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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖八十四頁 顛末と、初めての女子会

「では、洗いざらいしゃべってもらおうか。」

「ええと。どの辺りまで遡ればいいですかね?」

「そんなにやらかした覚えがあるのかい…。そうだねえ…とりあえず、なんであの場に君がいたか、だ。」

あの後ディノさんが領館に連絡を入れ、警邏隊が無事に到着。

直接破壊に関わった御曹司の護衛三人は即座に連れていかれ、指示を出した御曹司も本来は領館できっちり取り調べを受けなければならないのだが、一悶着あった末、迎えに来たダングレイブ商会の従業員に回収された。ここはまあ、金と権勢にものを言わせた商会側が押しきった格好だ。

そしてトーアさんなのだが。

私達は彼がカイロスさんの指示で領館に連絡を入れたと思っていたが、実際領館に連絡は入っていなかったようだ。

というより、警邏隊側に受信した記録が残っていなかったという。

例えば今回のように領内で想定外の魔物に出くわした場合、領民は領館で待機する警邏隊に通報することになっている。

そして警邏隊内部で情報を精査、被害の想定される規模や魔物の強さによってロイトやゲルターといった外部組織に応援の連絡をいれるという仕組みになっているそうだ。

今回の件で警邏隊に連絡が入ったという記録がないということから、そもそも彼が本当に領館へ連絡を入れたのか疑わしいということだった。

ではあの時通信用の魔道具で連絡を入れたのはどこか。

一番に疑われるのはダングレイブ商会の御曹司もしくは護衛の誰かだろう。

では逆に本当に領館へ連絡をいれていた場合。警邏隊内部の誰かが通報をもみ消したことになる。

どちらにせよ、警邏隊内部にも国の上層部から調査の手が入るそうだ。

その調査の鍵を握る彼は現在も黙秘を続けているという。

一方、壊される前の研究資材から転送された画像にブラックマーナガルムの存在が確認されたお陰で、檻で隔離した行為は私達の主張した魔物との交戦に伴う措置の一つと認定され、お咎めなしとなった。

しかも彼らは私の実力を計るためにわざと音を鳴らしビッグボアをけしかけたのだとか。

音を鳴らすために使用した道具が護衛の荷物の中から見つかったらしい。

あの破裂するような乾いた音は彼らでしたか。

やっぱり転移で吹っ飛ばしておけば良かったな。

そんなわけで無罪放免とはなったものの、私は何故か解放してもらえず『もう遅いし送っていくよ』という字面だけ見れば優しい言葉と共にディノさんとゲイルさんにエスコート(笑)されルイスさんの家へと強制連行された。

後ろで憐れみを込めた視線で見守るカイロスさんとヨーゼさんの視線が痛かった…。

『生きて帰ってこいよ』なんて台詞、何のフラグですか?!

…まあ、そろそろ頃合いかなあとは思ってましたけど。


そんなわけでルイスさんのお家に到着。

玄関を開けると鬼の形相で立ち塞がるサナ。

前回家を追い出されてから一週間位しか経ってないからな…何て言おう。

やっぱりここは照れながら男女が再会を喜び合うあの台詞しかないよね!!

