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私の愛しい婚約者  作者: 華月
本編
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40

※レオンハルト視点です




さら、と頭を撫でられた気がして、ゆっくりと目を開く。

どうやら、リリィのどうしてもしてみたいこと──膝枕のあと、少し眠ってしまったらしい。

眠りの中でもリリィに会えるなんて、私はなんて幸せなんだろうか。


「あ、起きたの?レオン」


リリィは優しく私の髪を撫でると、ふわりと愛らしい笑みを浮かべた。

それだけでぎゅうと心臓が鷲掴みにされたような愛おしさがこみ上げる。

目を覚まして真っ先に愛しいリリィが目に飛び込んでくるなんて、なんて幸せなのだろうか。


「リリィ……」


思わず手を伸ばし、私の指に吸い付くような頬を撫でる。

リリィはくすぐったそうに片目を閉じると、クスクスと笑い声をもらした。

ああ、なんて可愛らしいのだろうか!

幸せを噛み締めていると、リリィがはにかみながら、また私の髪を撫でてきた。


「眠りながら、ずっと口元が緩んでいたけれど。どんな夢を見ていたの?」


リリィに問われ、思わず手で口元に触れる。

眠りながらというよりも、今も終始口元が緩んでいるようだ。

軽く撫ぜた口元は、ゆるりと弧を描いている。


「リリィの夢を見ていたんだ。寝ても醒めてもリリィがそばにいてくれるなんて、私は幸せ者だな」

「まぁ、レオンったら……」


リリィはほんのりと頬を赤らめ、ふい、と顔を逸らしてしまう。

私の言葉一つで照れるリリィは何とも愛らしい。

しかし、あまりに長くリリィに膝枕をさせていたのでは、足が痺れてしまうだろう。

身体を起こし、リリィの足に治癒魔法をかけた。


「ありがとう。でも、まだ良かったのに……」

「これ以上は私の理性が飛んでしまいそうだから、許しておくれ」


リリィの匂いに包まれて、頭にモヤがかかりそうなほどの幸福だった。

これ以上を求めれば、きっと私の理性というのは軽く吹き飛んでしまうだろう。

もちろんリリィが望むのならば喜んで理性など飛ばしてみせるが、顔を真っ赤にして「もう!」と唇をとがらせるリリィは、決して望んでいるわけではないだろう。今はまだ。

とはいえそれは婚姻前はという前提であり、夫婦となれば別のはずだ。

私が心の底から、何よりも誰よりもリリィを愛しているように、リリィもまた、私のことを愛してくれているのだから。

これは自惚れでもなんでもなく、純然たる事実である。


どうしてもそばを離れなければならない時、リリィにも許可は得ているが、リリィにはいくつかの魔法をかけている。

その中に集音魔法というものがあり、それはリリィの周囲の物音を私の耳に届けてくれるというものだ。

リリィがもしも攫われてしまった時に、周囲の音を聞くことにより少しでも犯人を探しやすくする為のものなのだが──もちろんレイズ家にもリリィの寝室にも結界を張っているため、そんな自体に陥ったことはない。

それでも魔法を解かないのは、その集音魔法が、離れていてもリリィの声を私のもとへ届けてくれるからである。

夜眠る前にこの魔法でリリィの声を聞いていると、まるでリリィの声が子守唄のように心地よく、気分よく眠りにつくことが出来るのだ。

当然、私が目を瞑るのは、リリィが寝付き、寝息が聞こえるようになってからだが。

すーすーと気持ちよさそうに寝息を立てるリリィの寝顔を、想像するだけで胸が高鳴るというものだ。

リリィには一応この魔法について説明をしているのだが、リリィは魔術そのものを理解することが難しいらしく、不思議そうな表情を浮かべていてとても可愛らしかった。

私は全属性を問題なく使えるためリリィの役に何かしら立てるはずだが、リリィは水属性しか使えず、しかも、ほんの少し手の中に水をためることが出来るというとてつもなく可愛らしい水魔法である。

リリィは「せっかくなら、私もレオンのように魔法を使いたかったわ」と言ってくれたが、リリィが魔法を使えなくても私がその分魔法を学びリリィに見せているのだから問題はないはずだ。

この集音魔法、リリィは有事の際のみ発動すると勘違いしているらしく、寝る前に、時々、侍女と私の話をしているのだ。

「レオンのこういうところが好きなの」とか「レオンのこういう所は直して欲しいわ」とか。

いい所も悪い所も、含めての内容だ。

私以外の者に長くリリィの可愛らしい声を聞かせるのは腹立たしいことこの上ないが、その内容が私に関することなので、まあ、仕方がない。

嘘偽りないリリィの本音で、リリィが好きと言ってくれたところはそのままに、リリィが嫌だと言うところは必死に直しているつもりだ。

ただ、「レオンが暴走するのだけ、何とかならないかしら」と言う言葉はよく分からないのだが。

私はリリィの為にと思い行動しているだけであって、暴走などした記憶は一切ない。

それでも夜中に寝言でポツリと「レオン……好き……」と呟いてくれ、飛び起きることは実は少なくはなかった。

つまり夢の中でも私のことを見てくれるほど、私のことを愛してくれているということだ。

この世の至上たるリリィに愛してもらえるなんて、私は本当に幸せ者である。


「しかし、こんなこと、どこで覚えてきたんだい?」

「こんなことって、膝枕のこと?あのね、この間読んだ小説に、恋人に膝枕をしてあげるって場面があったの!胸がときめいて、レオンにしてみたいなって思って……。どう?ドキドキした?」


楽しそうに語るリリィの頬はほんのりと赤らんだままで、本当に女神か天使のようである。

いや、女神や天使よりも素晴らしく可愛らしく愛おしい。

私はいつだってリリィの一挙一動にドキドキしっ放しだというのに、リリィには伝わっていないのだろうか?


