最強最悪の守護者2
夏。
深夜3時。
〈ヒュオオオオ〉
ここは沖縄県の最南端の西。
神様の祟りから村を守って欲しいとの依頼が京都本山に届き、鐘國を使えとの指示により派遣された。
命スマホ〈用意は良い?解ってるわね?〉
鐘國「ああーはいはい、親父さんでも駄目なら俺が前出て首輪取る、だろ?解ってますー」
命「お父さんが動けなくなった場合も同じだからね?」
鐘國「はいはい」
命「始まる、スマホ充電大丈夫?」
鐘國「大丈夫だって」
命「じゃあ、お父さんに電話するから〈プツ〉
鐘國「首輪取るだけ・・はあ・・見えないって寂しいなあ」
鐘國の耳に親父さんのお経が聞こえてきた。
また鐘國スマホに命から連絡が入る。
鐘國「はい、もしもし」
命「・・」
鐘國「ん?おーい?」
命「・・」
鐘國「ん?何だ?聞こえんぞ?」
命「・・らを・・す」
鐘國「は?」
命「お前・・す」
鐘國「はあ?よく聞こえないって!はっきり言え!はっきり!」
命「ククク」
鐘國「・・おい?」
命「クひ、うひ、いひひ」
鐘國「!?・・誰だ!命はどうした!」
命「・・〈プツ〉
鐘國「!?・・糞!」 藪の中から広い駐車場へ駆け出す。
〈ガサガサ、ババ!スタン!〉 小さな崖から飛び降り、駐車場へ出た。
駐車場にはしめ縄と儀式の為に作られた小さな祠と鏡て、沢山の食料が置いてある。
お坊さん達が20人、親父さん、島の村長、役員らも正座し、その周りには結界のしめ縄が張ってあった筈だがー。
誰も居ない。
祠はある。
人間だけが居ない。
鐘國「!・・あーそう、またこういうパターンね、はいはい、糞があ!」駆け出す。
祠に駆け寄る。
結界のしめ縄が腐ったみたいにドロオと溶けていた、酷い匂いだ。
食料も同じようにぐちゃぐちゃに腐っていた。
どれもが今日買ったばかりの物だった。
蝿すらもその周りで死んでいる。
鐘國「こ、こりゃすげえ!まじで神様レベルかよ!?・・でも一体何処に消えた?」
辺りを見回しても絶壁の海が広がるばかり。
《ザパアアン、ザッパアアン》
鐘國「ま、まさか・・」下を見る。
鐘國「落ちた?・・駄目だ・・見えん・・〈グン!〉うええおお!!??」突然背中を押され、小さな丸太で出来た柵から大幅に頭が出てしまい、転落ー・・〈ザザザア〉する寸前に岩に腹を擦りながら掴まった。
鐘國「う!?うぐはあ!はあはあはあはあっぶあっぶねえ!!・・誰だこの野郎があ!」
見上げても暗くて何も見えない。
鐘國「うううー、ふうふう、くっそ、くっそう!」 必死に登ー・・〈グン〉何かが下半身に?抱きつかれている?
