雨の日
静かな部屋に、ポツポツと音だけが聞こえる。
鼻にくる苦い匂いがする。
僕は、雨の音が嫌いだ。
僕は、雨の匂いが嫌いだ。
僕は、雨が嫌いだ。
なんだって、雨の日には嫌なことが起こる。
彼女が白い布団の中で眠っている。
今にも、起きてくるんじゃないかって今でも思う。
でも、今の彼女には今日も明日も見えないのだろう。
改めて彼女の顔を見る。
所々に皺がある。
長年、一緒に暮らしたが気づかなかった。
彼女の笑顔が好きだった。
笑うだけで、いつも心が癒された。
頰が緩んでいる。
まだ、僕にその顔を見せてくれるのか。
頭に雫が重く、のし掛かってくる。
止む気配はない。
服が水を含んで、重くなるのが分かる。
家の周りには森が広がっているから、またこれが空気を重くする。
このまま、押しつぶされてしまいたい。
ふっと、前を向くと遠目に人影が見える。
こんな所に人とは、珍しい。
この辺りは、僕ら二人しか住んで居なかったのだから。
風邪を引くといけないと思い、呼んで見る。
しかし、返事はない。
心配に思い近づこうとすると、森の奥へ消えてしまった。
走る。
この方向は以前、彼女が泥だらけで帰ってきた森だ。
聞いた話によると、この先は足元が悪く、崖もあるから危ないらしい。
それから、僕らはこの先には行かないように気をつけていた。
しかし、今は誰かがその先に行こうとしている。
急がないと。
人影を追いかけていたはずが、いつの間にか見失なってしまった。
木々が邪魔をして、よく前も見えない。
とりあえず前に進んでみる。
木の枝が飛び出て、多少危ない所もあるが今の所問題はない。
以前と地形が変わってしまったのだろうか?
彼女から聞いていた道ではないみたいだ。
道が開けてきた。
眩しい。
どうやら、いつの間にか雨が止んだらしい。
太陽が顔を出している。
だんだんと視界が戻ってきた。
すると目の前には、見たことのない光景が広がっていた。
辺り一面、花が咲いていた。
美しい。
花畑の中に人が立っていた。
手を招いている。
近寄ってみた。
しかし、そこには誰も居なかった。
代わりに、看板が立っていた。
そこには、
「貴方と私の花園」
彼女は最後まで僕に笑顔で居て欲しかったのか。
僕は、雨の音が好きだ。
僕は、雨の匂いが好きだ。
僕は、雨が好きだ。
だって、こんなにも嬉しい日はないだろう。
僕の頰には雨が降っていた。