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私の愛しい婚約者  作者: 華月
本編
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30





そういう皆様は、婚約者様とはいかがですか?

という私の問いで、話題を変えることに成功したようだ。

婚約者のいるご令嬢はほんのりと頬を赤らめてお相手とのなりそめを話して下さったり、あまり上手くいっていないご令嬢は不安を口にしたり。

その度に率先してマリアンナ様が相槌をうち、時には相談にも乗っている。

一人だけではなく、何人かに同じような対応をしていたので、きっとこういう話は初めてではないのだろう。


皆様のお話を聞いているかぎり、一般的な婚約関係と、私とレオンの婚約関係は、少し異なるようだ。

まず、一般的には月に一度から二度くらいしか会わず、夜会などにパートナーとして参加する回数も含め、四回ほど会えたら多い方。

基本は室内でお茶をしたり、お庭を散歩したりする程度で、必ず護衛や侍女がそばに控えている。

ドレスは母やデザイナーと相談して決め、アクセサリーや髪飾りも同じ。

お茶やお菓子を楽しむことはあっても、食事を共にするのは夜会に参加した時くらい。

既に学園に通っている方も学園で婚約者と過ごすことは少ないし、今年から学園に通うことになっている方は、準備に追われますます会う時間はないのだとか。


……皆様が特別なのではなく、私たちが特別なのだろう。

レオンとは毎日会うし、どちらかに用事があっても、会わない日は決してない。

室内でお茶をすることもあれば、散歩と称して他領や他国に出かけることもあるし、王都へ買い物に来ることだって少なくない。

レオンが護ってくれるから護衛もいないし、ちょっとしたことは器用にレオンが手伝ってくれるから侍女を連れて歩くことはいつからかしていない。

ドレスやアクセサリーや髪飾りはお義母様とレオンで睨み合いながら決めてくれるし、食事を共にするどころかレオンが作ってレオン手ずから食べさせてくれる。

学園には通っていないし、これから通う予定もないため準備に追われることもない。

こうして考えると、なかなかに、異常な婚約関係だ。

そしてそれにすっかり慣れてしまっている私やレオン、家族たちもある意味異常なのだろう。


「…………皆様、大変申し訳ありません。急用が出来ましたので、少し席を外させていただきますわ。どうぞ、続きを楽しんでくださいね」


マリアンナ様の耳元で、少し離れた所に待機していたはずの侍女が何か囁いた。

その直後、マリアンナ様はどこか困ったような表情で、しかしにこりと笑い、席を外すことを伝えてきた。

普通、主催者がお花摘み等以外で席を外すことはありえない。

その上で席を離れるのだから、相当大切な用事なのだろう。


「ヴィオラ様、参りましょう」

「はい、マリアンナ様」


驚くべきことに、用事があるのはマリアンナ様だけではなく、ヴィオラ様もらしい。

マリアンナ様だけが席を外したのなら、トンプソン家に関わることだと思ったのだけれど……ヴィオラ様も、ということはそれは違うのだろう。

マリアンナ様とヴィオラ様がそろって席を外すなんて、いったい……?


ざわざわとにわかに騒がしくなる皆様。

その表情には困惑の色が浮かんでいて、きっと、マリアンナ様たちが席を外すのは初めてのことなのだろう。

マリアンナ様とヴィオラ様が席を外し、数分。

紅茶をひと口飲んでから、はたと気づく。

──このお茶会には、私に対し敵意……とまではいかないが、あまりよい感情を抱いていない方が何人かいらっしゃる。

マリアンナ様の采配のおかげでここまで何事もなく済んでいたが。

もしマリアンナ様という枷が外れたら……少しまずいのでは?


「リリア様、少しお庭を散歩いたしませんこと?トンプソン家のお庭はとても美しく、お茶会の時はマリアンナ様にも散歩の許可をいただいていますの。トンプソン家は初めてでしょう?わたくしたちは何度か来ているから、ご案内差し上げますわ」


