魔法のステージ
気がつくと、おかしの国にいた。
「ねえ、ポチ。本当に歌うだけでお願いがかなうの?」
「うん。歌にはふしぎな力が宿ってるんだ」
ポチは言った。
「だから、楽しい歌やキレイな歌を聞くと楽しい気持ちになれるし、ヘタな歌を聞くと気分が悪くなるんだ、君も知っているだろう?」
「……うん」
安倍さんにはごめんなさいだけど、ポチの言うことはスゴくよくわかる。
「神さまは楽しい気持ちになるのが大好きなんだ」
うんうん。わたしも楽しい気持ちになるのは好きだ。
「だから魔法のステージで楽しいライブをすると、神さまが魔力をくれるんだ」
「魔力って?」
「人間や神さまのうれしい気持ちや、楽しい気持ちが集まって、かたまったものだよ。魔法を使うために使うんだ」
「おもしろそう!」
楽しい気持ちを集めると、魔法を使えるんだ!
それって、なんだかステキ!
「その魔力を使って、テスカトリポカに願いをかなえてもらえるんだ」
「そのトリ……って、なに?」
「テスカトリポカ。すっごくエラい神さまだよ」
「そうなんだ」
ポチがバカにしたみたいな目で見てきたから、ちょっとにらむ。
「ってことは、神さまの前で歌えば、何でもお願いがかなう魔法が使えるの?」
ステージで歌って神さまを楽しませると魔力がもらえて、それをトリ……なんとかさんが魔法にしてくれるんだもんね。
「まあ、だいぶ話をはしょると、そうなるね」
「そっか! 楽しそう!」
わたしは思わず笑う。
「それじゃ、ステージへの行き方は――」
「へへーん、知ってるよーだ! この前、行ったことあるじゃない」
ポチが知ってることを言おうとしたから、あたしはとくいそうに笑った。でも、
「それより、もっと便利な行き方があるんだよ」
「便利な?」
ポチも、とくいそうに笑った。
「【白昼夢の世界】は魔法の世界だから、行きたい場所を強く願えば行けるんだ」
「そうなの!? スゴイ!」
ポチに言い返せなかったのはくやしいけど、こっちの行きかたの方がステキ!
だから目をつむって、ケーキの形をしたステージを心に思いうかべる。
「わたしたちを、魔法のステージに連れてってっ!」
パステル色のお空に向かって、さけぶ。
すると、目の前が真っ白に光った。
気がつくと、わたしはステージのまん中にいた。
大きな、大きなケーキの形をしたステージだ。
ほんのりバニラエッセンスの甘いかおりがする。
ステージのまわりには、たくさんの神さまがいて、おうえんしてくれている。
ほんとうにアイドルになったみたいでステキ!
そんなわたしも、いつの間にか、おかしのドレスに着がえていた。
キレイなたまご色の、なめらかプリンのドレスだ。
ストラップのシロネンちゃんと、ちょっとにている。
長いそでとすその先は、こい茶色のカラメル。
すそにはクリームみたいな白いフリルがついている。
すそと同じカラメル色のブーツをはいていて、なんだか大人になった気分。
ブーツにはサクランボのかざりがついている。
頭にはイチゴのリボンが乗っている。
おひめさまになったみたいな気がして、思わずクルッとひとまわり。
すると、ステージの前に、3人の大きなネコの神さまがあらわれた。
「あれがテスカトリポカだよ」
ポチが言った。
「リーダーのテスカトリポカと、ケツァルコアトル、シペ・トテック」
「はじめまして、えっと……神さまたち!」
わたしは、ゾマみたいに可愛らしくおじぎをする。
すると、ネコの神さまたちもニッコリ笑ってくれた。
「ライブで他の神さまから魔力をもらって、あの神さまにお願いをするんだ。あの4人……いや3人なら、たいていの願いをかなえられるからね」
「あ、言いなおした。いつもは4人なの?」
「そんなことはどうでもいいんだ! それより歌える? きんちょうしてない?」
「うん、だいじょうぶ!」
心配してくれるポチに答えて、ステージのまわりの神さまに手をふる。
動物の頭の神さまや、キラキラ光る神さまが、手をふり返してくれた。
ほんとうは、ちょっときんちょうしてる。
けど、それよりワクワクして、楽しい気持ち!
