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私の愛しい婚約者  作者: 華月
本編
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43




シュタインヴァルト皇国の第三皇子と、その婚約者様が到着したという報せが届いたのは、昨夜の事だった。

学園の入学式は三日後に行われる。

アランディア殿下も先日シュタインヴァルト皇国へ旅立たれたばかりで、そろそろ到着している頃だろう。

第三皇子殿下は婚約者様と共にいらっしゃったが、アランディア殿下の婚約者様であるヴィオラ様は国に留まるそうだ。

そして、今日は皇子殿下と婚約者様との顔合わせの日である。

さすがに当日まで互いの顔を知らないのは問題だろうということになり、到着した翌日となったそうだ。

ちなみに入学式までの期間、殿下方は王宮にて過ごされる。

入学後はひと月の間寮で生活されるのだが、寮は基本的に二人部屋。

殿下とレオン、私と婚約者様という部屋分けで既に決定しているそうだ。

さすがに婚約者といえども夫婦ではないため、同じ部屋、というわけにはいかないのだ。

レオンは随分不満そうだったが、さすがに同じ部屋でひと月も過ごすのは色々と恥ずかしい。


今日の顔合わせには、ジークベルト殿下とマリアンナ様、ヴィオラ様もいらっしゃるらしい。

小規模のお茶会を催し、少しでも交流を深めるつもりなのだろう。

ジークベルト殿下は唯一上級生に当たるが、マリアンナ様とヴィオラ様、私とレオンは同い年だ。

それに、第三皇子殿下と婚約者様も同い年らしい。

王族や皇族、その婚約者様たちとのお茶会ともなれば、非公式とはいえ失礼な格好は出来ない。

かといってあまりに着飾り過ぎるわけにもいかず、無難に、シンプルなワンピースを着ることにした。

もちろんレオンが選んでくれたもので、やはりというか、「絶対に私が購入するからね」と譲ってはもらえなかったワンピースのひとつだ。

服を整え軽く化粧をしてもらい、髪型と、アクセサリーを合わせる。

相変わらずレオンは手放しに褒めてくれるため、嬉しいけれど、全く参考にはならなかった。


王宮に着くと、以前のように門番に通され、侍女が案内をしてくれる。

案内された部屋にはお茶会の用意がしてあり、既にマリアンナ様とヴィオラ様が席に座られていた。


「お久しぶりですわ、リリア様。レオンハルト様」

「お久しぶりです。相変わらず、仲睦まじいようで羨ましいですわ」

「お久しぶりです、マリアンナ様、ヴィオラ様」


マリアンナ様とヴィオラ様も、今日は非公式のお茶会だからか、以前のお茶会よりも落ち着いたワンピースを身にまとっていた。

とはいえ凛としたお姿は大変美しく、きっと私が同じワンピースを着たところでこうも素敵にはならないだろう。

レオンは軽く頭を下げただけだった為、マリアンナ様もヴィオラ様も、同じく頭を下げるだけだった。

席に着いてからしばらくすると、扉がノックされ、ゆっくりと開かれる。

扉を開いたのは侍女で、頭を下げて横にずれると、その後からジークベルト殿下と、見慣れぬ殿方、ご令嬢が現れた。

彼らがシュタインヴァルト皇国の第三皇子殿下と、その婚約者様だろう。

腰をあげ、頭を下げた。

殿下方は空いている席に座り、その間に、侍女がお茶の用意をする。

目の前に置かれたお茶の匂いはあまり嗅ぎ慣れないが、おそらく、シュタインヴァルト皇国産のものだと思う。

第三皇子殿下は婚約者様をエスコートしており、婚約者様が腰をかけると、満足そうに目を細められた。

なるほど、皇子殿下が婚約者様を大切にしているのが良くわかる。


「──さて、今回は集まってくれて感謝する。こちらがシュタインヴァルト皇国第三皇子殿下で……」

「ニコラス=シュタインヴァルトです。こちらは僕の婚約者、ミリア=ガネット」


皇子殿下はニコラス様、婚約者様はミリア様と仰るらしい。

ニコラス殿下はプラチナブロンドの髪とグリーンの瞳を持つ美丈夫、ミリア様はまるで空のように美しいスカイブルーの髪と、海のように美しいアイスブルーの瞳をされている美しい方だ。

ミリア様を紹介しつつ、愛おしそうに髪を撫でるニコラス殿下に、ミリア様は慣れたご様子である。


「ニコラス殿、彼が今回護衛となったレオンハルトです」

「レオンハルト・ハインヒューズと申します。こちらが私の婚約者、リリア・レイズです」


レオンに紹介され、頭を下げる。

ニコラス殿下は何か値踏みするかのようにレオンと私を見つめている。

レオンはわずかに眉を寄せたものの、特に不快に思ってはいないらしい。

次いでマリアンナ様とヴィオラ様が紹介され、非公式のお茶会が開始となった。

といっても、お茶を飲み、お菓子をつまみながら、軽く話をするくらいなのだが。


「レオンハルト殿、今回は僕の護衛ということですが……こちらが提示した条件には合致されているのでしょうか?」

「公爵家のものですし、剣と魔術には覚えがあるので問題ないかと」

「では、レオンハルト殿は婚約者であるリリア嬢のことをどう思っているのです?」


それ、必要なことでございますかニコラス殿下……!?