案の定というか、数人を後ろに引き連れたご令嬢が、扇で口元を隠しながら話しかけてきた。

確かにトンプソン家のお庭が美しいことは有名だし、マリアンナ様に許可を頂いているというのは事実だろう。

ただ、素直に、案内してくれるだけで終わるとは思えないが。

そもそもマリアンナ様が席を外した直後にというのがなんとも怪しい。

先程まで、お庭の散歩なんて話題は、一瞬だって出ていない。


「そんな、皆様のお手を煩わせるわけには参りませんわ」

「あら、構わなくてよ。ねぇ皆さん、そうでしょう?」


遠回しに遠慮させて欲しいと告げたのだが、彼女はわかった上で返答したのだろう。

やはりお庭で“何か”をするつもりらしい。

相手は同じ伯爵家といえど、レイズ家よりは格が上だ。

そもそもレイズ家は薬草栽培の功績を認められ伯爵家になったわけで、王都での実権はほとんど無いに等しいのだ。

相手がひとりだけならまだしも、複数となれば、断る術は見当たらない。


「……では、お願い致しますわ。実は、一度お庭を拝見したいと思っていましたの」


頬が引きつってしまいそうだが、出来る限り余裕そうな笑みを浮かべてみる。

ご令嬢がたの表情は、扇で隠されているため目元しかわからない。

ただ目が笑っていないのは明らかで、隠された扇の下では嘲笑を浮かべているのかもしれない。

席を立ち上がり、周りを逃げないようにか囲まれて、数人でぞろぞろと移動する。


「どちらへ行かれますの?」

「リリア様にお庭をご案内しようと思いまして。マリアンナ様自慢のお庭ですもの!」


数人のご令嬢に不思議そうな顔をされたが、それだけ言えば、皆様納得して笑顔で見送ってくださった。

どなたもとても可愛らしい笑顔だったけれど、今の状況は全く笑えない。

レオンが色々と私に魔法をかけたと言っていたから、私自身の心配はしていない。

どちらかと言うと、このことがバレた時に、どうやってレオンに言い訳するかのほうが重要だ。

お願いだから、今だけ都合よくレオンが何も聞いていませんように……!


「──ねぇリリア様。わたくし、以前の夜会で、遠目にレオンハルト様をお見かけしましたの。やっぱり、とっても素敵な方で……どう見ても、あなたとは釣り合わないと思うの」


どうやらレオンと参加した夜会のどこかに、たまたま参加したことがあるらしい。

私とレオンが釣り合わないとはっきり仰るあたり、騒動のあった侯爵家の夜会の話は知らないのだろうか?

子爵家に対するレオンの態度や、お義母様のお言葉を聞いていれば、普通に考えれば数人で私を取り囲む、なんてことはしないだろう。

お義母様のお言葉はすっかり王都で知れ渡っていると思っていたのだが、実は、そうではなかったようだ。


「わたくしにはまだ婚約者はおりませんの。ねぇリリア様、やはりレオンハルト様の婚約者という立場、わたくしに譲っていただけません?自慢じゃないけれど、きっとあなたより、わたくしの方がレオンハルト様の隣に立つのに相応しいわ」


確かに見た目は私よりも、圧倒的に彼女の方が美しい。

プラチナブロンドの髪も、同色の瞳も、普通の殿方であればうっとり見とれてしまうほどだ。

でも、その美しい容姿で、いまだに婚約者様がいらっしゃらないなんて……そこは自慢出来ないのでは?

そしてお願いですからそれ以上不穏な発言はやめてくださいね、本当に!


「お言葉ですが、皆様にどう思われたとしても、私とレオンの婚約は絶対的なものですわ。王家よりお言葉もちょうだいしています」


実は陛下から謝罪文が届いた同じ日に、王家より“レオンハルト・ハインヒューズとリリア・レイズの婚約は絶対的なものとする”と直筆の書状が届いたのだ。

それは言葉を言い換えれば王命であり、それを破棄させるのは、再び王家から直接の指示がない以上は不可能となる。

以前までならば家同士の約束であり、もしこれが破棄されれば、世間に対する醜聞で済んだ。良くはないけれど。

ただ、書状により、これは王家に対する約束となり、これを破棄すれば反逆者として大罪人となるのだ。

つまり私とレオンの婚約は、もう誰が何を言おうと何を思おうと、絶対に破棄出来ないものとなったのである。

お義母様は「珍しくお兄様がいい仕事をしましたわ」と仰っていたし、レオンは「まあ少しはマシな対応だろう」と納得したように頷いていたくらいだが。

レイズ家には改めて「レオンハルト様のお言葉は絶対に聞くように!」と重ね重ね言われたし、ハインヒューズ家からすれば大歓迎の内容だったらしいが。


「──はぁ!?たかが伯爵令嬢の婚約に、どうして王家が出てきますの!?」

「レオンが公爵家のご子息だからでは?」


別に、冷静に考えればおかしなことではないのだ。

レオンは公爵家の三男で、直系ではないし継承権もないけれど、王家の血は確かに継いでいる。

今まで書状がなかったのは、レオンとの婚約に陛下自身が否定的だったから。

ただ、あの国滅亡の危機を目の当たりにし、甥の婚約を反対するより、全面的に賛成して敵に回らないようにしようと考えたのだろう。

つまり陛下のご判断は、大きくいえば国を護るためのものなのだ。


……目の前で眉を釣り上げる彼女には、きっと伝わらないけれど。

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