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私の愛しい婚約者  作者: 華月
本編
10/75

10



ふわりと広がる、プリンセスラインのシルエット。

ふんだんにレースとフリルが使われた可愛らしいデザインは、しかしバランスの良さで、子どもっぽくは見えない。

生地は、今まで着たことがないくらいに上質なもの。

急きょ仕立てられたにも関わらず、そのドレスは美しいと表現するのが正しい気がした。


「よく似合っているよ、リリィ。とてもきれいだ」

「あ、ありがとう……」

「随分悩んだが、このドレスにして正解だったね」


今回ドレスを新しく仕立てるについて、一番張り切っていたのはお義母様とレオンだった。

どのドレスが私に一番似合うか、という話で、かなりの間揉めていたらしい。

結局レオンの選んだデザインを仕立てることになり、レオンはどこか誇らしげだった。

……普通、ドレスというのは女が選ぶものだ。

男性は着飾ったあとの女性に興味はあるが、着飾る道具そのもの──ドレスやアクセサリーなど──に興味を持たないことがほとんどだから。

しかしレオンにはそれが当てはまらないらしく、婚約してからドレスを仕立てるのは初めてだが、今まで何度も贈ってくれたドレスも、レオンがデザインを決めていたらしかった。

アクセサリーはお義母様が選んでくれたらしく、レオンはそれが気に入らなかったようだが。

アクセサリー自体が気に入らない、というよりも、私の身につけるものを、レオンが選べなかったということ自体が気に入らないそうだ。

本当は私が選びたかったのに……という文句は、ドレスが仕立て上がるまでに何度も聞かされた。


「ありがとう……。でも、本当に、私も参加しなければならないの?」

「リリィは私の婚約者だろう?その紹介も兼ねているんだよ。パーティーに参加出来なかった者も多かったしね」


私とレオンは、婚約直後にハインヒューズ家にてお披露目パーティーを行っている。

しかし今回の参加者は、そのパーティーに参加していない方も多かったらしい。

改めてレオンの婚約者が私であると、紹介する上でも私の参加は必須のようだ。

でも、まさか、こんなことになるなんて、思いもよらなかったけれど。


「でも……王家主催の、お茶会に参加するなんて!」


今回ドレスを仕立てることになったのは、私がレオンとともに、王家主催のお茶会に参加することになったからだ。

招待されているのは、侯爵家や公爵家の、上級貴族の方たちのみ。

私は公爵家の三男──元王女殿下の息子の婚約者として、招待されたらしい。

聞けば、上級貴族の方の中で既に婚約者がいらっしゃる方は、婚約者とともに参加されるそうだ。


「不安かい?」

「……とても」


何か粗相をしでかすのではないか。

レオンの婚約者として認められないのではないか。

考えれば考えるほど不安に襲われ、むしろ、平然としているレオンの方がおかしい気がしてきた。


「大丈夫だよ、私も参加するんだし……。リリィは、母上の淑女教育を受けているのだから。王家直伝の教育だ、失敗することは無いさ」

「お義母様に教えていただいているから、不安なのよ。もし何か失敗して、お義母様のご尊顔に傷をつけるかと思うと……!」


私だけが恥をかくなら、それは仕方の無いことだ。

けれど私が失敗した場合、恥をかくのは私ではなく、婚約者のレオンと、私を教育してくださったお義母様。


「母上にはお墨付きをいただいたのだろう?ならば、リリィに必要なのは自信だと思うよ」


確かに、お義母様には「これ以上教えることはないわ」と仰っていただいた。

だからお義母様は、教育が終わり、数日ほどしてから、別邸から本邸へと戻られている。

今ハインヒューズ別邸に住んでいるのは、レオンと、一部の使用人たちだけだ。


「大丈夫。私はリリィを婚約者に出来て、とても幸せだ。もし愛しいリリィを傷つけるものがいれば、私が排除してあげるから。……例え、それが、誰であっても」


心強いはずなのに、にっこり笑うレオンに、背筋が凍った。

口元は笑っているのに、目が笑っていない。

きっとレオンの言葉は、本気だ。

ますます失敗するわけにはいかなくなって、胃のあたりがキリキリと傷んだような気がした。


「さて、本当は二人っきりでリリィを愛でたいが、さすがに王家からの招待を無視するわけにはいかないからね。そろそろ、王宮へ向かおうか」

