夜空の映画館
「あれぇ? おっかしいなぁ。どこにおいたっけ」
ぼくは自分の部屋のあちこちをひっくり返し、さがしものをしていた。
ふかふかで暖かい、空色のコート。母さんが編んでくれた毛糸のぼうしにてぶくろ。それにマフラー。
これなら、今日みたいに雪のふってる寒い夜だってへーき。
うん、そこまではいいんだ。全部身につけて、いつだって出かけられる。
でも、もう一つ、大切なものがみつからない。
コンコン
ぼくの家の玄関のドアを、だれかが叩く音。
「あ、もうそんな時間? はーい。今、行くよ」
ぼくは元気よく返事をした。
それから、急いで玄関へ走って行く。外には友達が待ってるはずだから。
もっとも、待たせたって、みんな寒さなんてぜんぜん気にしない。
もしかしたら、寒いっていう感覚も、知らないんじゃないかしら。
「お待たせ」
ぼくはドアを開ける。そこには友達が待っていた。
みんな、真っ白な体に、色とりどりのマフラーやぼうしをつけてる。
だけど、これはぼくみたいに寒さをふせぐためじゃなくって、飾りなんだ。
だって雪だるまに、ぼーかんぐ、なんていらないもんね。
そう、ぼくを迎えに来てくれたのは、三人の雪だるま。
あ、人じゃないから三体って言うべきなのかな。
「やあ。早く行こう。みんな、待ってるよ」
「うん……。でも、チケットをどこに置いたか、わすれちゃって」
今夜、ぼく達は映画をみに行くんだ。
それなのに、ぼくときたらチケットをどこにしまったのか忘れちゃった。
だから、さっきからずっと部屋の中をさがしていたんだ。
でも、見付からない。どうしよう、もう映画が始まっちゃうよ。
そんなぼくを見て、雪だるま達はくすくすと笑った。
「もう、忘れんぼさんだなぁ、きみは」
「え?」
ひとりの雪だるまが、かぶっていた赤いぼうしを取った。そこに手を突っ込むと、紙が出てくる。映画のチケットだ。
「忘れちゃうかも知れないから、ぼくに持っていてって言ったじゃないか」
「あ、そうか」
そうだ、そうだったんだ。
ぼくはちょっと忘れんぼで、さっきみたいに何かをさがすことがよくあるんだ。
それを知っている雪だるまが、持っていてあげようかって言ってくれたから、お願いしたんだ。
それをすっかり忘れちゃって、ぼくはどこにもない映画のチケットをずっとさがしちゃって。
「あー、よかったぁ。もう行けないかと思っちゃった」
「さぁ、早く行こう」
雪だるま達が言い、みんなでエア・カーに乗り込む。
ぼくはまだ小さいから、この空飛ぶ車を運転できないんだ。
だから、雪だるまにおまかせ。ぼくは後ろに乗り込んだ。
車が動き出す。はやく飛ぶと、ゆっくり降ってるはずの雪がまるでふぶきみたいだ。
下を見ると、まちの灯りがキラキラしてて、とってもきれい。
ぼく、映画館にはまだ行ったことがないんだ。それに、今夜、どんな映画をするか、ぼくは知らないの。
となりに座ってる雪だるまに聞いたっていいんだけど、それじゃあ、楽しみがなくなっちゃうもんね。
車はまちを抜けて、丘へ来た。ここからまちを見渡せるんだ。
やっぱりきれいだな。でも、これから始まる映画はもっときれいなはずなんだ。
丘には、友達の雪だるまを連れたぼくの友達もたくさん来ている。
目が合うとお互いに手を振った。
ここにははきっと、人より雪だるまの方がたくさんいるかも。
みんな、ぼくと一緒に来た雪だるまと同じように、カラフルなマフラーやぼうしをつけてる。
うん。とってもかわいい。
とっても大きな機械の周りに、雪だるま達があつまっているのが見えた。
「あれ、なあに?」
ぼくは近くにいた雪だるまに聞いてみた。
「あれは映写機だよ」
ふぅん、とぼくはうなずいた。でも、ちょっとよくわかんない。
だって、ぼくはエーシャキなんて知らないんだもの。でもたぶん、あれで映画がみられるんだな。
「やあ、ようこそ、坊や」
とっても大きな雪だるまが、ぼくの頭をポンポンってたたきながらあいさつしてくれた。
「よしよし、暖かそうな格好をしてきたね。さあ、これから始まるよ。好きな場所に座って」
大きな雪だるまはそう言うと、エーシャキの方へ行った。
「ねぇ、どこで映画があるの?」
ぼくはわからなくってキョロキョロした。
だって、さっきも言ったけど、ぼくは映画館って来たことないんだもの。
「ほらほら、あそこ」
となりにいる雪だるまが教えてくれた方を見た。
いつの間にか雪はやんでいて、晴れた空にやさしそうなおじさんが手を振ってる。
そっか、映画は空にうつるんだ。
空のおじさんが手を振ったのを見て、ぼくも雪だるま達も一緒に手を振った。
そして、映画は始まったんだ。