プロローグ2:転生のすゝめ
いきなりだが俺は転生者だ。
いや本当何言ってんだって感じだが事実なのだから仕方ない。
元々の俺は現代日本に生きる普通の人間だった。いや、30過ぎてフリーターの引きこもり系オタクを普通と言って良いかどうかはあれだが、ともかく地球の日本列島に住んでいたわけだ。
30歳、大学中退、フリーター。ハッキリ言って現代日本人としてはかなり人生詰んでると言っていいレベルだろう。少なくとも王手かチェックはかかってる、うん。だが社会保障の充実した日本だ。別に贅沢せずに食べるに困らない暮らし、ぐらいならここからでもまだ間に合うとは思う。さすがに定職につかずにフラフラするのにも限界を感じ始め、ハローワークにでも行こうと外出しようとした日のことだった。
あ、そうそう。先に断わっておくがトラックに轢かれたとかそんなまっとうな死因じゃないぞ。
「自慰中に心不全ですか……また駄目な魂ですねぇ」
「人が回想し始めた矢先にネタバレすんなよ!」
出題するより先に答えを言ってしまうという、空気読めてないこの女。いや、正確には俺からは女っぽく見えるってだけで、どうにも輪郭とかはぼやぼやっとしていてハッキリしない。どこの光の国の住人さんで? って感じ。
最悪な死に方をしたはずの俺は気が付いたら周りに何も無い真っ白な空間に居て、目の前にこのぼや~んとした存在感の塊みたいなのがいたわけだ。一体何がどうしてこうなったと、ちょっと回想してたというわけだな。
で、この女っぽい何者か曰く、神と呼ばれるような存在の一人だという。つか、神って一人、二人って数え方でいいの?
「神話とかにもよりますよ? あなたがこれから行く世界では一柱、二柱って数え方ですけども」
「だからモノローグに突っ込むんじゃねぇよ! っていうかなんで人の心が読めるんだよ、あれか神だからか」
「端的に言えばそうだ、としか言いようがありません」
この野郎。いや、女っぽい神様ってことだから女神か。俺の死因がテクノブレイクだからって絶対見下してるだろこいつ。っていうかこれから行く世界だと? なんだ、転生でもさせてくれるっていうのか。
「話が早くて助かります」
そしてまたモノローグに平然と返事をしてくる女神。別に転生させてくれること自体はいい。何せ元、っていうかついさっきまでバリバリのオタク人生だったんだ。ファンタジーな展開に心躍らないわけがない。何より死後の俺の部屋の惨状を考えると正直いろいろと現実逃避したくて仕方がない。オタクの一人暮らしだぞ? 果たして死後すぐに発見してもらえるかどうか……あまりに恥ずかしい死因も含めてあの後どうなったのかについては真面目に考えたくない。っていうか忘れたい。
だが異世界転生と言っても気になることがある、っていうか気になることだらけだ。
「まず一つ。なんで俺なんだ? 自分で言うのも何だがまったく取り柄がないと思うぞ?」
「むしろ地球の神にとって価値の低い魂だから、というべきですね」
はぁ? 価値が無いからだと? どういうことだよと訝しんでいたら詳しく説明してくれた。
女神曰く、自分は地球とは別の世界を運営している神で、地球の神は神学校での先輩である(いやなんだよ神学校って、っていうか神に先輩後輩とかあるのかよ)。神とは自らの力で世界を作り出し、その世界に生きる高等生命体の魂から発せられるエネルギーを糧にしている存在である。世界の創造・世界への干渉は結構なエネルギーを使うため、基本的に世界を作ったら放置してエネルギーを回収するだけなのだそうだ。熟練の神ともなると世界の始まり以外は完全ノータッチで見事な完成度の世界を生み出すんだとか。
「世界のバランスが悪く、なかなか生物量が増えない時なんかは洗い流してリセットしたりとかするんですよ」
それなんてノアの方舟? むしろシ〇アースか? まあとにかく神達は自分の糧を得るために世界を生み出していて、その世界に生きる連中の魂が神達にとってのエネルギーを生産しているってことらしい。そうか、神様って第一次産業だったんだな? 高等生命体ってのがミソで、地球であれば人間が該当する。古代人、つまりはネアンデルタール人とかも対象だったらしいが、逆に昆虫とか小動物、細菌みたいな生命体では魂が小さ過ぎたりほとんど無かったりで神様的に有用なエネルギーを生み出さないんだそうだ。
で、ここでさっきの魂の価値という話に戻ってくるわけだ。神達からするとエネルギーの生産量が多い魂=価値のある魂ってことになる。当然そういう魂は手元に置いておく、すなわち自らの管理する世界で転生をくり返させるのが当然らしい。
まあさっき先輩とか言ってたから、後輩から先輩に「良い魂を譲る」っていうようなこともあるとは思うけども。
「質の良い魂は神にとっては財産ですから、そんなカツアゲみたいなことはしませんからね?」
あ、ハイ。
まあいい、つまりはそういうことなんだろう? 質の悪い魂なら譲渡することはあるってことなんだな?
