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私の愛しい婚約者  作者: 華月
本編
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46



学園ではいくつかの科目を選択することで授業を受けられる。

語学、歴史、算術、魔術、剣術、馬術、ダンス、教養など様々ではあるが、男女で受ける科目が別れていることが多い。

といっても決して別れなければならないというわけではなく、例えば魔術や剣術は男性が多いものの、決して女性が受けられないわけではない。

逆に教養やダンスは女性が受けることが多いが、男性が受けられないわけではない。

レオンはニコラス殿下とミリアの護衛のため、どの授業を選ぶかは全て殿下方がお決めになる。

私は完全にレオンのオマケなので、もちろん同じ授業だ。

そしてニコラス殿下はミリアから、例え授業の一時間であっても離れたくないらしく、お二人とも同じ科目を選択されるらしい。

そこで選ばれたのが、語学、歴史、魔術、剣術、馬術、ダンス。

なんでもミリアはダンスと乗馬が得意らしく、感覚を鈍らせないためにもと望んだらしい。

当然ミリアの望みをニコラス殿下が叶えないはずがなく、「向上心の高いミリーも素敵です……!」と頬を赤らめていた。

魔術と剣術に関してはニコラス殿下が望まれ、語学と歴史は、二人で話し合って決めたようだ。

今日は語学、歴史、ダンス、魔術の初授業だ。

魔術とダンスを続けて二時間ずつ、科目ごとに小休憩の時間と、お昼休憩の時間を挟み、計六時間の授業を受けることになる。

一日に六時間分の授業さえ受ければ、その内訳はどうであっても構わないというのが、この学園の特徴だろう。

例えば六時間続けて魔術だけの授業を受ける者や、六時間続けて剣術だけの授業を受ける者も少なくはないそうだ。

基本的には満遍なく一時間ずつ、あるいは二時間ずつ、と選択する生徒が多いようだが。

その特色も、この国の防衛を担う、黒騎士や白騎士の卵を育成する為にと導入されたものなのだろう。

逆に言うと、黒騎士や白騎士を目指さないもの以外にとっては、大して有難みのない制度だ。


語学は、アーデルハイド王国やシュタインヴァルト皇国、周辺数カ国の言語でもあるフランカ語について。

フランカ語は国の歴史とともに、幾度となく書き方や意味や読み方等が移り変わり、現代へと受け継がれているそうだ。

例えば同じ言葉でも、現代と100年前とでは意味が異なる、というものも少なくはないらしい。

まだかつてのフランカ語──アーデルハイド王国においては、古語と呼ばれている──は解明されておらず、翻訳の出来ていない古の書物というものも国には保管されているのだとか。


歴史は、アーデルハイド王国の成り立ちから、周辺国の成り立ち、かつて起きた事件などについて。

主に国内での内容を取り扱う為、シュタインヴァルト皇国で学ぶ歴史とはまた違った視点で面白いとミリアが楽しそうであった。

例えばアーデルハイド王国とシュタインヴァルト皇国間でかつて勃発した貿易戦争では、アーデルハイド王国視点とシュタインヴァルト皇国視点で、異なった解釈をされているらしい。

