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私の愛しい婚約者  作者: 華月
本編
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47




時々休憩は挟んでいたものの、ほぼ二時間踊りっぱなしで、さすがに疲れた。

レオンがリードしてくれるダンスは相変わらず踊りやすかったものの、中級ステップからいきなり上級へと変えるのはやめて欲しかった。

時々レオンの足を踏んでしまいそうになって、頬が引きつりそうになった回数も少なくはない。

ニコラス殿下とミリアはさすがというか、優雅に、しかししっかりと上級ステップでのダンスを踊っていた。

途中から授業でのお手本となるべきパートナーだと先生に絶賛されており、お互いが「ミリーのおかげですよ」「ニック様のおかげです」と謙遜していたが、どちらも大変素晴らしい技術の持ち主なのだと思う。

私もレオンのリードのおかげでそこそこ踊れたとは思うけれど、ミリアのように優雅に……というわけではなかったはずだ。

レオンは手放しで褒めてくれるけれど、どう考えても婚約者贔屓である。


「さすがに、少し疲れましたわ……」


お昼を食べるために訪れた食堂。

食事を注文すれば、あとは席まで給仕係の人が注文した食事を持ってきてくれる。

間違えて届けてしまわないように、食堂では注文の前に座席を確保し、注文時に座席の番号を伝えるようになっていた。

ミリアがほんの少し疲れたように、けれど微笑みながら呟く。

疲れたとは言うものの、ダンスのパートナーがニコラス殿下だったのだから、楽しさは感じていたはずだ。

私も、久しぶりのダンスで疲労感を覚えるものの、レオンがパートナーだったからか、楽しくもあった。

もしもダンスのパートナーがレオンでなければ、ここまで楽しめはしなかっただろう。

……まあ、ダンスをレオン以外と、練習とはいえ踊る想像すら出来ないのだけれど。


「でも、さすがはミリアね。とってもお上手だったわ、ついうっとりと見惚れてしまったもの」


手と手を取り合い、互いを見つめ合い、うっとりと微笑みあう二人は、とてもお似合いだった。

レオンに拗ねられてしまうくらいには、二人に見惚れてしまった。

その後くらいからだろうか、レオンが急に意地悪に、ステップを上級のものへと変えたのは。

それからはレオンに合わせるのに必死でよそ見をする余裕がなくなってしまい、レオンには「リリィは私だけを見ていればいいんだよ」と満足そうに笑われたので、わざとだったのだろう。

私が見ていたのはミリアであって、ニコラス殿下ではなかったのだけれど。


「ミリーはドレスやアクセサリー等で着飾らなくても、一等輝いていましたからね。リリア嬢が見惚れるのも仕方がありません。僕も、いつだってミリーに見惚れていますから……」

「ひときわ輝いているのはリリィですよ。そこは譲りません」

「……いえいえ、ミリーの方が素敵ですよ」

「いや、リリィのほうが素敵です」


レオンとニコラス殿下の間に、バチバチと火花が散っているのがわかる。

婚約者自慢で仲が良いと思えば、突然、ちょっとした言い争いになるのは、何とかならないだろうか?

ニコニコとお互いに笑顔は浮かんでいるものの、その目は決して笑っていない。

本来であれば殿下に食ってかかるなどとんでもないことなのだが、ニコラス殿下がそれを許しているあたり、友好的であることに違いはないのだろうけれど……。


「リリィほど私の贈り物であるドレスやアクセサリーを着こなす女性はいませんよ。美しい上にマナーも礼儀も完璧で、寛大すぎる心を持つ優しい婚約者です。ダンスでもしっかりと私を支えてくれるし、何よりリリィはこの世の至高の存在。リリィの目に映るのが私だけであれば良いと、どれだけ思っていることか……!」

「ふふ、面白いことを言いますね。この世の至高はミリーです。ミリーほど美しく気高く誇り高く、しかし妃に相応しい優しさと聡明さを持つ女性などミリー以外にいませんから。マナーも礼儀も完璧なのはミリーとて同じことですよ。ああ、ですが、ミリーの目に映るのが僕だけであれば良いと思うことには同意しましょう」


突然始まる言葉の応酬は、互いの婚約者を貶し合うことは決してない。

その代わりにここぞとばかりに自分の婚約者を褒めたたえるので、実は、そばで聞いている私とミリアへの威力が最も高い。

思わず顔を両手で覆い俯いたのは、ごく当然の反応だ。

いや、嬉しいけど、嬉しいけど……!