「……ええ。お願いね、レオン」


微笑みながら手を差し出すレオンに、素直に手を重ねる。

このハインヒューズ別邸から王宮までは、馬車で数日。

本当なら何日も前から馬車に揺られていなければならないのだが、レオンには転移魔法があるため、本当にギリギリまで屋敷にいるのだ。

招待された時間には、早すぎても遅すぎても失礼にあたる。

しかし時間ぴったりに訪れるというのは少し難しく、多くの貴族が頭を悩ませる問題だろう。

しかしレオンの魔法ならば一瞬のため、指定時間直前に魔法を発動すれば、ちょうど良い時間になるというわけだ。

……転移魔法を使う時、レオンはいつも私に触れたがる。

手を重ねるだけならまだしも、普段は腰を抱き寄せられるので、最初はそれが発動条件だと思っていた。

複数人で転移する時は、レオンの体に触れているのが条件なのだと。

実際はレオンに触れずとも、レオンが認識できる位置にいれば、転移魔法は発動出来るそうだ。

単純に手を重ねたり抱き寄せたりするのは、私に触れたいからなのだと、あっさり教えてくれた。

今回も同じ理由だろうが、笑顔で手を差し出され、断ることなど出来なかった。

手が重なった直後、足元にすっかり見慣れてしまった魔法陣が現れ、光り輝く。

瞬きをした次の瞬間には、そこは見慣れたハインヒューズ別邸の部屋ではなくなっていた。


「っな!?」


突然目の前に現れたからか、門番らしき騎士が目を見開き、剣を引き抜いた。

その瞬間レオンは不機嫌そうに眉をひそめ、ぎろりと門番を睨みつける。


「──私とリリィに、貴様ごときが剣を向けることが許されるとでも思っているのか?」


ぶわりと、レオンから嫌な気配が溢れる。

といってもレオンはその嫌な気配を私には決して向けないため、なんとなくそう感じる、くらいの淡いものなのだが。

直接向けられている門番はガクガクと膝を震わせ、その場に崩れ落ちるように膝をついた。


「も、もうしわけ、ありませ……!」


声は震えており、とっくに剣は下げられている。

それでも嫌な気配を消さないレオンに、門番の顔色はどんどん悪くなっていく。

いっそこのまま気絶してしまいそうで、慌ててレオンの服の袖を引っ張った。


「レオン!そこまでにして」

「……リリィが言うなら仕方ないね。剣を向ける相手を許すなんて、私のリリィは心が広いな」

「たぶんレオンの心が狭すぎるだけだと思うわ」


私の言葉に、レオンはすぐに嫌な気配を消してくれた。

直接向けられていなくても、レオンの嫌な気配は肌を刺すようにピリピリとするのだ。

正直助かった。


「申し訳ありません。この度、お茶会へのご招待を頂戴しましたので、ご確認をお願い致します」


王家からの正式な招待には、招待状に王家の紋章が描かれている。

この紋章は王家の方のみが使用できる特別なもので、王家より降嫁されたお義母様にも、もう使用出来ないものだ。

王家の名を語ることも禁じられているため、紋章がある限り間違いなく王家からのものであると証明している。

詳しくはわからないが、レオンがいうには、紋章そのものに魔法がかけられており、王家の血に反応して使用できるらしい。

だからより正確にいえば、王家の血を引くお義母様や、レオンや、お義兄様たちは、この紋章を使うことは出来るのだ。

もちろん王家の名を語ったとして処罰の対象になるが。


ガクガクと震える門番に、レオンの手から抜き取った招待状を見せる。

放心状態の門番は、しばらく呆然とした後、慌てて立ち上がり、敬礼した。


「も、もも、申し訳、ありませんでした……!」

「お気になさらず。レオンも、私は気にしてないのだから怒らないでちょうだい」

「……リリィに剣を向けるなど、処罰しても問題ないのに」


レオンはいまだに納得していないのか、小さく文句を言っている。

あまりにしつこいのでレオンの脇を軽く小突くと、「くっ、リリィが可愛い……!」と口元を抑えたので、たぶん機嫌は直ったと思う。

機嫌が悪くなれば、王宮を壊す前に何とかしてくれ……とお義母様やお義父様にも頼まれていたことを思い出し、小さく溜息をついた。


お願いだから皆さん。

レオンの地雷を踏まないでくださいませね……。

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