鐘國「・・」 恐る恐る下を見る。
知らない大人の女性達。
暗くて見えない筈だがはっきり見える。
数えきれないくらいの人数がしがみついてぶら下がっていた。
鐘國「えあがあああ!!えあがああああ!!あがあああ!!」
泣き叫びながら必死に登ろうとするが、重い、重すぎる。
鐘國「たす、たずてあはあ!・だれかあ!たすけへえ!へあああ!たひゅへああ!!〈ズリ!〉へり?・・」
まさかー。
〈ズリズリズリズリ〉 上に登って来ている。
鐘國「〈ゾゾゾアアアア!!!!〉ひ!ひ!ひ!ひ!」
人はー。
鐘國「〈ズリズリ〉ひ、・・ひ・・ひ・・」
本当に恐怖した時ー。
鐘國「〈ズリズリ〉ひ・・ひ・・・・・・・・・・〈ズリ〉」
声が出せないモノなのだ。
ついに顔まで顔が上がってきた。
顔を見てはいけない。
解っているのにー。
女性「あ・・」
鐘國「・・・・」
女性「あ・アイシテ・ル」 半分ドクロの海虫だらけの顔。
鐘國「 」〈ブチン〉無意識に片手で首輪を千切った。
〈カ!!〉 青い光と共に小さな和服美少女がフワリと鐘國の前を横切る。
鐘國「(え?)」
鐘國が見たのは横顔だけだかー。
綺麗だと思った。
のもつかの間だった。
その美少女は次の瞬間!《ビュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ》
竜巻を口で起こし、吸い込み始めた。
何百という亡者達が吸い込まれていく。
海の中から一際大きい女の怪物が姿を現した。
怪物「妾の恨みを思い知らしめるのだあ!邪魔をするなあ!」
竜巻に抵抗しようと踏ん張っている。
美少女「・・」 竜巻を止めた。
怪物「お前さえいなければあ!あの村の先祖らは、妾の子供を殺し、挙げ句には旦那も殺しいい!妾をも犯そうとしいい!逃げた先のこの断崖で犯されるくらいならと妾はこの身をここで《ガブシュ!》美少女の口が大きく変化し、一瞬で怪物の足だけ残し、食べてしまった。
鐘國「へ?」
美少女「・・〈モチャモチャ、ビュゴオ!パパクモチャモチャ〉」足まで平らげた。
美少女は辺りを見渡すとー。
鐘國の体に抱きついた。
鐘國「え?ちょ?」
美少女「スー、スー、スー」
眠ったようだ。
そして消えた。
命「鐘國!鐘國!鐘國ってば!〈ペチペチ、ペチペチ〉このう・・起きろ!」〈バッチイン!〉
鐘國「〈ガバア!〉痛ああああああぁぁぁぁぁ・・ん?」
駐車場。
鳥〈ピーヒョロロロローー〉明るい。
鐘國「ん?あれ?ん?んん?・・・・は!?そだ!お前ら無事か!?今まで何処に行ってたんだ〈ギャウウウ〉いいいててて!?」命から鼻を摘ままれた。
鐘國「いってえ!いてーな!何すんだよ!」
命「はあ、あんた何も覚えてないの?」
鐘國「は?何が?」
命「あんたねー、あんたはずっと寝てたの!藪の中で!」
鐘國「は?」
命「まあ、私達も寝てたんだけど・・」
鐘國「は?」
命「でも気づいたらこの辺りの幽霊全部居なくなってて、これは絶対なんかあったって思うんだけど、・・あんた何か知らない?」
鐘國「・・・・」
〈チャリ〉 ネックレスを見る。
梵字が半分以上消えていた、残り2割しか残っていない。
鐘國「・・俺・・見たかも知れない・・」
命「何を!?」
鐘國「幽霊と・・美少女」
命「・・そう、やっぱりあんたが助けてくれたんだ、ありがとう、連れてきて良かった、あんたが居なかったら、多分あたし達明日の朝刊に載る所だったわ、本当に、ありがとう〈ニコ〉」
鐘國「お、おう、ま、まあ、俺は何もやってないけどな、やったのはー・・」
鐘國、命『女の子、・・・・プハ!ハハハハハハ、アハハハハ』
鐘國「神奈川県とか何しに行くんだよお?」
早朝。
京都の大きな神社の掃除中。
命「いいから!行くの!今度の土日曜使って!」
鐘國「はあ!?だから何でかって聞いてんだよ!理由を言え理由を!」
命「・・・・お父さんとお母さんと弟を食い殺した奴がいるの」
鐘國「え・・」
