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千羽鶴はお日さまのにおい  作者: 立川ありす
第1章 元気なチャビーと、長い名前のポチ
4/12

ふしぎなポチと魔法の世界

 そして数分後。


「うう~~」

 テーブルの前で、わたしはうなっていた。

 算数の宿題がむずかしくて、よくわからないの。


 気のせいか、また頭がクラクラしてきた。


 安倍さんの歌のせい?

 ううん、きっと算数の宿題のせいだ。


 明日、学校で安倍さんに聞いてみようかな?


 ……それじゃ間に合わないから、夜ごはんの時にパパに聞いてみようっと。


 あーあ、こんな時に、お兄ちゃんがいたらな。

 お兄ちゃんは「チカ、先生の言うことをちゃんと聞かないと」なんて言うの。

 でも、やさしく笑って、先生よりすごくわかりやすく教えてくれたんだ。


 ふと、まどぎわにかかっている千羽鶴に目をやる。

 そしてノートと教科書に目をもどすけど、やっぱりわからない。


 頭もクラクラするし、パパが帰ってくるまでベッドで休んでよっと。


 ……あ、ちょっとだけゲームしよっかな?

 ゲームで楽しい気持ちになったら、頭がクラクラするのも治るかも。

 そう思って立ち上がった。


 そのとき、ピカーって、何かが光った。


「……え?」

 あわてて見やると、まどの所で千羽鶴が光っていた。

 千羽鶴が、けいこう灯みたいにピカピカまぶしく光っている。


 ふつうの折り紙で作った千羽鶴なのに?

 いったい、なにがおこっているの!?


「……でも、なんかキレイ!」

 わたしは千羽鶴に向かってそっと手をのばす。


 鶴のくちばしをちょっとつついてみる。

 すると光はさらに強くなっって、あふれだして光の玉になった。


 そして、それに合わせるみたいに、わたしのむねが熱くなる。


 えっ?

 思ったとたん、


「わわわっ!」

 わたしのむねからも光の玉が飛び出した。

 2つの玉はクルクル回りながら重なって、何かの形になった。


「鳥さん……?」

 わたしはそれを、まじまじと見やる。


 白くてちっちゃい、かわいらしい鳥だ。

 そんな小鳥は、わたしの目の前で、すごいいきおいで羽をはばたかせている。

 なんだか、わたしを見つめているみたいで、かわいい。


「わたし、あなたのこと知ってる。ハチドリって言うんだよね?」

 わたしのぼうはんブザーもハチドリの形なんだ。

 だから、本物のハチドリさんが見られてちょっとラッキー。


 でも何で、こんなところに鳥がいるんだろう?

 というか、何で光の中から出てきたんだろう?


 わけがわからない。

 安倍さんやパパに聞いたらわかるのかな?


 わたしが首をかしげていると、もっとわけがわからないことがおきた。それは、


『初めまして、チカちゃん。ボクはウィツィロポチトリ。音楽の妖精なんだ』

 なんと、鳥がしゃべった!

 ハチドリの声は、頭の中から聞こえるようなふしぎな声だ。


 いつもは、わたしがヘンなことをしてみんなをビックリさせてるのに、今日はわたしがビックリすることばかりだ!


 わたしは、ウィウィ……なんとかって言うハチドリを、まじまじと見つめる。


 かわいいちっちゃなハチドリさんは、すごいいきおいで羽をはばたかせてホバリングしながら、つぶらな目でわたしを見つめている。


「今しゃべったの、あなたよね? ええっと……ポチ……なんだっけ?」

『ポチじゃないよ。ウィツィロポチトリ!』

「だから、ポチじゃないの。……鳥なのにポチなんて、ヘンなの」

『いや……もう、それでいいけど』

 そう言って、ポチははばたきながら、器用にため息をつく。

 あー、わたしのこと、バカにしてる顔だ!


『ボクは君を【白昼夢の世界】に案内するためにやってきたんだ』

 ポチは頭の中から聞こえる声で言った。


「【白昼夢の世界】?」

『うん。時間と空間のすき間にある魔法の世界なんだ。神さまと人間がいっしょにいられる場所なんだよ』

「……よくわからない」

 わたしが言うと、


『チカちゃん、学校でも人の言うことをよく聞いてないでしょ?』

 ポチはバカにした声で言った。

 こんなにかわいいのに、ちょっとハラたつ!


「う……そ、そんなことないもん!」

『だったら、言葉で言うより、行ってみたほうが早そうだね』

「今から行くの? すぐにパパが帰って来て、ご飯の時間なんだけど」

『だいじょうぶ! 【白昼夢の世界】は時間のすき間にあるから、むこうでどれだけ時間がたっても、こっちの時間は進まないんだ』

「だから、なに言ってるのかわかんないよ!」

 けど、答えのかわりに、ポチの身体がかがやき始めた。

 最初に出て来た時みたいに、ピカ――ッて光った。


 そして目の前が真っ白になった。


 気がつくと、わたしは知らない街にいた。


「うわーっ! なんかスゴイ!」

 知らない街どころか、知らない国かも。


 だって、道路ぞいにならんでいる家は、アイスクリームでできてるんだもん!