ものすごくいたたまれない……!




結局あのあと注文していた食事が届き、一時休戦となった。

食事のあとは魔術の授業になるのだが……おそらく私が本当に学園の生徒であれば、絶対に選択しなかった授業である。

なんせ、私の魔力はあってないようなもの。

魔術に対する理解力も乏しいので、レオンが様々な魔術を生み出しては周囲を騒然とさせていることも、ただレオンはすごい人なのだ、という感想しか生み出さないのだ。


魔術の授業は、鍛錬場と称される開けた場所で行われる。

魔術はただひたすら実践あるのみ、という方針らしい。

もちろん教科書や魔導書で理解してから実践に、という人のために教室もあり、魔術師の先生が在中しているそうだが。

ニコラス殿下は、理解よりも先に実践をお求めのようだ。

レオンも教科書を眺めているより、身体を動かす方が好きなので、どこか楽しそうである。


「ミリアは、何か魔法が使えるの?」

「わたくしは白魔術を少々……。あ、白魔術というのは、アーデルハイドにおける光魔法のことですわ。アーデルハイドとシュタインヴァルトでは、属性の呼び名が少し違いますの」


それは初めて知った。

全世界で共通なのかと思っていたが、実は違うらしい。

火、水、風、雷、光、闇の属性を、シュタインヴァルトでは、赤魔術、青魔術、緑魔術、黄魔術、白魔術、黒魔術と呼ぶらしい。

ちなみにアーデルハイドではその六属性に加えて氷属性もあるのだが、シュタインヴァルトでは六属性か、それ以外かで分類されているのだとか。


「リリィはあまり魔力がないから詳しくないだろうが、実は、魔法と魔術は厳密に言えば違うものなんだよ」

「えっ、そうなの?……そういえば、授業にも魔術の他に、魔法学というのがあったわね……」


レオンはニッコリ微笑むと、きっと噛み砕きながら説明をしてくれた。

といっても私の理解力が及ばず、なんとなくしか理解出来なかったので申し訳ないけれど。


曰く、魔術というのは、己の魔力を媒介とした術の総称のこと。

炎を生み出したり、水を生み出したり……己自身の力のみで発動させたものを、魔術と呼ぶらしい。

一方で魔法とは、己の魔力を媒介としない術の総称らしい。

例えば、既に魔力を帯びている魔石を使用し結界を張ったり、魔石を媒介とした石化製品で火をつけたり水を出したり、というのは魔法になるそうだ。

だから魔石に己の魔力で魔法付与をすることは魔術と呼ぶが、既に魔法付与された魔石を利用し術を発動することは魔法と呼ぶのだとか。


なんとなく、理解したような、しなかったような……?


「魔術師が魔法使いかというのを魔術師は気にしがちだが……リリィは魔術師でも魔法使いでもないから、あまり気にしなくても問題ないさ。実際に魔術と魔法は同一視されがちだからね」


おそらくレオンは初心者である私にも、わかりやすいように説明してくれたのだろう。

それでも、なんとなくしか理解が出来ないのは、やはり少し申し訳ない。

ミリアも魔術と魔法の違いについては理解しているようだし、ニコラス殿下は言うまでもなく。


「はっ、魔術と魔法の違いもわからんやつがいるとはな。天下の学園も、地に落ちたものだ」


どこからか聞こえてきた声。

そのすぐあとに「おいやめろバカ!」と止める声も聞こえてきたが、私の耳に届いたということは、当然、レオンの耳にも届いているということで。


「……ほう?私のリリィを愚弄するか。面白い」


ふふ、と口元を歪めたレオンだが。

その目は、決して笑っていない。

ぶわりとレオンから嫌な気配があふれだし、背筋をゾクリと撫でていった。


ニコラス殿下、楽しそうに笑うのはやめてくださいませ!?

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