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私の愛しい婚約者  作者: 華月
本編
4/75

04

(H30.2.15編集)「火、水、風、氷、雷、光、闇の六属性」→「火、水、風、氷、雷、光、闇の七属性」に修正

御指摘ありがとうございました!





レオンが会いに来てくれるまでは、会わない。

そう決めていたはずなのに、お義母様に聞いた、レオンがよく倒れるという話を聞いてから、その決意は酷く揺らいでいた。

レオンとは最近、手紙のやりとりしかしていないから、ますます不安になる。

もし魔法の制御に失敗して、大きな怪我をしていたら?

もし魔力不足で倒れた時、何か怪我をしてしまったら?

本人は順調だと言うけれど、レオンは自分を蔑ろにすることもあるから、少し……いやかなり心配だ。

会いに行っても、よいだろうか。

でも、来ないで欲しいと言ったのは、レオンだ。

…………よし、レオンと顔を合わせないように、レオンの様子をこっそり伺おう。

それならレオンと“会う”わけではないから、約束を破ったことにはならない、はずだ。たぶん。

どちらにせよ、迎えが来るまで多少時間はかかる。

いつもは部屋を貸してくれるので大人しく待っているが、その間にレオンの顔を見てこよう。

時々爆発音が聞こえる庭にレオンはいるはずだ。

……ハインヒューズ家のお庭は色とりどりの花が美しく咲き誇り、本当にきれいなのだが、果たして花たちは大丈夫なのだろうか?



こっそりと庭を覗き込むと、膝に手を付く前傾姿勢になり、口元を服の袖で拭うレオンの姿があった。

ちょうどレオンの横顔が見える位置だ。

レオンの後ろに立つ黒いローブ姿の男性が、レオンの家庭教師なのだろう。

距離があるからか、レオンたちの声ははっきり聞こえなかった。

どうやら、今日はまだ倒れていないらしい。

見た目にも、疲労感こそ伺えるが、怪我をした様子もなさそうだ。

呼吸を整えたらしいレオンが姿勢を起こし、す、と片手を前に出す。

手を軽く握り、人差し指だけをピンと伸ばした状態だ。

そして。

次の瞬間、伸ばした人差し指の先に、丸い炎の塊が現れた。

あれは火魔法の、初歩的な攻撃魔法、火弾(ファイアボール)だろうか?

その割には、炎の弾がかなり大きい気がする。

それに──今、レオンの口元は、閉されたままだった、ような。

本来、魔法を使うには呪文の詠唱が必要だ。

もちろん、中には無詠唱で魔法を使える魔術師もいるが、大半は詠唱を必須としている。

詠唱した時の魔法と、無詠唱の魔法では、前者の方が威力が増すことが多いからだ。

無詠唱を基本としている魔術師は、詠唱の有無で魔法の威力が変わらない場合の人物だけなのだ。

その違いはいまいちわかっていないのだが、レオンに聞けば教えてくれるだろうか。

もしかして、レオンも無詠唱を基本とする魔術師を目指しているの?