レオンは不思議そうに首を傾げたあと、とろりと蕩けそうに柔らかい表情を浮かべ、すぐ隣に座る私の髪を撫でた。


「リリィは私の全てですよ。この髪も瞳も、鼻も唇も肌も、何をとっても至上の存在です。天使……女神……いや、そんな偶像物と比べるのもおこがましいほど美しい、私の愛しいリリィ……!」


さらに口を開きそうなレオン。

慌てて彼の口を手のひらで抑えれば、レオンはもごもごとくぐもった声を漏らした。


「お願いレオンもうやめて……!」


レオンはどこか不満そうだが、それでも一応は納得してくれたのか、小さく頷く。

それから手のひらを離せば、それはそれで名残惜しそうに私の手をレオンの手が追いかけてくる。


「……まだリリィの魅力の千分の一も話していないのだが」


私の手を握りしめたレオンが、指の腹で手の甲を撫でながら呟く。

お願いだからもうやめて……!

思わず顔を手のひらで覆い隠す。


「……うん、まあ、合格ですね。レオンハルト殿がリリア嬢を大切にしているのはよく分かりました」


ニコラス殿下の言葉に、指の隙間から様子を伺う。

殿下はテーブルの上で肘をつき、指を組んでいる。

その表情はどこか満足そうだ。


「まず護衛の条件についてですが、実は上級貴族で剣と魔術の理解があるというのは建前上です」


にっこりと、そしてあっさりと言い放つニコラス殿下。

それは護衛としては最も重要なのではと思っていたもので、殿下の言葉はかなりの衝撃だった。


「本当に求めていたのは、婚約者持ちで、その婚約者に一途である人物。理由はわかると思いますが、間違えても僕のミリーに他所の虫がつかないためでしてね。ですが、レオンハルト殿の様子を見れば、彼がミリーに心惹かれることはなさそうです」

「……私がリリィ以外の輩に惹かれると?」

「まだ書類での情報しか知らなかったもので。申し訳ありません」


軽く肩をすくめるニコラス殿下に、レオンが小さく溜息をついた。

というか、護衛に求める一番の条件が婚約者に一途であることって……。

なんとなく予想はしていましたけど、ニコラス殿下はミリア様大好きなんですね?


「僕のミリーはご覧の通りこの世の至高である容姿と愛らしさを持っているので、ミリーに惚れない男性というのは希少なのですよ。まあもちろんミリーも僕を愛していますから?ミリーが他人に惹かれることがないことは理解していますが、だからといってミリーの周りに僕以外の男が近づくこと自体が許しがたくて……」

「ニック様、お願いですからそこまでにしてくださいませ……!」


ミリア様はニコラス殿下の口を手のひらで覆い隠し、これ以上言葉を発せないようにした。

その顔は真っ赤に染まっており、ニコラス殿下は、それはそれで嬉しそうだ。

突然ミリア様が「ひゃあっ」と愛らしい悲鳴を漏らし、手のひらを合わてて離す。

そして「ニック様!なんてことを!」と声を出すあたり、その手のひらをニコラス殿下に舐められたのだろう。

私も今日はされる前に手を離したけれど、何度かレオンの口を塞いだ時、手のひらを舐められたなぁ……。


「……ニコラス殿下、その気持ちは私にもよく分かります。ええ、リリィが魅力的なのは充分理解していますが、だからといって私以外の男がリリィの周りに集まると想像するだけで殺……失礼、不快感が増すというものです」


今、殺意って言いかけなかった?

ニコラス殿下は「わかりますか!」と、レオンに同意されたことを喜んでいる。


そこから始まったレオンの「リリィの素晴らしいところ」、ニコラス殿下の「ミリーの素晴らしいところ」という話はしばらく続き、すっかり二人が意気投合した頃には、私やミリア様を始め、ジークベルト殿下とマリアンナ様とヴィオラ様の精神をガリガリと削っていた。


「リリア様……わたくし、リリア様とは仲良く出来そうですわ」

「……ええ、私もそう思います」


まだまだ続きそうな、互いの婚約者自慢。

ミリア様とは固い握手を結び、同時に、つい溜息を吐いてしまった。

いや、これは、私もミリア様も決して、決して悪くありませんからね!

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