「来ちゃった!!」

「帰れ!!今すぐ!」

「お、落ち着いてね、サナ。今連絡が来て諸事情があるみたいだから…。」

「あらルイスさん、すみません。てっきりエマがまたやらかして店主さんに追い出されたのかと」

どうしよう、大当たりだ。

眉を顰めたままに食堂へと案内してくれる。

美女がやると絵になるなー。

でもまたってなによ、またって。

サナは一日狩りをして汚れている私を一瞥、ペイっと水場に放り出し布切れと着替えを用意すると何も聞かずに戻っていった。

なんだかんだ言って、サナって優しいのよね。

今も体を拭く布切れの脇にそっとよい香りのするシャボヌ(石鹸モドキ)が置いてある。

こんな気遣いの出来る彼女がアントリム帝国では悪女扱いなんだから、情報操作ってほんと馬鹿に出来ません。

綺麗さっぱりして食堂に戻ってくると、テーブルの上にはたくさんの料理が並んでいる。

…ああ、見ているだけで幸せ。

王道のステーキを含む肉料理に、たっぷりと特産の野菜を使用した前菜やカナッペ。更に多種多様なチーズを使用したパスタに、お米様をふんだんに使用したリゾットまである。


神様。

私色々あったけど今ものすごく幸せです。

天に向かい感謝を捧げる私に、そっとルイスさんが教えてくれた。

「ほとんどサナが作ったんだよ。」

驚いて思わず彼女の方を振り返る。

照れたのか明後日の方向を向くサナはアントリム帝国では料理なんて作ったこともなかっただろうに。

そういえば王国に来る途中でも、ちょこちょこ台所で料理する私の手元を真剣に観察してたもんね。努力したんだろうな、たくさん。


「エマが来るからって張り切ったら多目に作っちゃったんだって。たくさん食べていくといいよ。」

ルイスさんがそっと教えてくれたことに感謝する。

そうでなきゃ、泣いてしまいそうだもの。

思わずルイスさんの両手を握る。

これだけは言わねば。

「ルイスさん、サナを嫁にください!!」

「は?」

「一生かけて幸せにします!」

「私は嫌よ。」

何故か顔を赤らめ固まったルイスさんの横で仁王立ちするサナから即答で振られた。

ああ、こんな可愛い嫁、二人といないのに。

ガックリ膝をつく私に微妙な顔のディノさんが声をかけてくる。

「えーと。お取り込み中悪いけど、そろそろ話を聞かせてもらえるかな?」

「…傷心中なのでお手柔らかにお願いします。」

そして冒頭のやり取りに戻るわけだ。



とりあえず時間も遅いし食事をしながらということで、何度も料理に意識を持っていかれながらもアントリム帝国から戻ってきてからのあれこれを話す。

あの時は私がへそを曲げちゃったから、その後の相談もあの時日を境に一切してないので、話す内容はたくさんあった。皆食事をしながら私の話を聞いてたが、お休みの日に狩りをして戦闘行為に慣れたい、という辺りからだんだん表情が険しくなっていく。

オリビアさんの反応と同じだ。

まあ、あの時はお店辞めますカードまで切って無理を押しきったからね、普通ならど素人が寝惚けたことをと、とことん反対するだろう。

オリビアさんの名誉のためにその辺も説明しておいたがディノさんは『オリビアは女王に心酔しているからね』の一言で終わった。

心酔というか、あれはもう崇拝だな。

女王陛下の書架を拝みそうな勢いだったもの。

そこから本日の狩りの状況やブラックマーナガルム、ビックボアの戦闘とダングレイブ商会とのあれこれを話す。

「そんなわけで現在に至ります。」

「なんかこう、濃いね…君の日常は。」

「そうでしょうかね?寧ろ皆さんこんなもんだと思ってましたが。」

残念なものを見る目で見られた。

だってしょうがないじゃないか。

この国に来てから退屈な一日、なんて貴重なものを経験したことがないんだもの!

「それで私から皆さんに言わなければならないことがあるんです。」

一つ深呼吸をして頭を下げる。


「この国の事情を知りもせずに、我儘を言って振り回して…すみませんでした。」

異世界から来た少女が繰り広げた事の顛末を聞いたときから思っていた。

確かに私は異世界からの迷子。

保護してもらったからと言って国に縛られる必要はない。

生活を保証してくれるなら自由に面白おかしく暮らして一年たったら帰ればいい、それだけのことだと思っていた。

だけどこの国の人からすれば同じ異世界から来た少女が盛大にやらかした後なのだ。

警戒し忌避することも、逆に過保護なまでに隔離し監視しようとすることも対応の選択肢としては理解が出来る。

というか、むしろ納得したかな?

『自由に暮らしていいよ』というわりには関わりを持とうとする、ちぐはぐな国の対応は、オリビアさんから聞いた異世界から来た少女の行動に由来するものだと。

さらに私の場合は魔法紡ぎの女王やら、魔法手帖を巡る国同士の確執もオプションとしてついて回る。

国として、そんな不安定な存在をいつまでも放ってはおけないよね。

誘拐され、利用されたあげくに保護している国へ牙を剥いたら目も当てられない。

実際、結果だけ見れば異世界から来た少女はそれに近いことをしたわけだし。

正直、黒天使に煽られて師匠に喧嘩を吹っ掛けた後だったから、こういう見えないしがらみを煩わしいと思う気持ちがあったけど、今思えばそういう思考になるように黒天使に誘導されたのかもしれない。