……レオンはいったい、何を目指しているというのだろう。

婚約者ではあるけれど、彼の考えは私には理解出来なかった。


「──リリィ?そこにいるんだろう、こっちへおいで」


無詠唱で発生させた火弾らしきものを、同じく無詠唱で発生させた水弾(アクアボール)らしきもので消すという器用な技を見せたレオン。

その直後に体を私のいる方向に向けると、にっこりと微笑んだレオンに声を掛けられた。

……隠れていたつもりだったが、どうやら最初から気がつかれていたようだ。

少し、悔しい。

けれど確信しているらしいレオンの言葉に、隠れ続けることも出来ず、素直に出ていくことにした。


「わざわざ隠れなくてもよかったのに……。私に会いに来てくれたんだろう?嬉しい。会いたかったよ、私のリリィ」


“私の”、だなんて。

言われた言葉が無性に恥ずかしくて、カッ、と顔に熱が集まったのがわかる。

お義母様によって火照った顔の熱はここに来るまでに冷めたはずなのに、全く意味がない。


「実は、まだ転移魔法が完成しなくてね。指定する条件に誤りがあるのかうまくいかなくて、気分転換に魔法を使っていたところだったんだ」

「……あの爆発音が、気分転換?」

「ああ、火魔法で周囲の熱を上昇させ、氷魔法で急激に冷やすことによって爆発するんだよ。他にも、いくつかの魔法を適当に」


至極簡単そうに説明するレオンだが、私だってそこまで無知ではない。

私に初歩的な水魔法しか使えないように、基本は、普通は、ひとり一属性の魔法しか使えないのだ。

以前からレオンの手紙には色々な属性の魔法が書かれていたから、まさかとは思っていたけれど。


「……レオンは複数の属性が使えるの?」

「ああ、ほとんどはね。生憎とまだ闇魔法は使ったことがないが、誰かを呪う予定はないからしばらくは使えないだろうな」

「それ以外は?」

「もちろん使えるさ」


なんでもない様子の笑顔のレオンに、とてつもなく頭が痛くなった。

なるほど、魔術至上主義者の多い魔術師の家庭教師が目の色を変えるはずである。


魔法には属性がある。

基本的には火、水、風、氷、雷、光、闇の七属性。

火属性、水属性が最も適しやすく、次いで風属性と光属性と雷属性、その次に闇属性、最後に氷属性となる。

光属性は治癒魔法か、解呪魔法のことだ。多少の適正があれば、傷くらいならばすぐに治せるようになるらしい。

闇属性は、基本は呪いに関する魔法が多いそうだ。

詳しくはわからないけれど、封印に関しても闇魔法に含まれ、封印を解く場合は光魔法に含まれるのだとか。

雷属性は軽くしびれさせる程度の電流を流すことから、稲妻が落ちたかのように錯覚させるほどの威力を発揮させたりと、威力の差が激しくコントロールは難しいそうだ。

最も習得困難とされているのが、氷属性の魔法だ。

氷魔法を使うには、水魔法と風魔法と火魔法、三種類を同時に発動しなければならないらしく、三属性も適正が合う確率は非常に低いらしい。

魔術師たちの最高峰たる、王国魔術騎士団──通称“白騎士団”に所属するには、氷魔法を使えることというのが絶対の条件だそうだ。

レオンの家庭教師は、数年前まで白騎士団の団長を勤めていたらしい。

レオンにはこの国で最高の家庭教師がついているというわけだ。

ちなみに剣士たちの最高峰たる王国剣技騎士団は通称“黒騎士団”。

お義父様はかつて、黒騎士団で団長を勤めていたこともあるそうだ。

元白騎士団団長とも、おそらくその時から知り合いなのだろうとレオンは推測している。

魔術師は魔術至上主義者、剣士は剣術至上主義者が多いので、黒騎士団と白騎士団の仲が悪いというのは有名な話だ。

それでもいざと言う時は普段のいがみ合いを忘れて協力出来るのだから、互いを尊敬しているところもあるのだろう。たぶん。

そしてレオンは今、闇魔法以外は使えると、はっきり言った。

つまり彼は。

白騎士団の入団条件を、既に満たしている……?


「こ、氷魔法も使えるの?」

「ああ。最難関というからどれほどのものかと期待していたけれど、思っていたより簡単だったよ」


軽く指を動かしたレオン。

その指の動きに合わせ、空中に小さな氷の塊が現れた。

しかも無詠唱で。


「…………ねぇ、レオン?」

「なんだい、私のリリィ?」


再び、“私の”と言われたが、今度はそれほど顔が赤くなることもなかった。

それよりも私はレオンに確認しなければならないのだ。


「お義母様に聞いたの。……魔力の使いすぎで、何度も倒れたんですって?」


にっこりと笑顔を浮かべたままのレオンが、そのままの表情で首を傾げる。

それがなにか、とでも言いたげな様子だ。


「先生、どういうことですの?」

「はい。魔力というのは現状での限界値を突破することにより、さらに向上する、ということが長年の研究で証明されています。レオンハルト様は元来魔力の多い方。しかし、現状の限界値はまだ低いはず。だからこそ魔力を酷使することにより、事実、レオンハルト様の魔力は向上しています」

「……つまり?」

「リリィを守るために必要なことだろう?」


家庭教師が答えるより前に、レオンが答えた。

なるほどつまり、レオンにとっては自分が倒れることというのはたいしたことがないと。


「……自分のことを大切にしない人なんて、嫌いです」

「きっ、きらっ!?」


ふん、とレオンに背中を向ける。

まったく、自分を大切にしない人が、他人を守れるとでも思っているのだろうか?


「り、リリィ?」

「…………」


レオンはあの時から、ずっと私のためにと頑張ってくれた。

自分のことを、顧みず。

私はもっと、レオンに自分自身を大切にして欲しいのだ。

きちんと理解して反省するまで、口を聞くのはやめよう。


そろそろ迎えも来る頃だし、このまま家に帰ろう。

レオンに背を向け、一歩踏み出した、瞬間。


「き、らい……。きらい……。リリィに、きらわれた……?」


消え入りそうなほど、小さな声で。

レオンの呟きが聞こえてきた。

恐る恐る振り向いてみれば。

レオンの、美しいアイスブルーの瞳から。

ぽろぽろと透明な雫があふれ出ていた。


え?え?え????

な、泣いてる!?

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