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転職のすゝめ ~賢者様ですか? いいえ奴隷使いです~  作者: 阿久大寒
第1章 国境都市の奴隷使い
7/8

※閑話※ この世界のこと その1

閑話、というタイトルで世界観や設定を挟んでいきます。

基本的に読み飛ばしても大丈夫な話、のはず

 迷宮。それは人類の敵たる魔物(モンスター)が生まれ出ずる場所。


 迷宮。それは人類の糧たる魔結晶や各種の資源が産出する場所。


 故に人々は迷宮へと挑む。人類に仇なす魔物(モンスター)を間引き、同時に様々な資源を得るために。


 故に迷宮には人々が集う。何時しか迷宮の周りには街が出来、人類の拠点となっていく。


 迷宮。その存在理由は未だ解明されてはいない。今なお危険と繁栄が同居する、この世界最大の謎の一つである。


 故に我々は迷宮へと潜るのである。新たに冒険者となりし者よ、我々は君を歓迎する。新たに迷宮へと挑む者よ、努々危険を忘れることなかれ。迷宮に潜みし悪意(モンスター)は常に君を狙っているのだから。


新たなる同胞よ、我等と共に世界の謎を解き明かさん。


  ――元魔銀(ミスリル)級冒険者、アーノルド・グレイ著『冒険者の手引き』より――




うーん、世界の謎かぁ……女神様からネタバレされてる俺としては、そんなロマンを求めて挑む様なもんじゃないと分かってるからなぁ……。このアーノルド某さんには申し訳ないが、これからもレベリングと資金稼ぎに手頃な階層で戦うだけなんだよぁ……。


 あ、ちなみに迷宮と書いてダンジョンと読む感じね。迷宮(ダンジョン)を探索する、みたいなそういう言い回しが一般的ですよ、はい。


 この世界、魔物と書いてモンスターと読む感じのアクティブエネミーが迷宮によって生み出されているんだが、それにはちゃんと理由がある。アーノルドさんは「世界の謎だ(キリッ」とか書いてくれてるけど、全然そんなことはない。


 空間が歪むほどの魔力溜りに、女神様が世界創造の際に使った原初の力の()()()が混ざることで、そこは迷宮(ダンジョン)となるのだ。そして迷宮はひたすらに魔物を生み出し続ける。


 「世界創造における原初の力の反作用」はそのままにしておくと文字通り世界を生み出す反作用としてもう一つの世界を生み出してしまう。地上の他に魔界とかが存在するそういう感じの世界観のやつはこれらしい。何せ創造神が自分のために世界を創ろうとした力の反作用なので、基本的にもう片方の世界と敵対してしまうわけだ。その「反作用」の影響下で生み出された生命や魔法生物(=魔物)は本能として創造神の生み出した生物、とりわけ人類を敵として認識するらしい。まあ本能じゃしょうがないよね、本能じゃ。つまり魔物とは世界創造における原初の力の反作用によって生まれた人類殲滅のため尖兵なわけである。


 そんなのがうじゃうじゃいるもう一つの世界、なんて複雑な世界の管理なんて()()()()()に出来ようはずもない。世界創造の初心者たる我らが女神様はなのでこの困った反作用を分割し世界に散らした。要するに大きな借金を小さく分けて未来へとリボ払いにしたわけだ。こうすることでもう一つの世界、なんて大げさな結果を生み出さず、迷宮という小さな異界を生み出すに留めることが出来た、というのがこの世界の基本的な性質(ルール)であるらしいのだ。そして迷宮はごくごく微量な「反作用」によって魔力を凝り固めて魔物を生成する。


 そう、魔物を倒すことでこの困った反作用を少しずつ、本当に少しずつではあるが打ち消していることになるわけだ。これがこの世界の知的生命体と魔物が絶対に相容れない理由でもある。何せ本質的に普通の生命体ですらないのだ、魔物というものは。


 この世界の知的生命体への敵愾心を本能としてプログラミングされた魔力の塊。それがこの世界における魔法生物、魔物(モンスター)という存在である。


 故に、この世界にR18な感じのオークやゴブリンは存在しない。服だけ溶かすスライムなんてのも居ない。えっちい展開になるサキュバスやインキュバスなんてもっての外。オークやゴブリンと呼ばれる魔物は存在するが、単にそれらしい姿形をしているだけで、ひたすらに人間を攻撃するだけのある意味ではロボットなのである。サキュバスだって見た目で人間に攻撃を躊躇させたり油断させたりするためだけに美人な見た目をしているが、してくることは単純にこちらへの攻撃や状態異常を起こす魔法攻撃とかだ。つまり迷宮に浪漫など存在しない。まあ出会いはあるかも? 知らんけど。

 とにかく、人類は自分達が生き残るためにも迷宮に挑んで魔物を間引き続ける宿命を背負わされているというわけなのだ。この世界、シム〇ースじゃなくてターミ〇ーター2だったんだなぁ?


