6話.賢獣の卵1
ヒロイン枠の登場です。
本日もよろしくお願いします。
6話.賢獣の卵1
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「そういえば忘れてた!」
階層管理者からもらった賢獣の卵の存在。
「確か魔力を多く籠めたら、それだけイメージ通りの姿になるんだったよな?」
じっくりと賢獣の卵を見つめる。
「やっぱり希少な卵なんかな?そうだとしたら、良く考えないと。一つしかないんだし。確かファンタジー系の図鑑を収納してたよな?」
ストレージ内にあるゲームの本などを引っ張り出し、あーでもないこーでもないと思考を巡らせる。そこで根本的なことを思いつく。
「複製出来るんじゃね?」
今日は魔力は使っていないため、満タン状態だ。もしかしてという想いも込めて賢獣の卵を複製してみる。
「ぐぉぉぉお。。。」
一気に全ての魔力を持って行かれ、ソファーに倒れ込んでしまった。
「あかん、無理。この倦怠感。」
結局、魔力が空になってしまったため、自然回復を待つしかなく、昼までぼぉーとしながら過ごした。
そして、やっと動けるようになった後、昼ごはんに某有名ラーメン店の透き通ったスープが売りの塩ラーメンと餃子、チャーハンを食べながら、まだはっきりしない頭で考える。
「複製は出来なかったけど、体感では出来そうな気がするんだよなー。もう少し魔石を育ててみるか。」
結局その日は魔石の総量を増やすため、時間加速を使って魔力を回復させた後、その全魔力を使って加速率を最大に引き上げ、魔石を育てることにした。
翌日、総量を増やした俺は、改めて賢獣の卵の複製にトライしてみる。
「ぐぉぉぉお。。。」
前回と同じようにあり得ない量の魔力を一気に流れ始めたが、総量の3割くらいの魔力が減った辺りで踏みとどまった。
「複製出来ちゃったよ。。。」
まだ7割くらい魔力が残っているので、あと1つ複製。
「今日は打ち止め~。」
また魔力を回復させつつ魔石の総量を増やすことにする。
「さて、卵を孵すのは明日にして、今日は何しよう?たまには時間の掛かる料理でも作ってみるか。」
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「魔力も満タン。イメージも固まった。とりあえず今日は一つ孵そう。」
そっと賢獣の卵を持つ。
「俺には仲間が居ない。絶対的な味方が欲しい。賢獣の卵よ。俺のイメージを組み取って、顕現せよ!」
魔力枯渇になる寸前まで魔力を一気に注ぎ込む。フラフラになりながらも何とか成功したようで安心する。
賢獣の卵を落とさないように、絨毯の上に置いて静かに見守っていると、卵の外殻がぼんやりと光り始めたかと思うと、輪郭が滲むように不確かな形状を取り始め段々と光量が増していく。
「そもそも賢獣って獣の姿しかダメって決まりはないよな?」
現れた賢獣は、見事な黒髪を靡かせた女性だった。
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一糸纏わぬその姿は、神々しさも感じる程の造形美だ。しかし、のんびりとスローライフを楽しんでいたとはいえ、1ヶ月以上も禁欲生活をしていた俺には、少々目の得……ではなく、目の毒だ。近くにあったバスローブを後ろから羽織らせる。
「えっと、言葉は話せるのかな?」
何も喋らず、じっと見つめているため耐えきれなくなって、思わず声を掛けた。
「……はい、主様。孵して頂き、ありがとうございます。この命、世界に返るまで主様のためだけに生きることを誓います。」
「いきなり重いな!賢獣ってそんなにお固いの?」
「…あの、主様?つかぬ事をお伺いいたしますが、顕現させるための魔力はどこから調達したのでしょうか?お近くに補完用の魔石もございませんし、術式も見当たらないのですが?」
「ん?俺の魔力だけで孵したんだけど、どうかした?」
「!!!」
驚愕の表情のままフリーズして「あり得ない」と小さく呟いた後、怒涛の様に詰め寄ってきた。
「主様!いったいどれだけの魔力を注ぎ込んだか解かっておいでですか?!