さくらちゃんの願いを、わたしがかなえちゃった!
「そなたが、この魔法のステージでライブをする、新たな魔法のアイドルか」
「期待しておるぞ。われらに、楽しい歌を聞かせておくれ」
ネコの神さまたちも、おうえんしてくれる。
みんなのおうえんに答えるためにも、がんばって歌わなきゃ!
「はい!」
わたしは元気に答える。
すると、わたしの手の中に、イチゴの形のマイクがあらわれた。
わぁ! かわいい!
ステージのまわりに乗っているイチゴたちが光って、わたしを照らす。
スポットライトだったんだ!
そして、どこからともなく音楽が流れ出した。
わたしが歌おうとしていた【シロネン】の曲だ。
――たいくつな、にちじょうも、ファンタジーととなりあわせ♪
――うつむいた、しせん上げたら、魔法の世界は、そこにあるよ♪
曲に合わせて歌う。
神さまたちは、飛び上がってよろこんでくれる。
だから、わたしも思わずニッコリ笑う。
――すりへったクレヨンを杖にして、流れる雲をおともにして♪
――ぼうけんに出かけよう♪
――苦しいことも、大変なことも、いっぱいあるけれど♪
――くじけないでね、おそれないでね、前を向いて進もう♪
歌いながら思い出す。
お兄ちゃんといっしょに食べたチョコレートケーキの甘さ。
病気だったわたしのために、お兄ちゃんが買ってきてくれたケーキ。
お兄ちゃん、今はもう、わたしは元気だよ!
そんな想いを、歌にこめる。
――勇者様なんていなくったって平気♪
――夢を広げたキャンパスに、魔法の杖をひとふりすれば♪
――どんな願いだって、かなうから♪
お兄ちゃんは、みんなのヒーローになりたいって言っていた。
それなら、わたしはさくらちゃんみたいに、みんなのアイドルになりたい。
わたしが魔法の世界でアイドルになったって言ったら、お兄ちゃんはビックリするかな? 喜んでくれるかな?
――キケンなモンスターだって、楽しいイベントに早変わり♪
――ウサギとおしゃべり♪
――子ネコとおひるね♪
――小鳥に乗って空のおさんぽ♪
――ここはステキな、ぼうけんの世界♪
最後にポーズを決める。
すると、ステージがよろこびの声につつまれた。
神さまたちは、こうふんしてピョンピョン、ピョンピョン飛びはねている。
そんな神さまたちの中から、キラキラした光があらわれる。
いっぱいの神さまたちの、いっぱいの光は、わたしめがけて飛んでくる。
「わっ! なにあれ!?」
「あれが魔力だよ」
ポチが答える。
そっか。神さまたちを楽しい気持ちにしたから、魔力をもらえたんだ。
「チカちゃん、その魔力で何をお願いするの?」
ポチはたずねた。
その答えは、もう決まってるんだ。
わたしは、大きな声で神さまにお願いをする。
「お兄ちゃんに会いたいな! ちょっとの間でいいから!」
「今のライブでたまった魔力なら、できるけど……」
お願いを言ったとたん、ポチがむずかしい顔をした。
「本当に、その願いごとでいいの?」
しんぱいそうに聞いてきた。
なんで、そんな顔をするの?
だいたい、お願いをかなえてくれるのはポチじゃなくて3人の神さまなのに。
わけがわからないから、
「うん!」
ポチのしんぱいをふきとばすくらい、元気に答えた。
3人のネコの神さまは、わたしの顔をじっと見つめる。そして、
「「「ならば、そなたの願いをかなえよう」」」
そう言うと、目の前が白い光につつまれた。