その貿易戦争があったからこそ、終戦後、二カ国で友好条約が結ばれたのだ。


私は語学も歴史も知らない話がいくつもあったので大変有意義な時間を過ごせたのだが、どうやらレオンにとっては既に学び終えた内容だったらしく、ひどく退屈そうだった。

ちなみに語学については、ニコラス殿下も同じく新たな学びはなかったようで、ミリアがコロコロと表情を変えている姿をつぶさに観察していたようだ。

授業終了後は「一時間もミリーの可愛さを楽しめました」と授業に全く関係の無い感想を漏らしていたので、おそらく先生の話はまともに聞いていなかったと思われる。


「さて、午前中はダンスの授業で終わりですね。ミリーのダンスをアーデルハイドでも見られるなんて嬉しいです」

「わたくしも、ニック様とダンスか出来るなんて嬉しいですわ」


ダンスには男性パートと女性パートがあり、それぞれステップが異なる。

中には男性パートも女性パートも踊ることの出来る方もいらっしゃるが、基本的には自身の性別に合うパートのみを幼い頃から学んでいることがほとんどだ。

私ももちろん女性パートしか踊れないし、男性パートの練習をしたことはない。

ダンスの授業では圧倒的に女性率が高いのだが、男性も少なからずいらっしゃる。

パートナーはあらかじめ決められているのだが、一人の男性に対し、複数の女性がパートナーとなる……というのは、決して珍しくはないそうだ。

男性はむしろそれを狙ってご令嬢にお近づきになろうと、あえてダンスの授業を申し込む方もいらっしゃるらしい、というのが、レオンがどこからか聞いてきた情報である。

まぁ、ニコラス殿下にはミリア以外のパートナーを付けることはないだろう。

ニコラス殿下は皇太子候補でもあらせられるのだから、下手をすれば外交問題に発展しかねないし。

……レオンも、もしかして私以外のご令嬢とパートナーになるのだろうか?

それは、ちょっと、嫌だなぁ……。


「……ええ、では、本日よりダンスの授業は、この組み合わせで行っていただきます」


ダンスの授業では、やはりというか、ニコラス殿下とミリアは二人だけのパートナーであった。

ニコニコとお互い見つめあって微笑まれているが、もしここにミリア以外の女性が放り込まれたら、その女性が可哀想だ。

そしてレオンのパートナーも私だけであった。

他にも数人いらっしゃる男性の元には、複数のご令嬢がたが集まっている。

男性一人に対し、おおよそ女性が五人前後といったところか。

マリアンナ様やヴォオラ様もいらっしゃったが、それぞれ別の男性とパートナーのようだ。


ダンスは、お義母様に教えていただき、それなりに踊れているつもりだ。

……最近は上級者向けのステップを踏んでいなかったので、間違えてしまう可能性は高いが。

ダンスの基本は、ステップを気にするよりも、楽しむこと。


「では、皆様ダンスの経験があるとは思いますが、パートナーが変わればステップも変わるというものです。まずは初級のステップから初めてみましょう」


言いながら、先生はちらりと私たちに目を向ける。

そしてニコリと微笑まれ、「ニコラス殿下とミリア様、レオンハルト様とリリア様は、幼い頃からのご婚約者。ステップの確認はいかがでしょう?」と問うてきた。

確かにパートナーが変われば、例え同じ曲の同じステップでも、感覚としてズレが生じることは少なくない。

誰にでも合わせて踊ることの出来る方は、実は本当に希少なのだと、かつて私にダンスを教えてくれた先生が力説されていた。

ちなみに私は初めての練習から夜会の本番まで、レオン以外と踊ったことは無い。

レオンも同じく私としか踊ったことがないので確信はないが、おそらくレオンは誰とでも合わせられる……というわけではないだろう。


「僕とミリーは結構です。数日前にも、母国で踊ったばかりですから……ねぇミリー?」

「ええ。ニック様のダンス、素敵でしたわ」

「ミリーの方が素敵でしたよ。ああ、あのドレス姿……叶うなら、僕以外の誰にも見せたくありませんでした」


留学前にダンスパーティーでも行われたのだろう。

確か、アランディア殿下の留学前もパーティーが行われていたはずだ。

お互いにうっとりと頬を赤らめる姿は大変お似合いなのだが、もちろん、生徒の中には誰しもが婚約者がいるわけではない。

中には「勘弁してくれ……」とぼやいている方もおり、どうやら二人に充てられているようだ。


「リリィはどうだい?」

「いきなり上級、というわけでなければ、問題ないと思うわ」

「大丈夫、私がしっかりリードしてあげるから。リリィは私に身を任せてくれればいいよ」

「……ええ、そうね。レオンに任せておけば間違いないもの」


レオンはふっと口元に笑みを浮かべると、その場に膝をつき、私の手をすくう。

ちゅ、と手の甲に唇を落とすと、思わず見惚れてしまう、蕩けるほどに柔らかい笑顔を私に向けてくれた。


「お手をどうぞ、レディ?」


ああ、もう、レオンに殺されてしまいそう!



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