#27 空間を司る神
「気づいてたのか、スピラ」
「まぁね。これでも一応神様やってるから」
振り返るとさっきテレビで見かけた姿がそのままそこにいた。
よれよれの服にボロいマント。短く切った髪に黒眼鏡をつけた顔はニコニコと人の良さそうな雰囲気を醸しだしている。
もちろんこれは人族に紛れるための変装だ。
【神級会議】ではちゃんとした服装をしてくる。
しかし、人族を眺める事を趣味としているこいつは、俺のようにある程度の仲になったら正装で訪問することをやめ、そのままの格好でやってくるようになるのだ。
「また勝手に入ってきやがって……」
その上こいつは【空間を司る神】だ。許可もなしに他人のプライバシーエリアに不法侵入し放題。
まったく、こいつは礼儀をどこに置いてきたのだろうか。
「いいだろう? 僕と君の仲じゃないか」
「まだ十数回しか会った記憶がないんだが」
「それだけ僕と君の相性が会ってるってことだね!」
こちらにキランッとウインクを送ってくるがそれを華麗に避ける。
「すまん。タイプじゃない」
「僕も君はギリギリタイプじゃないなー」
ちなみに、こいつ一人称が“僕”な上に髪もショートで、身体に凹凸が無いが一応女性である。
そしてショタコンである。もう一度言おう、ショタコンである。
さっきテレビでみた、子供達を眺めている姿も、知っている人が見れば無邪気な男の子を見てウハウハしてる危険な絵にしか見えない。
「僕のストライクゾーンは5から14。最大でも18まで。君は何歳だっけ?」
「千以上」
「ハイアウト〜」
ビシッとこちらを指差して言うその姿に俺はイラつきを覚えたが、広い心で許してあげる。
「顔はタイプなんだけどねー。歳上は無理。後、正体が蝉っていうのがね」
「うるせぇ。完全人化があるんだからいいだろ」
そう、こいつは俺が蝉だと知っていて、【貪欲】の欠点も理解してくれている数少ない友人だ。
会った回数は少ないが、その中でもいい関係を築けていると俺は思っている。
ショタコンでも根はいい奴だからな。
スピラと初めて会った時、敵だと感じているはずなのに普通に接してくれた。
スピラ曰く、君に会った記憶がないのに敵と断言する訳ないとのこと。
俺の場合本当に信用されるためには他人と比べてマイナスからのスタートで信頼関係を築かないといけないから、こう言ってくれる奴は大変貴重で大切でありがたい存在なのだ。
「それで、どうしてお前はあそこにいたんだ」
「いや、噂の勇者君に会って見たくてね」
「コウスケに? あいつ顔は大人っぽいぞ?」
「へぇ、会ったことあるの? それとも趣味の覗きで?」
「今、色々あってあいつらと一緒のパーティーにいるんだ。それと覗きは趣味じゃない」
ただ暇な時に下界を眺めているだけだ。そう言うとスピラは目を細くしてこちらを見てきた。
「なんだよ」
「……君はよく僕に“プライベート侵略神”とかいってくるけど、君も大概だよね。第一空間魔法なんてどうやって覚えたんだか」
別に難しいこともなかったぞ。
コツは空間というものをわかりやすくするために10×10×10の立方体が連なっていることを想像すること。
最初の頃は眼鏡に描いたり、透明なブロックを使ったりして想像力を高めた。
そんなこんなで結局習得にかかった時間は……
「だいたい40年頑張った」
「エグ……流石不死身」
正しく言うと不死身ではないのだけれど、わざわざそこに引っかかるような面倒なことはしない。
スピラが俺から少し後ずさったのが気になるが。
普通、生き物には自分の得意不得意がある。魔法、スキルなんかもそうだ。
例えば火の魔法が得意な体質に生まれた人が火系統の魔法の習得するのに1年かかったとして、その人が水系統の魔法を習得するには20年以上かかってしまう。これは参考までの数値ではあるが、それでも習得にかかる時間は少なくとも10倍はかかると言われている。
これが魔法の得意不得意。
だから普通自分の苦手な系統の魔法は習得しようとしない。なぜならそんなことに四苦八苦するよりも、得意な方を伸ばした方が早く火力をあげることができるから。
しかし俺は寿命がないと言っても差し違えないぐらい長生きだ。その上欲しいものは手に入れないとストレスがたまっていく体質……というか称号なんでね。
俺は苦手だとしても、何年かかったとしても、それを習得するまで諦めない。というか諦められない。
満足ゲージの減りが早くなってしまうストレスは、俺にとって何よりも強大な敵なのだ。
「それで? 君はなんで勇者君と旅をしているんだい?」
こいつは信用できない奴じゃない。
事の始まりから今の現状まで包み隠さず話した。
「……――ふぅん、そんなことがねぇ」
「だから今ちょっと思い悩んでいるというかなんというかだな」
「……別に思い悩むようなことなくない?」
「はぁ……?」
どういうことだ。
「だって君、おかしいよ?」
「お前な、人が真剣に悩んでいるってのに……」
「だから真剣に悩んでいることがおかしいって言っているんだよ」
真剣に悩むことがおかしいだと? 余計分からん。
「そんなこともわからないの? 君は何歳だっけ?」
「だから千歳……」
「なんでそんなに長く生きているのにこんな簡単なことに気がつかないのさ」
スピラはやれやれといった様子で両手の掌を上に向けて首を振った。
「君はその【防護術士】ちゃんに恋してるんだよ」
「………………恋? 俺が?」
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