彼女、現れるタイミングが絶妙だったもの。

きっと皇帝陛下辺りに唆されたんだろうな。

魔法手帖目当てとはいえ、あの人腹黒過ぎる。

過去を振り返って軽く反省会をしていたら、ポンと頭に手が置かれた。

その手の温もりに励まされて、そろっと顔をあげると申し訳なさそうな表情をしたディノさんと目が合う。

「こちらこそごめんね。もっと早くに話していればとあの日から何度も思ったよ。」

「正直、こちらもどう対応すべきか判断がつきかねていたんだ。異世界から来た少女に翻弄された過去の例もある。魔法紡ぎの女王として国を挙げ保護するにあたっては、何よりも先ず慎重に君の人柄を見極める必要があると。だからしばらくの間は君の為人や行いを静観する、その方向で皆動いていたんだ。ところが…君は想定外に優秀だった。ステータスの魔紋様まもんように始まって、ダンジョンの浄化、言っておくが普通の魔法紡ぎは上書きという発想を持たないからな?そしてその結果、我々の想定よりも早くに他国からも目を付けられた。我々も手を打ってはいたが、後手に回っていたことは言い訳のしようがないほど明らかだ。だから我々こそ言わなければならないことがある。」

ディノさんの後を受けて話し始めたゲイルさんが、一旦言葉を切る。

そして思いを定めたように静かに口を開いた。


「こちらこそ君を試すようなことをして、すまなかった。」


皆が目を伏せる。

サナだけは私をまっすぐに見て、口の動きだけで『よかったね』と伝えてくる。

互いに交わす笑顔には一点の曇りもなかった。

思いが伝えられて、こちらの思いも伝わって本当に良かったと思う。

「お互い様でしたね。」

照れながら笑って言えば、皆がほっとした表情に戻る。

「それじゃあ、これからの我々のことを話してもいいのかな?」

「勿論です!随分と()()()()()()を計画しているようですし。」

「…そういうことはホントに敏いね~。」

「家訓ですから。」

常に面白そうだと思うことを探せ。

母のポリシーだ。

お陰で色々な経験をさせてもらったな。

…あれで何故家事が壊滅的なんだろう?

食事が終わり、そろそろ眠くなってきたかなと思ったところで大事なことを思い出す。しまった。オリビアさんに連絡いれてない…ここままだと閻魔様が降臨してしまう。

一瞬にして顔色の悪くなった私を見て察したのか、ルイスさんからディノさんがオリビアさんへ連絡を入れてくれていたことを教えてくれた。

サリィちゃんも一度お店に戻って、すでに帰宅したとのこと。

ついでに伝言を受けてくれたそうで明日のダンジョンの修繕は午前中お休みにしていいそうです。

良かった~。体力には自信があるもののさすがにちょっと疲れたわ。

ん?ということは。

「もしかして今日ここに泊まっていってもいいってことでしょうか?」

「あれ?帰るつもりだったの?それなら送っていくけど。」

ルイスさんの申し出は丁重にお断りしましたよ!

サナの方を見れば仕方ない…という表情で『部屋を片付けてくるわ』と言って出て行った。

もしかするとこれは!!


「女子会…いえ、お泊まり会ですね!」

やった!この世界にきて初めてのお泊まり会だわ!

サリィちゃんごめん!次回こそは女子会しようね!

…収納にお菓子と飲み物入ってたよな確か。

お泊まり会の定番ですものね!!

「そう言えばエマちゃん、狩り場でサリィともう一人の冒険者の人、帰してもいいか交渉してきたけれど、あれは何でだい?」

「疲れただろうから先に帰した、気遣いとは思わないんですか?」

「もう思わないね。」

あら…やましいことがある訳ではないんですが。

ええと、こっそり結界張って作業していたのが気になると?

「もう今日は()()()()()()()()ですし、次にあったとき話しますね。」

「すごく心配なんだけど、大丈夫かい?」

「あの二人には同意を得てますから。

それにやることは落とし物を拾うだけですもん。」

計画話したらロイさんもサリィちゃんもノリノリだったからな。

あれで止めたら私が怒られる。

「用意できたわよ。」

サナがひょこっと食堂の入り口から顔を出す。

手に持ったトレイにはきれいに皿へ盛り付けられたお菓子の山と、マグカップとティーポット置かれている。

よっしゃ、準備は完璧ですよ!


「それじゃ、いってきまーす!」

「ほどほどにして早く寝るんだよ?」

「はーい!」

男性陣の苦笑い受け流しながら、そそくさと階段を上りサナの部屋へと移動する。


ふふ、 さて何から話そう。




やっとエマとサナのお泊まり会が開けました!

お泊まり会での内容は後日談にします。

次回はお買い物ですよ!

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