながらあいさつしてくれた。

「よしよし、暖かそうな格好をしてきたね。さあ、これから始まるよ。好きな場所に座って」

 大きな雪だるまはそう言うと、エーシャキの方へ行った。

「ねぇ、どこで映画があるの?」

 ぼくはわからなくってキョロキョロした。

 だって、さっきも言ったけど、ぼくは映画館って来たことないんだもの。

「ほらほら、あそこ」

 となりにいる雪だるまが教えてくれた方を見た。

 いつの間にか雪はやんでいて、晴れた空にやさしそうなおじさんが手を振ってる。

 そっか、映画は空にうつるんだ。

 空のおじさんが手を振ったのを見て、ぼくも雪だるま達も一緒に手を振った。

 そして、映画は始まったんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] すっごくほのぼのしました! チケットあって良かったですね。
2023/04/26 16:55 退会済み
管理
[一言] 違う仕事をしていると「やらないと!」と直前まで覚えていた仕事を忘れる。 しょっちゅうそれをしでかしている私は、主人公君の物忘れに共感できました。 忘れること前提でフォローを用意しておくと安心…
[一言] 忘れ物をしないように誰かに預けたのに、それ自体を忘れてしまう……あるあるですよね! 忘れっぽい場合は、リマインダーを外部にセットしておくのが安全なんですよね。 私はかつて、会社の上司(同性…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