命「お願い!復讐に力を貸して?あんたにとり憑いてる女の子を利用したらあっという間だから!だから直ぐに終わるから!ね!?お願い!」 〈パン〉と手を合わせ少し頭を下げる。
鐘國「だったら・・条件が・・ある」
命「・・ななな何?・・エエッチなこ事はフェラまでなら・・何とか」
鐘國「!?・・じゃ・・じゃあしてもらおっかなあ?・・」
命「・・・・うぐ・・グズ・・ひっぐ・・わ・・解った・・やるわ・・その代わり絶対に約束守ってよね」
鐘國「お!おう!〈カチャカチャジ、ジジー〉
命「・・」 泣きながら前に座る。
鐘國「・・」 チャックを下ろしたまま動かない。
命「・・?・・早く出しなさいよ?」
鐘國「・・はあ・・〈ジジーカチャカチャ〉」元に戻す。
命「!?何?何なの?」
鐘國「・・お前・・やっぱ馬鹿だなあ」
命「な!?何ですってえ!?」
鐘國「行くよ」
命「え?」
鐘國「だから・・身を売るような真似すんなよな」
命「!・・あ、あんたがさせたんじゃない!」
鐘國「試したんだよ、でも凄まじい怨みだな、そこまでして仇を討ちたいんだもんな」
命「当たり前でしょ、何が何でも絶対仇を討つんだ!私はその為に生きてるんだから」
鐘國「・・じゃあ仇を討った後はどうすんだ?」
命「・・別に・・しがない霊媒師として生きて行くんじゃない?どうでも良いわよ、そんな事」
鐘國「・・そうか・・〈ニコ〉いいなそれ、何か格好良いな」
命「!?・・チ・・ふ、ふん!」 箒で掃く。
鐘國「でもさあ、本部とか、親父さんとかどうやって誤魔化すんだ?絶対反対されるじゃん」
命「今は夏だし、今度は8回忌なの、だからチャンスなの、絶対逃したくないの!!」
鐘國「・・解った、でも、多分俺は行けない事になると思う」
命「?何で?」
鐘國「だってお墓とかそういう場所、俺は昔から行っては駄目ってきつく言われてんだもんよ、だから今回も・・多分だけど」
命「何だ、それなら大丈夫、誰もあんたなんかと一緒に行動するもんですか、バラバラに決まってるでしょ?」
鐘國「ふえ?・・じゃ、じゃあ」
命「既にあんたのお婆さんには話は通してあるわ!明後日の夜こちらに着くそうよ、まあ、留守番があんた一人じゃやっぱね、お父さんも心配みたいだったし」
鐘國「うええ、お婆来んのう?」
命「何よ?」
鐘國「嫌な予感」
お婆「なんじゃこりゃ?ああん?」
ネックレスを見ながら言う。
鐘國「いや、これはその、仕方なかったというか、強力な幽霊だったというか?」
親父さん「御船さん、解ってください、本山の命令では断れません、よく、解ってますでしょう?」
御船「解ってないのはあんたらの方だよ!」凄い剣幕だ。
御船「いいかい?よくお聞き?」
鐘國、皆『《ゴクリ》』
御船「あんたに憑いてるソレは、神様や悪霊やら、妖怪やらとは一線を画す存在なんだよ、現に神様ですら太刀打ち出来ないじゃないか、いいかい?それはいずれ力をつけたら、この世界のどんな神様も食い尽くしてしまうだろうよ、そうなればどうなる?」
鐘國「さ、さあ?どうなるん?」
御船「この世界に神様の加護が無くなるという事は、赤ん坊が育たなくなるという事なんだよ、奇形児や、精神がおかしい赤ん坊が沢山産まれるという事さね、大人もそうだよ?大人も精神がおかしくなる者達で溢れ返る、そして、世界戦争やら、酷い喧嘩が普通になるだろうさね」
命「そ、そんな」
御船「ソレはね、手を出してはならない仙人界の術で、何千年もの時間をかけて作られた現象、みたいなモンさね、どうして仙人界の傑作が人間界に現れたのかは・・解らんが・・」
鐘國「せ、仙人界って・・はは、酔ってんね?ばっちゃー・・」
御船が睨む。
鐘國「・・」
御船「はあ、儂らには到底及ばん世界があるんじゃ、自分達の世界でしか生きらん蟻の世界に水やらセメントを流し込むじゃろ?蟻は何が起こったのか解らずに死ぬだけじゃ」
皆『・・』
御船「同じじゃよ、全く及ばん世界があるんじゃ」
鐘國「・・その世界に返せないの?」
御船「お前が小さい頃にな、試した」
