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1.

なんとなくあらすじ書いてなんとなく書き上げたファンタジー短編。道草家守さん、ネタ提供感謝。

 ブルーム・ブラウンはまもなく40歳になろうという中年のしがない冒険者だ。

 きっかけはありきたりな理由だが、十代後半に貧しい村を飛び出して冒険者になった。最初にどうにか親切なパーティーに入れてもらいいろいろ教えてもらったことがその後とても役に立った。きっと彼らに出会えなければ彼はすぐにでものたれ死んでいたかもしれない。

 そうしてパーティーを転々とし、いつのまにか心から信頼し合える仲間もできた。もちろん冒険者になってつらいことも苦しいこともあった。同じパーティー仲間と死に別れたこともあった。だからって感傷に浸っていたって生きていけない。彼はこの二十年死にもの狂いで働いてきた。

 そうして、そろそろ体の限界を感じてきた頃のことだった。

―その少女と出逢ったのは。



 薬草採取や魔物討伐、それだけでなく人同士の小競り合いの仲裁など仕事はいくらでもあった。冒険者なんて夢のある呼び名はついているがいわゆる何でも屋だ。戦争にまでは駆り出されないが自国内が戦場になればわからない。ようは腕っぷしに少しばかり自信があって、家にいても肩身が狭い連中の受け皿だったわけだ。

 巡り合いもそうだがどうしたって賢明な奴が生き残る。もちろんずる賢い奴もいたけどいつの間にか姿を消した。彼はそれなりに堅実に生きてきたからある程度貯金もあった。仲間たちもそこそこ資産を貯め、そろそろリタイアしようと思っていた。だからその出会いはもしかしたら必然だったのかもしれなかった。



 久しぶりに訪れた町で、ブルームたちは孤児院へ顔を出した。

 パーティーの一人がその孤児院出身だったのだ。一人で訪ねようとする仲間に「水くさいじゃねぇか」と笑って全員で向かった。

 孤児院出身の仲間はベンという魔術師だった。ベンはそれほどがたいはよくはないが学校だけでなく独学でもいろいろ学んできたインテリだった。孤児院の院長が出資者を募って毎年何人か優秀な子が学校へ行く。ベンはそのうちの一人だった。だが孤児院出身者はそれだけで就職もうまくいかないと知ったベンは、学校を卒業した後冒険者になったのだという。まだ30前なのにしっかりしているやつだとブルームは感心していた。

 孤児院は主に教会が経営している。いかつい男たちが訪ねてきたことでシスターたちは戸惑ったようだが、ベンが孤児院出身だと知ると快く彼らを招き入れてくれた。少なくないお金を寄付したら是非子どもたちの顔を見て行ってほしいという。特に行くところもないので彼らは子どもたちと遊んでいくことにした。

 冒険者なんてものは生傷が絶えないもので、それこそ最近は怪我もしなくなってきたが古傷はいっぱいある。しかもがたいもでかいいかついおっさんなんて子どもに怖がられこそすれ笑顔を向けてもらえるなんてことはないのだ。他のパーティーメンバーは彼ほど怖そうな顔をしていなかったから子どもたちに遊んでもらっていたが、彼のところに寄ってくる子は一人もいなかった。


(子ども、好きなんだがな……)


 笑ってもその笑顔が怖いと言われるのは納得がいかない。けれどいくら笑ってみても子どもたちが寄ってきてはくれないのだからそういうことなのだろう。嘆息して建物にもたれる。と、建物の中に小さな女の子がいるのを認めてブルームはつい笑顔を作った。その女の子はほんの一瞬目を見開いたが窓際から離れようとはしなかった。窓を通して、彼の存在をなかったことにして何かを求めているようにも見えた。

 そう、その少女には表情がなかった。無表情というのはこういうものなのかと感心してしまうぐらいだった。

 ブルームは首を傾げた。こんな小さな少女が外にも出ずずっと窓の外を眺めているという状況に興味を持った。彼は建物の中に入り、試しに少女の側に座ってみた。少女はちらりと彼を一瞥したがすぐに窓の外へ視線を戻した。そうしてシスターに声をかけられるまで少女はずっとそのままでいた。


「あの子はどういう経緯でここへ?」


 シスターに尋ねると院長室へ連れて行かれた。そこでブルームは少女がここへ来ることになったいきさつを教えてもらった。


「東の国の戦争か……つまりあの子は戦災孤児なんですね」

「そういうことになりますね」


 一年前に終結した東の国の戦争は沢山の傷跡を残した。その一部が戦災孤児である。少女は両親と共にこの国へ逃れてきたらしいが、途中でその両親とはぐれてしまったらしい。運よく教会の者に出会ったことで少女はこの孤児院へ連れてこられたのだという話だった。

 少女は大体5歳ぐらいだという。ここへ来た時4歳だと言っていて、それからすでに一年が経っているが少女が笑顔を浮かべたことは一度もないらしい。笑顔を失うようななにかがあったのかもしれないが、当時4歳の子に説明できるわけもない。表へ出て遊ぶこともなく、日がな一日窓の外を眺めている少女。ブルームはなんだかほおっておいてはいけないような気がした。

 幸い金はある。自分の顔を見ても怖がらなかった少女に出逢ったのは運命かもしれないと思った。


「俺、この子引き取るわ」


 院長と、何事かと顔を出した仲間たちの前で少女の頭を軽く撫で、ブルームは宣言した。

 すると仲間たちはこれ以上ないほど目を見開き、


「ブルーム貴様、ロリコンだったのか!?」

「いたいけな幼女に手を出そうなんて! だから酒場で酌をされても見向きもしなかったんですね!?」

「落ち着けブルーム、いくら女でも相手は幼女だ! 手を出したら犯罪だぞ!!」


 と口々に叫んだ。

 ブルームの目がこれ以上ないほど座り、全員を拳で即その場に沈めた。


「手ぇ出すはずねぇだろうがあああああ!!!」


 ブルーム39歳、ロリコン疑惑をかけられた春だった。

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