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私の愛しい婚約者  作者: 華月
本編
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ハインヒューズ家には、レオンに対する招待状やお義母様に対する招待状が多く届く。

そのついでに私が招待されるということもあり、私宛の招待状、というのは実は多くない。

レイズ家は薬草栽培でこの国になくてはならない存在ではあるが、レイズ家に生まれた私自身は、所詮は地方の貴族令嬢。

地方貴族にわざわざ王都からの招待状が届くことはほとんどない。

届くとしてもお父様宛のものや弟宛のものがほとんどで、私がまともに招待されることなんて数える程度だろう。

だからこそ。

レイズ家に昔から仕えてくれている執事が渡してきた招待状に、ひどく驚いた。


「ねぇレオン、マリアンナ様からお茶会の招待状が届いたの」


それはジークベルト殿下のご婚約者様である、マリアンナ様からのものだった。

ジークベルト殿下にご紹介いただいた時、確かにこれから仲良くして欲しい、という旨のお話はいただいたけれど、完全に社交辞令だと思っていたから……。


「……トンプソン家のご令嬢だったかな?」

「ええ。せっかくだから、ご招待を受けてみたいわ」


レオンの肩に手を置き、じっと彼を見つめる。

するとレオンは頬を赤く染めると「くっ……!」と言葉を飲み込むように、口元を手のひらで抑えた。

ダメ?と重ねて問えば、レオンはしばらく悩むようなうなり声を漏らし、やがて渋々と言った様子で頷く。


「お茶会は私が参加出来ないから、本当は行って欲しくないんだよ……?」


夜会は男女伴って参加することが多いけれど、お茶会は男女は別々で行われることがほとんどだ。

王家など主催者が特別な場合は男女混合も有り得るが、基本は女性が催すお茶会には女性だけが、男性が催すお茶会は男性だけが参加する。

そこでお話をして交流を深めたり、情報交換をしたり──そこには異性に聞かせられない内容のものも含む──するのだ。

特に女性は出されたお菓子やお茶、参加者のドレスや髪型やアクセサリーで、王都の流行を察知できる重要な場。

今回はマリアンナ様主催ということもあり、きっと王都でも主要なお家の方々が招待されているに違いない。


「女性しか参加しないのだから、レオンが心配することはないわ」

「……リリィ、いいかい?リリィの魅力には男女問わず惑わされる可能性があるんだ、女しかいないからと安心してはいけない」


たぶん、惑わされるのはレオンだけだと思うわ……。

レオンはブツブツと結界が、とか、魔法付与が、とか呟いているけれど、もしかしてまた何かするつもりなのだろうか。

聞かなかったことにして、レオンにドレスの相談をすることにした。

お茶会までそれほど日付に余裕がないため、今回は新しいドレスを新調出来ないだろう。


「お茶会なら、どんなドレスがいいと思う?」

「そうだね、夜会よりも落ち着きのある色味の方がいいと思うよ。例えばパステル系の淡い色とか」

「うーん……それなら、この間レオンが買ってくれたパステルブルーのドレスなんてどうかしら?」


青空のように爽やかなドレスは、首元までしっかり隠れるが、デコルテから上はレースのデザインなので重さは感じない。

五分丈の袖も同じレースデザインで、ピッタリ腕にフィットするためお茶会でも邪魔にならないだろう。

手首までのショートグローブはビジューが着いており、全体的に可愛らしいドレスだ。


「いいと思うよ。あとはアクセサリーと髪飾りだね、せっかくだから使ってもらいたいものがあるんだ」

「……以前にももらったものがあるのだけれど」

「あのドレスに合わせて欲しいんだよ」


にっこりとレオンは笑うが、正直、私は青い色のドレスが一番多い。

当然ドレスに似合うようにアクセサリーも持っているが、最近は特に、似た色合いのアクセサリーが多い気がする。

レオンは頑なにドレス一着に対してアクセサリーをセットで買いたがるし、お義母様ともそこだけは意見が一致しているらしい。

私としては似たようなドレスやアクセサリーばかり要らないのではというのが本音なのだが、レオンやお義母様にとっては重要なこだわりなのだとか。

……けれど先日の、いつの間にかレオンから贈られた品に魔法付与がされていたという話を聞いてから、少し不安なのだ。

もしかして、今日着るドレスやアクセサリーに、何か魔法付与をされているのではないか、と。

レオンに聞いたところでにっこりと微笑まれるだけで、否定も肯定もされないから、ますます不安だ。


「ねぇレオン、まさかだけど、そのアクセサリーや髪飾りに何かしたわけではないわよね?」

「…………」


レオンは一瞬キョトンとした表情を浮かべると、うっとりと蕩けるような笑みになり、そっと私の頬を撫でた。

素敵な表情に胸がきゅんと高鳴るのはもう知っているから、誤魔化さないできちんと話して欲しいものだわ……。

でも、それに黙り込んでしまう、私も私なのかもしれない。




「いいかい、本当に気をつけるんだよ?もしも何かあれば、すぐに私の名前を呼んで。いつものように結界と魔法はかけておくから安全ではあるが、もし万が一ということもある。ああ、愛しいリリィが、私の目の届かないところに行ってしまうなんて……!」

