L―1
今、私、夏腹鈴16 歳は、大人の階段を登ろうとしていた。
唇に触れるそれをドキドキしながら
おしりまである自慢の銀色のポニーテールを震わしながら
ゆっくりとそれを受け入れた。
「苦い!」
私はコーヒーカップを
まるで裁判官の木槌の如く置き
開口一番そう叫んだ。
「ほら、克服するんでしょ」
ソファで悶えてる私に風姉は言う
出来立てのコーヒーの水溜まりを拭きながら。
「風姉は何か克服したいことないの?」
私は、コーヒーから目を鼻を口を話題を逸らして言う
しかし目と鼻は逸らせなかったようだ、なぜなら
眼鏡にもコーヒーがついていたのだから。
「克服ねぇ、怖い物はないねぇ」
怖い物を聞いて
それを押し付けようとした
私の考えは甘かったようだ。
「ねぇ、鈴」
「何? 風姉」
眼鏡を拭き終えかけ直し、風姉を見た
風姉は、前髪をかきあげながら
顎を上げ、まるで見下すような顔で言った。
「風鈴姉妹の絆が壊れるのが怖いかなぁ」
それは、怖いの部類が違うだろと
克服するタイプの恐怖ではないだろうとそう思った。
「風鈴姉妹か……」
それは、懐かしい響きだった
亡き両親とヒーローごっこをした時に
使っていたチーム名だ。
最強最高最勝の正義の味方風鈴姉妹
今思えばなんと長い名前だろう
しかし当時は誇りに思ってた。
一方両親のチーム名は
破壊大好き怪獣軍団であった。
私と風姉は血が繋がっていない…
私が産まれる前に両親が養子として
引き取ったらしい。
母親は死に父親は行方知れず、
誰もいない家の中
1人で泣いていたという。
近くには恐らく父親であろう字で、
母親は死神に殺されたと書かれた紙があったらしい。
死神……私にはその言葉が重く感じる
何故なら、私は死神なのだから
3年前まで私は人として生きていた
いや、人と思い込んで生きていた
自分自身が1人の人ではなく
1匹の化け物と自覚した日を私は忘れない。