「当たり前だよ。リリィは私の心臓を止めたいのかと、本気で思ったくらいだ」


リリィに引かれるままに委ねれば、気がつけば身体は横になり、頭はリリィの太ももにあり。

さらに足の上だからかリリィの匂いがして、顔に熱が集まったのが自分でもわかった。

クスクスとリリィが笑っていたあたり、当然だが、リリィにも気づかれたのだろう。

くっ、イタズラなリリィも何とも可愛らしくて死にそうだ……!

もちろんリリィはいついかなるときも、とてつもなく可愛らしい。

今日だってレイズ家を出る前からきゅっと私の手を握ってくれて、会話を楽しむようにのんびり歩いてくれて、ここについた時は私が朝から作った弁当を、パクパク食べて美味しいと言ってくれた。

当然私が口元に運んだのだが、初めてリリィに食事を食べてもらえた時は、なんとも言えない愛おしさが私を満たしてくれたものだ。

今ではすっかり慣れたらしく、特に照れた様子もなく口を開いてくれるようになったが、それはそれで、私への信頼を表しているようで愛おしい。


「あ、レオン!見て、アカネ草が生えているわ」

「ああ、本当だ。アカネ草が自生しているなんて、珍しいね」


アカネ草とは、レイズ領の特産品でもある薬草の一種だ。

上級回復薬(ポーション)を作る際には必須アイテムなのだが、実は手に入れるのは困難とされている。

穢れのない美しい土地と、汚染されていない美しい川辺にしか生息しないのだ。

人工的に育成することも出来なくはないが、回復薬にした際に、自然のものと人工のものでは出来が違う。

その名の通り、薬草を採取した際、根っこが赤くなっているのが特徴だ。

魔力回復の効果もあるため、需要はあるものの供給が少なく、高級品でもある。

ただし、自生しているのは珍しく、国内に流通している上級回復薬に使われるアカネ草は、ほとんどが人工栽培されたものだ。

リリィは嬉しそうに立ち上がると、アカネ草に駆け寄った。

やはり生まれながらにして薬草が間近にあったからか、リリィの薬草の知識には舌を巻くこともある。

教科書や資料に載っている内容であれば頭には入っているが、やはり実物に触れると若干の違いがあるらしく、リリィは時々教科書に載っていない知識を私に教えてくれることがあった。

リリィは植物全般を愛でるのが好きで、特にハインヒューズ家の庭はお気に入りらしい。

本邸も別邸も母上の指示により、ハインヒューズ家の自慢でもある。

その庭をリリィに気に入られて母上は満足そうだったので、私ももう少し植物に興味を持っていればと愕然としたものだ。

いずれ夫婦になり暮らすであろう家では、ぜひともリリィとともに庭の手入れをしたいところである。

……といっても、果たしてどこに新居を構えるべきか悩みどころなのだが。

私は三男であるため家督を継ぐことは出来ないし──何よりリリィが望まないため、その座は邪魔だ。

かといってレイズ家には義弟がいるため、婿入りするのも難しいところ。

結果的に両家より離れ、適当な爵位を手に入れて暮らすべきなのだが、まあ、私の剣と魔術の腕があれば爵位はもらえるだろう。

最悪爵位などなくても冒険者として稼いだ金はあるので、問題なくリリィを養えるはずだ。

むしろ爵位があると使用人だのを雇わねばならないだろうから、いっそ爵位を持たない平民となるのもいいかもしれない。

リリィは身分というものにたいしてこだわりを持っていないし、私はリリィと共にいられるのなら何だっていい。

新居は王都付近に構えるのもいいし、ハインヒューズ領付近でも、レイズ領付近でも、なんなら新しい土地を購入したり、他国に渡るのもいいかもしれない。

その時はリリィの望み通りの屋敷を建てなければならないな。

どこに新居を構え、どんな屋敷を建てるのか、またリリィと相談しなければ。

ああ、だが、その前に結婚式のドレスやアクセサリーを用意しなければ!

まだ式をあげられる年齢ではないのが歯がゆいが、リリィの望む式にしたい。


「レオンー!」


アカネ草を撫でながら、嬉しそうに笑って手を振るリリィ。

どうしようもなく愛おしい未来の妻を今すぐにでも抱きしめたくなって、立ち上がると同時に転移した。

そしてリリィを腕の中に閉じ込めれば、「きゃあ!」と悲鳴が上がる。

けれど私の行動を予想していたのか、その悲鳴はどこか楽しそうなものだ。

リリィの腰を抱き寄せれば、身長差故に、自然とリリィの足が地面から離れる。

そのまま踊るようにくるくると回ってみれば、リリィは可愛らしくきゃらきゃらと笑い声をあげた。


「私の愛しいリリィ。早く、私のものになっておくれ……」

「バカね。もうとっくに、あなたのものじゃない」


ふふ、とおかしそうに笑うリリィに胸がきゅうと締め付けられる。

どうしようもなく可愛らしく愛おしくて、貪るように、リリィのぷっくりとした唇に噛み付いた。


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