「先輩の世界からしたら、貴方は大変に残念な魂ですからね。そういう魂をまだまだ発展途上の世界に刺激を与えるためにちょくちょく譲ってもらっているのですよ。例え地球では残念な魂であっても、別の世界からしたら十分な知識や異世界という全く別の世界の経験を魂の経験値として蓄積しているということになります。つまり転生して私の世界での知識や技術を身に付ければ、一つの世界しか知らない魂の平均よりも格が高い魂になり得るということですね」
つまりこの女神は自分の管理する世界がなかなか発展しないから先輩(=地球の神)に助けてもらってると、そういうことなのだな。そして俺は地球の神にこれぐらいならあげてもいいよと「ぽい」された魂であると。けっ、どうせ死因も残念ですよ。おら、さっさと転生でも何でもすればいい。
「まあそう腐らないで下さい。先輩からしたら大したことない魂でしょうが、私の未熟な世界からしたらそこそこの魂ですから。いきなり転生させるとエネルギーが強過ぎますので、スキルなどの加護という形で転生する時に何かしらの能力にエネルギーの一部を変換します」
「なるほど。いわゆる転生チート物なわけだな?」
「メタい発言止めてくれませんか?」
今更お前が言うのかそれを。ってかスキルってなんだよスキルって。あれか、簿記とかエクセルとかそういうやつか。それともまさか大剣術だの火炎魔法だとか言い出さないよな? 地球の神の後輩ってことなんだし地球っぽい普通の世界じゃないのか? ここでハリー・〇ッターに俺はなる! みたいな夢を見るほど若くは無いぞ?
「まずはどんな世界か話を聞いてからだな。あ、転生する時のその能力とやらは自分で選べたりするのか? それともそっちが勝手に決めるのか? 肉体派じゃないんで、字が上手いとかエクセルとかのスキルがいいんだが」
「能力については今現在の一覧を見せますからそこから選んで下さい。変換するエネルギーが許す限りの能力を付与しましょう。あと、転生先にはパソコンなんてものは無いので、Officeのスキルは無意味ですよ」
「パソコン無いのか。ってことは明治~昭和くらいのレベルか? それともまさか産業革命すらまだとかなのか?」
「……その、私はまだ世界の創造と運営は初心者でして、地球のような世界観の世界は造ったことがないのです」
「んんん? もっと詳しく頼む。地球みたいな世界って普通じゃないのか?」
「先輩は世界創造のプロですから。地球ほど神がノータッチな世界は凄い貴重なんですよ?」
「つまり女神様の世界は神が頻繁に干渉している世界だと?」
あ、なんか今まで以上に女神の輪郭がぼやけた。なるほど、動揺するとこうなるのか。
「し、仕方ないじゃないですか! 世界のグランドデザインがそう都合よく思い通りの形になんてなってくれないんですよ!?」
んー、要するに女神の世界は神の存在が普通に信じられているような世界ってことだよな。この様子じゃ相当頻繁に世界に干渉してるみたいだし。あれだ、文明の発展をじっくり待てないせっかちさんがプレイしているシム○ース状態なのかな。隕石落としたり火山を噴火させたり、結構細かい所にこだわってたよなあのゲーム、懐かしい。
待てよ? ってことはあれか? 超常現象っちくなことが頻繁に起こっていて、それを許容できる世界観ってことだよな? そしてこのメッタい感じの女神?様……おいおいおい、もしかしなくてもいわゆる剣と魔法の世界な感じなのか?
「ぐぬぬ……さすが地球産の魂、残念な死に方のくせに無駄に洞察力がいい……。あといい加減女神の後の『?』は取りなさい」
おい、本音漏れてるぞ女神。しかしそうか、魔法とかアリな世界なのか。魔物と書いてモンスターとか居るのか? 平和ボケと名高い現代日本人が転生して無事にやっていける気がしないんだが……? 戦闘とかになったら秒殺される自信がある。つまり安全に行こうと思ったら街から出ちゃいけないわけだ。街の中で生活の糧を得ることが出来るというのが当面の目標だな、うん。
そうか、俺転生しても街に引き籠る方向性なのか……。これはもうある意味天職だな! うぅ、今の俺は魂だけのはずだからこれは涙なんかじゃない、涙なんかじゃないやい……。
「というわけで手に職。これで仕事には困らないはずだ! …………多分」
「……世知辛い魂ですね……」