 あ、ちなみに生ごみや汚物を処理する系のスライムは居る。っていうか地球で言う所のバクテリアとか粘菌が魔力によって超進化したものがこの世界のスライムであって、つまり魔物(モンスター)枠じゃないわけだ。魔力という超常エネルギーの存在によって地球的な生き物とは別次元の進化を遂げた存在なわけだな。こういうのはこの世界では「魔獣」という。文字通り魔力に適応した獣、という意味なのだが……スライムから真龍(ドラゴン)まで一緒くたに「魔獣」ってカテゴライズなのは流石に雑過ぎやしませんかね女神様。いやまあ、分類してんのはこっちの学者さんなんだろうけどもさ。


 だってよく考えてみて欲しい。魔力によって空を飛ぶ大怪獣と化した真龍(ドラゴン)とかどうやって研究しようっていうのか。ただでさえ迷宮から溢れてくる魔物への対処に追われている人類に、怪獣のサンプルが欲しいからちょっと退治してきて、なんてことが出来る余力は現状では無いのである。よって、あの真龍は赤い色で炎の吐息を使うから火炎龍と名付けよう、みたいなレベルで精一杯なのだ。必然的にこの世界基本的に魔獣についての科学的な研究は全然進んでいない。どういう行動を取るか、生息範囲はどの辺か、敵対してしまう条件は何か、といった本当に初歩の生物学・統計学的な研究がほとんどで、凶悪な魔獣の生息範囲というのはアンタッチャブルになっていることが大半なのである。まさに触らぬ神に祟りなし、だな。


 ちなみにちなみに、この世界のスライムはそんな魔獣の一種であるからして、一般人が扱うには普通に危険である。そこそこサイズ以上の都市では下水処理施設とでも言うべき専用の頑丈な施設で、排水の浄化のために管理・飼育されてる感じね。街中ではスライムの実物なんてお目に掛からないよ、うん。


ッと、話が逸れたな。話を戻すと、「この世界の人類は生まれたその瞬間から、創造神がリボ払いに設定した反作用という名の借金を清算し続ける宿命を背負わされている」、そんな世界なのである。生き残るためには人類全体で常に魔物を狩り続けなくてはならないのだ。剣と魔法の世界、思ってた以上に世知辛ぇ……。


 とはいえ、さすがにそれだけでは人類はモチベーションを保てない。餌が必要だ、と女神様は考えたらしい。魔物は単に反作用によって生まれた魔法生物。極論すれば単なる魔力の塊であるからして、倒しても魔力が霧散して何も残らない。()()()()()()


 女神様はこの世界に一つ法則(ルール)を追加したのだ。反作用を核とした魔力の塊が散らされるとき、その魔力の一部を代償として物理法則が捻じ曲げられる。そこに唐突にあるはずの無いものが生み出される。


 すまない、回りくどく言ってしまったな。要するにドロップアイテムだ。魔物を倒せば何かしらのアイテムが出現するように女神様が手を加えたことで、迷宮は資源を生み出す場所へと変貌した。この世界の人類が魔物を間引き続ける理由を女神様はこの世界に生み出したわけだ。大抵の弱い魔物からは小さな魔石がドロップするだけだが、魔物が強くなるにしたがって――元の魔力が多くなればなるほど――大きな魔石がドロップするようになり、また魔石以外のものが同時にドロップするようになる。


 こうしてこの世界の迷宮は「狩場」となったのだ。放置すれば人に仇為す魔物が溢れ出てくるが、適度に魔物を間引き続けることが出来れば魔石や魔法金属、あるいは上質な肉などの他では得ることのできない資源を産出する。


 そしてそんな美味しい狩場を余所者に明け渡すわけにはいかない。いつしか人々は迷宮を囲うように城塞都市を築くようになっていった。古代中国や古代ローマのような、あるいはまるでRPGやSLGゲームのような、広い大陸にぽつぽつと大都市が点在する形態はこうして生まれたのである。迷宮を抱えるおよそ全ての都市は2重、ないし3重の城壁を持ち、歴史の長い大都市であれば4重、5重の壁を持つものまである。都市の外に行けば、地球と違って魔獣という人類にとって脅威となる野生動物が闊歩する世界であるが故に、人が増え都市が大きくなっても城塞都市という形態が廃れることなく現在に至るまで維持され続けているというわけだ。


「ふむ、我が主(マスター)冒険者の手引き(そういったもの)をきちんと読まれる方だったのだな」

「なんだそりゃ、皮肉か?」


 そしていきなりこの言い様である。この()()()()、我が主なんて俺のことを呼ぶことにした割に敬意が足らんのじゃなかろうか。


「マスターの年齢を考えると中級魔法(ハイ・スペル)を使いこなしているのは控えめに言って天才の部類だろう? 一々そういう細かな手引書など必要としないタイプなのではないかと思っていたのだ」


 違った。評価が高過ぎるやつだったわ。しかしこいつほんと何も分かってないな。天才ってのは勇者とか聖女とか呼ばれてる連中のことであって、攻撃魔法の才能を代償に他の魔法の才能を底上げしているだけの俺なんかはただのチーターに過ぎないのだ。まあ地下牢で顔を合わせるなり百面相した挙句、唐突に土下座して「我が忠誠を主に」とか言い出すズレた感性というか、暗殺者なんてしてたくせに負けたら潔く従う武人系精神(マインド)の黒エルフとか相変わらず属性詰め込んでるやつだ。


「分かってないなお前。まあまだ顔合わせて2日目だから仕方ないか」

「すまない我が主(マスター)。1日も早く我が主(マスター)のことを理解できるよう努力しよう」


 お、おう。なんだこの黒エルフ。カゲロウといい、うちの奴隷は妙に忠誠心高くないか? 俺そんなチート貰った覚えないんだけど? 理由の分からない忠誠心は割と普通に怖いんだが?

黒エルフが忠誠を誓うくだりは次回

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