鐘國「!?それで!?」
御船「儂以外全員死んだよ、正確には、魂を食われた」
皆『・・』
鐘國「そこに・・俺の両親が?」
御船「・・」
鐘國「どうなんだよ!!」
御船「お前には両親は居らん」
鐘國「居らんって・・だから死んだんだろ!?」
御船「違うんじゃ」
鐘國「だから何が?」
御船「お前がそうなんじゃ!」
命「嘘・・」
鐘國「はあ?」
親父さん「まさか、そんな事が?」
鐘國「だから何が?」
御船「お前が仙人なんじゃ」
鐘國「・・・・?・・は?」
御船「仙人界にはお前の両親は居るじゃろう、だか、この世界には居らん」
鐘國「・・・・はあ~?」
御船「だからお前は傷の治りが早いし、冷たい水も、熱い水も直ぐに慣れるじゃろ?風邪ひいた事はあるか?無いじゃろ?」
鐘國「うぐ!?」
御船「時期が来たらどちらにせよ、教える事じゃ、命、両親の敵は鐘國のソレを使えばよかろう、だが!・・くれぐれもそれっきりじゃ、お主の境遇の家族を大量に創る事になりたくなければな」
親父さん「!?命!?どういう事だ!?ハ?まさか!8回忌を利用して!?」
命「・・」
御船「よさんか!」
親父さん「し、しかし・・」
御船「復讐は早めに終わらせた方がこの子の為じゃ、生きてる人間ならば、反対する所じゃが・・どちらにせよ、退治しなくてはならん、これは本山からの指令書じゃ、横浜の地下鉄建設トンネル工事再開だそうじゃ、このタイミングも定めじゃて、覚えておるじゃろ?お前の親父さんはこのトンネル工事の浄めに行き、呪いに感染した」
命「・・運命ですね」
御船「悲惨な現場だったそうじゃな、生き埋めになった工事関係者は53人、その家族らも謎の不審死を連続して遂げ、封印となったトンネル工事」
親父さん「俺も行くからな!」
御船「ならん!この二人だけで行けと指令書にも書いてあるじゃろ!」
鐘國「え・・二人って・・」
御船「そうじゃ!お主ら二人だけで行くのじゃ」
鐘國、命『ええええ!!?』
親父さん「ふ、ふざけるなあ!!こんな指令書がなんだあ!《ビリビリイ!》俺はこの子の父親だあ!絶対にいー・・」
御船「・・」 睨む。
親父さん「う、ううぐ」
御船「お主が行っても一緒にソレニ食われるだけじゃ、取り憑かれてな」
命「お父さん、大丈夫、鐘國に憑いてるモノは最強だよ!だから大丈夫!」
親父さん「嫌な予感がするんだ・・何かとてつもない嫌な予感が!頼む!行かないでくれ!」
命「駄目だよ、工事は始まってしまう、またあの悲劇を産む訳にはいかないの」
親父さん「しかし!」
御船「黙らっしゃい!大の男がみっともない!シャキッとせんかい!」
親父さん「うう」
鐘國「・・あのうー・・」
親父さん「ああ!?何だよ!!」
鐘國「と、トイレ」
皆『・・』
深夜。
横浜。
地下鉄から入りー。
廃線になったトンネルをライトで照らしながら歩く。
かび臭い。
鐘國「ここからか・・」
命「ええ」
背が高い頑丈な錆びた鉄の門が塞いでいる。
取っ手部分には鎖が何重にも巻き付けてあり、門全体には御札がビッシリ貼られている。
鐘國「・・じゃ、開けるぞ?」
命「ええ」
鐘國は鍵を取り出した。
鐘國が鍵を開けようー・・〈パキン、トサ〉鍵が落ちた。
《オオオオオオオオオオオオオ》
鐘國「ぐ、偶然・・かな?」
命「・・さあね、早く鎖」
鐘國「わ、解ってんよ」
《ザリリリリリリリンン》鎖を取った。
門を開く。
《ギ、ギギギ、ギガアアアアイイイイイイイガチャンンンン》
真っ暗闇が続く。
鐘國「・・す、凄い雰囲気」
命「・・」 歩き出した。
鐘國「!お、おい!」
本山。
???ハゲ2「入りました」
???ハゲ1「そうですか、巧く処理してくれると助かりますねえ」
ハゲ2「鐘國のソレが暴走したらどうします?」
ハゲ1「・・心配ですよねえ・・」
梟「・・〈ガチュ、ムシリュ、ガ、ガ、チュビ〉」 生きた鼠を食べている。
ハゲ1「不幸な落盤にでも合わなければ良いのですがねえ・・ほほほほ」
《END》