「わかった、もう何回も聞いたわ。大丈夫だから……」


マリアンナ様主催のお茶会当日。

レオンは今日になるまで何度も不安だと口にしていたし、ドレスに着替えている間も、着替え終わっても、トンプソン家に訪れる馬車の中でも、トンプソン家の前に着いても。

同じことを何度も何度も言い聞かされて、もうレオンの言葉に重ねて同じ言葉を言えるようになったくらいだ。

案の定というか、やはり今日の装いにも、レオン特製の魔法付与がされた魔石が使われているらしい。

見た目は普通の宝石に見えるので一体どれが魔法石なのかはわからないけれど。

そして今日もまた、レオンによる魔法や結界が、厳重なまでにかけられているらしい。

自覚がないのは、私が魔術に詳しくないからだろう。

レオンも普段はわからないように隠していると言っていたし。

何か防御魔法をかけてある痕跡を残してしまうと、対策を取られてしまうかもしれないから、痕跡を消すという作業が実は一番大切なのだそうだ。

いかに痕跡を消し、しかし効果を薄れさせないかが、案外難しいのだとか。

私に説明をしてくれてもあまり理解は出来ないけれど。


「レオン、大丈夫よ。行ってくるわ」

「リリィ……!頼むから、出来るだけすぐに、すぐに帰ってきておくれ!」

「頑張るわね」


そういえば、いつからかレオンとずっとそばにいたし、社交界デビューしてから長時間離れるのは初めてかもしれない。

といってもレオンは私に集音魔法やら位置情報確認魔法やらをかけていると言っていたし、きっと離れていても私のそばにいるのと変わらないはずだが。

レオンの頬にそっと唇を寄せてから、ようやく馬車を降りることが出来た。

本当はもう少し早く降りる予定だったのに、直前でレオンが引き留めようとするから……。

いや、ダメね、レオンのせいにするのは良くないわ。

私自身がレオンに強く言えないことも問題なのだから。

…………でも、でも、いつも自信ありげに、満足そうに笑みを浮かべているレオンが!

悲しそうに眉をさげて、潤んだ瞳で、じっと見つめて、弱々しくドレスを引っ張ってくるのよ!

そんなレオンを無理に引き離すなんて、一体どこの誰が出来るというの!?

普段は格好いいくせに、そういう時だけ可愛らしいだなんて。

レオンも本当にひどい人。

きっと自分の魅力を理解して最大限利用しているんだわ。

私がそれに弱いことを知っていて。


「まあ、リリア様!ようこそいらっしゃいました」

「マリアンナ様。このたびは、素敵なお茶会にご招待いただき誠にありがとうございます」

「先程リリア様がお降りになられたのはハインヒューズ家の家紋が入った馬車でしたが、もしかして、レオンハルト様が?」


マリアンナ様はほんのりと頬を赤らめており、どこか楽しそうに、お顔の前で手のひらを合わせられている。

きらきらと輝く瞳がいっそ眩しいくらいだ。


「ええ、本当はレイズ家の馬車で来るべきなのですが、レオンやお義母様がぜひにと仰るので、ついお言葉に甘えてしまいましたの」


私とレオンは離れる時間こそ少なくなったとはいえ、まだ婚約者である。

パートナーとして2人で参加する夜会ならまだしも、1人でしか参加しないお茶会に相手の婚約者の家紋が入った馬車で訪れることは普通はない。

ただ、レイズ家の馬車を王都まで運ぶのは少し手間だし、レオンやお義母様がハインヒューズ家の馬車を使えばいいというので、お言葉に甘えたのだ。

……お義母様だけでなくお義父様にまで「ぜひ使って!」と仰っていただいたのだから、むしろ断る方が失礼にあたる。


「まあ、素敵!リリア様はハインヒューズ家にすっかりお馴染みになられているのね。今日のお茶会、実は婚約者様のいらっしゃる方たちばかりですの。ぜひ、リリア様やレオンハルト様のように、円満でいられる秘訣を皆様お聞きしたいと思っていますのよ」


ふわりと微笑まれるマリアンナ様。

秘訣も何も、マリアンナ様の魅力に、ジークベルト殿下もきっと骨抜きですわ!

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