本来、賢獣とは主様の半身とも云うべき存在です!云わば一心同体!!魔石も分け与える形となるため“総魔力量”も減ってしまうんですよ?
注ぎ込んだ分は未来永劫、回復もしないって事なんです!何て事したんですか!今の主様は魔力の無い一般人となってしまったってことなんですよ?!事態の大きさが解かってます?!!」
メチャクチャ怒られてる。。。
「い、いや、でもまた育てれば増えるし…」
「でもじゃありません!魔石を育てるのにいったいどれだけの時間と労力が掛かると思ってるんですか!10年単位で頑張って育てたって、階位は低いままってレベルなんですよ!」
「え?そうなの?」
「そうなんですー!それにこの、あり得ないほど注ぎ込まれた魔力量!いったい何万年の時を経て育てた魔力なんですか?全てに於いて、常識外れです!」
「だって魔石もらってから、まだ1ヶ月半くらいだし。常識なんて言われても。。。」
「……え゛?」
また驚愕の表情でフリーズした賢獣に、この世界に来ることになった経緯を話し、常識のない理由も伝えた。
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「理解には至りませんが、主様がおっしゃるのですから納得いたします。いずれにせよ、私は主様の賢獣です。主様の盾となり御身をお守りいたします。」
「うん、それについては宜しく頼む。」
「それにしても、このトレーラーハウスとは不思議な建物ですね。知識にある建築物とは一線を画しております。
真名を頂戴出来れば、主様の知識も下賜されるのですが…。」
「真名?」
「あぁ、そうでございました。主様はこちらの世界に来たばかり。知らなくても当然でした。賢獣は顕現する際、魔力を注ぎ込まれた分だけ、顕現時に世界の知識を吸収できるのでございます。
それと同時に主様に真名…、お名前をいただくことで真の繋がりを持つことが出来、知識の下賜もなされるのです。」
「名前もそうだけど、とりあえず服を着ようか。」
ストレージから適当に、無地で厚手のTシャツとカーゴパンツ、合いそうな下着をサイズ別に数種類。ブラについては着け方の説明が面倒臭かった。もっとも名付けしたら問題解決することにあとから気づいた。
「それでは名付けをお願いいたします。」
「希望とかある?」
「どのような御名でも。」
「ポチとかクズとかビッチでも?」
「どのような御名でも。」
冗談が通じない賢獣のようだ。
「…終焉。普段はエンと呼ぶ。意味は【俺にとっての敵】に対して、終わりを告げる者って感じ?」
名前を決めたとたん、エンの身体が仄かに光った。問題無く名付けは終わったようだ。
「…ありがたく拝命いたします。あ、とりあえずブラを付け替えてきますね。」
ん?……あ!知識を共有したからか。拙い説明ですまん。流石に手取り足取り教えることが出来んかった。
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すったもんだがあったが、エンという賢獣を得た。でも自衛手段でもある魔法が使えなくなった。
まあ時間加速を使い続ければ少しの期間で復活は出来るので、あんまり心配はしていないが。
この魔力が満ち溢れた世界であれば、格段の速さで復活できるはずだろう。
「とりあえず魔石が育つまでのんびりと過ごすつもりだから、エンも自分で出来ることを確認したりして過ごしてくれ。」
「承知いたしました。」
「それと賢獣って食事は?魔力で補うとか?俺と同じようなもの食べれる?まさか魔獣??」
「もちろん魔力で補えば食することもなく生きることは出来ますよ。もっとも主様の知識を頂きましたし、趣味嗜好として興味は多分にございますので、もしよろしければ、その。。。」
歯切れが悪いが食べたいということだろう。
「一人で食べるより二人の方が華やかになるしな。よし、これから朝ごはんにするから一緒に食べよう。好き嫌いは…、まだ分からないか。とりあえず今日は和食にしよう。」
「はい!」
嬉しそうに返事をするエン。今日は某牛丼チェーン店の朝食セットでいいだろう。ポンッポンッとテーブルの前に現れる朝食セットに「これは創作魔法?」や「準備いらず」「私の立場は…」「料理を勉強する気概が」など呟いていたが、聞こえないふりをした。
賢獣の卵は複製しましたので次回は…