 大きなコーンに乗ったソフトクリームの屋根はバニラにイチゴ、メロンにミカンとカラフルな色で、見ているだけでおいしそう。


 足元は、ビスケットのレンガをしきつめた道路だ。

 キツネ色とチョコレート色のビスケットも、おいしそうに焼けている。


 ちょっとくらいはがして食べてもだいじょうぶかな?

 ううん、ゆかに落ちたもの(というか、ゆかそのもの)を食べたらダメだ。

 それに、もうすぐごはんの時間だもん、ガマンしなきゃ。


「ここが【白昼夢の世界】さ」

 いつの間にか目の前にポチがいて、ちょっとえらそうな口ぶりで言った。


「あれ? ポチの声がふつうに聞こえる」

「うん。妖精は魔法の生きものだから、元の世界ではテレパシーでしか話せないんだけど、【白昼夢の世界】は魔法の世界だから、ここではふつうに話せるんだ」

「そうなんだ……」

 ポチは説明してくれたけど、よくわからない。


「あ、ケーキの家がある! 【シロネン】のケーキとどっちがおいしいかな?」

「チカちゃん、やっぱり人の話を聞いてないね……」

「聞いてたもん!」

 もぅ! ポチったら!


「あ、そうだ! 今度はゾマやマイやみんなといっしょに来たいな!」

「ゴメン、それはできないんだ」

「えー、どうして?」

「ここに来られるのは、チカちゃんだけなんだ」

「そうなんだ」

 なんで、わたしだけなんだろう?

 そう思ったけれど、ポチはそれには答えてくれなかった。


「だから、魔法のことも、チカちゃんがここに来られることも、みんなにナイショにしたほうが良いと思う」

「そっかー、ざんねん」

 みんなといっしょに来られたら楽しいって思った。

 けど、できないものはできないし、わがまま言うとポチもこまるよね。


 それに、みんなといっしょに来れない場所のことをみんなに話すと、頭がヘンな子だって思われちゃう。魔法のことはナイショにしなきゃ。


「それよりもさ、こっちに来てよ」

「あ、まってよ!」

 ポチが飛んでいったので、あわてて追いかける。


 おいしそうなおかしの街にはネコやウサギの頭をした人や、全身がダイヤモンドみたいにキラキラ光っている人が歩いていて、空にはドラゴンが飛んでいる。

 おもしろい!


「あれはみんな、神さまなんだよ」

「そっか、ただ者じゃないと思ったら、神さまだったんだね」

 遠くには、高い高いケーキのビルも見える。

 イチゴとクリームたっぷりのショートケーキをいくつも重ねたようなビルだ。

 おいしそう!


「ねえ、どこに行くの? もっとゆっくり街を見たいよ」

「もうちょっとだよ」

 そうやってポチは飛んで、わたしは走る。


 そして、着いたのは、おかしでできた公園だった。

 バニラアイスがうかんだクリームソーダの池があって、アイスキャンディーの木がならんでいる。


「こっち、こっち」

 ポチは人ごみ(神さまだから、神ごみ?)の中に入っていった。

 わたしは神さまをかきわけながら、追いかける。


 もう! ポチったら、自分は飛べるからって!


 そして人ごみの中心にたどりついた。


 そこは丸くて大きな、大きなケーキのステージだった。

 ホイップクリームでデコレートされて、イチゴのライトにてらされている。


 そこでは、キレイなドレスを着た女の子たちが歌ってダンスをしていた。


 この人だかりは、この子たちのライブを見に来た人たちだったんだ。


「【白昼夢の世界】の中心にある魔法のステージでライブをして、歌とダンスで神さまをよろこばせると、お願いをかなえてもらえるんだ」

「お願いって、なんでもかなうの?」

「まー、たいていのことはね」

「そっかー」

 ポチに答えながら、考える。

 なんでもお願いがかなうなんて、ステキ!

 なにをお願いしようかな?


 そのとき、ここに来た時と同じように、いきなり目の前が白く光った。


 気がつくと、わたしは自分の部屋にいた。


 わっ! 大変だ!


 魔法の街を見物したり、ライブを見たりして、かなり時間がたったはずだ。

 もうパパはとっくに帰ってきてるよね!?

 きっとパパもママも、わたしがごはんを食べに来ないって心配してる!


 うーん、どうしよう?

 ポチのことや【白昼夢の世界】のことを話したら、信じてもらえるかな?

 ううん、頭がヘンな子だって思われるだけだよね。

 なら、どうしようかってなやんでいると、


「チカー、パパが帰って来たわよー」

「あ、はーい!」

 どういうことだろう?

 わたしは首をかしげた。


『だから【白昼夢の世界】に行っている間は、こっちの時間は進まないんだ』

「そうなんだ」

『向こうに行く前にも言ったよ』

「えー、そんなの聞いてなかったもん! ポチの話はむずかしくて、よくわからないよ! ……っと、ご飯を食べてくるから、おとなしく待っててね!」

 そう言って、わたしは部屋を飛び出した。

 パパやママを心配させたらダメだもんね!


 その後ろで、


『まったく、チカちゃんは、あいかわらずなんだから』

 ポチはやさしい顔で……お兄ちゃんみたいな顔で、笑った。


 でも、わたしは、そんなことには気がつかなかった。


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