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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖八十一頁 焔と、油断大敵

おっかしーな。

最初は異世界まったり生活を送る気満々で。

仕事も順調だし、偶然だったけど一年はのんびり暮らせる生活費も手にいれて。


それが何で今ここで試されてるんだろう…。

『さっさと旅行でも行っちゃえば良かったのに』っていう弟妹の声が聞こえる。

「うん?大丈夫かい?」

「あ、はい。ちょっと過去を振り返って色々噛み締めてました。」

「昔を懐かしむには歳が若過ぎやしない?」

「なんかこう、想像と違う現実にどこで分岐間違えた?と反省したまでです。」

「ふうん。不思議な子だね。」

お姉さん…レーブルさんはちょっと複雑そうな顔をした。


「反省したところで悪いけど、一度"試し"を受けると約束したら違えることは出来ないんだよ。」

「うん、そうでしょうね。約束・・・しましたから。」

他の神ならいざ知らず、よりにもよって誓った相手は約束を破ることを嫌う火神だ。

ここで止めればレーブルさん自身も咎められるかもしれない。

「でも大丈夫ですよ。もう決めましたから。」

「決めたとは?」

「どちらの媒体を選ぶか、ですよ。」


すっと、片方の媒体を持ち上げる。


「根拠は?」

「私はこちらに対価を払いたい。だからこちらを選びます。」

「理屈ではないのかい?」

「理屈を説明できるほどの知識を持ち合わせてはいないです。

でも強いて言うなら…。」

レーブルさんの目をまっすぐ見る。

「勘です。」

ばばーんと。

うわ、ワイルドな容姿のレーブルさんがするポカーンとした顔。

きっとレアなんだろうな!後ろでカイロスさん達が盛り上がっているもの。

ただ、私の場合は百パーセント勘ではないけどね。

嘘はついてないですよ?…全部を言ってないだけです。

スキル『チャンス到来』。

チャンスの神様、今こそ出番ですよ!

スキル名は唱えてませんけど、魔力が減った感覚と共にこちらの媒体が薄く光ったのでこちらかな?と。それを信じるかについては一種の勘ですね。もしかしたら選んではいけない方が光っているかも知れないし。

「さあ私は選びました。結果を教えてください、レーブルさん。」

「…教えるまでもない。見て判るよ。」

「見て判る、ですか?」

「もう一つの媒体を持ち上げてごらん。」

言われるがまま、もう一つの媒体に触れ持ち上げた、その瞬間に。


「なっ!ひ、火が!」

突然、ごうっという音がして私の手を燃え盛る赤い炎が包み、手に持った媒体が溶けるように消えていく。ただ不思議なことに全く熱を感じない。


「この火は一体…。」

「"裁定の火"だ。誤った方を選ぶと発火する。」

「そ、それ、事前に言っていただけると助かるのですが!?」

私のノミの心臓が心拍数上げっぱなしですよ!

しかも媒体消えちゃいましたが?!

「ごめん、ごめん。大体事前に話しておくと、どちらか決めるまでにすごく時間が掛かるからさ皆。あんなにさらっと決めてくれるなら事前に話しても良かったかな。媒体の方は大丈夫、溶けた後いつもの収納場所に戻ってるから。…それに話していないことがあるのはお互い様だろう?」

良かった、媒体壊してしまったかと焦りましたよ!

焦る私に対して面白そうに笑うレーブルさん。

しかしそうですか、スキル使ったの顔に出てましたか。

外野からの情報だと物凄くわるそうな顔してたと?

そんなことはない、私はいつも通りの地味で平凡な…サリィちゃん。

可哀想なもの見る目で見ないでくれる?

カイロスさん、ロイさんと一緒にこっち指差して爆笑ってどういうことよ?

ヨーゼさんは優しそうだからフォローをして…立ったまま気絶しましたか。そうですか。


「さて、これで"試しは終わり"だ、お嬢さん。おめでとう、この武具は君のものだ。」


約束通り初心者向けのナイフのお値段をお支払して武具を受けとる。

すると先程までの重々しい空気がガラリと変わった。

なるほど、『試しは終わり』と言うまでが一連の儀式なのか。

視線を下げ、自分の両手で握る媒体を観察する。

うーん。シンプルで素敵!とも言えるが、媒体としてはどうなんだろう。

そう、私が選んだのは細く何も装飾がない方。

潔いくらいに彫りも飾りもなく柄となる部分に握り込めるような窪みがあるのみ。

こちらが私に相応しいとはどういうことだ?

「レーブルさん、聞いてもいいですか?この武具、どうやって使えばいいんですかね?」

私の言葉を聞いて彼女は目を見開く。

「これは面白いな!それを知らずにこちらを選んだということか。…なるほど、君にはいろんな才能があるようだ。これは店として是非縁を繋いでおきたい。では改めてご挨拶を、私はレーブル。お嬢さん、お名前を伺っても?」

優雅に右手を差し出す彼女に慌てて私も手を差し出しつつ挨拶をする。

「緊張してて名乗ってないこと忘れてました!エマと申します。よろしくお願いいたします。」

「エマね。容姿同様に愛らしい名前だ。こちらこそよろしく。」

差し出した私の手を額に近づけ敬意を表すレーブルさん。

仕草が洗練されてますね!

というか女性ながら長身で、且つ紳士的ってどうなのよ!?

カッコイイではないですか!

「その短剣は未完成なのだよ。わざとそうである(・・・・・)ように造られたんだ。持ち主となる人の属性を認識し、それに相応しい形へと変化することができるように。それではエマ。その短剣に名前をつけてあげて。その後君の魔力を流せばいい。」

「名前を?」

「名付けることでこの世界に存在が定着する。名があるからこそ認識される。名がないものは"無"だ。安定せず、やがて消えてしまう希薄な存在。名がないことが、その短剣が未完成な理由の一つでもあるのだよ。」

私がこの世界に迷い込んで初めてルイスさんに問われたのが名前。

そういう意味があったのですね!

では名前を早速つけましょうか。

「"ほむら"。」

両手で支えたままに、短剣へ魔力を流す。

熱を感じない炎が再び燃え上がり短剣を包むとその姿を変えていく。


…なるほど、こう変化するのか。

長さ凡そ一尺、三十センチに満たない程度の長さを持つ武具、"短刀"。

時代劇で見るものそのままに刃も刃紋もついている。

日本語でつけたからこういう形態に変化したのか?


「これはまた、珍しい形だな。」

後ろを振り向くとロイさんとカイロスさんが手元を覗いていた。

「あ、えっとこれは私の世界にある武具でして。かたなといいます。私の生きる時代よりもっと前の時代で使用されていたもので女性にとっては一種のお守り、というんでしょうか…邪気や厄災を祓うとされていたみたいですよ。」

偶々時代劇を見たときに劇中でそんなことを言っていた。

邪気や厄災を祓う。

確かに聖属性にも相応しい器だ。

「厄災を"はらう"とは?」

「こちらで言うところの浄化です。」

世界変われば言葉も変わる。

ロイさん、ぐぐっと迫ってきましたね。

何か厄災という言葉に心当たりでもありましたか?

「ちなみにエマ。この武具の装飾はどうする?」

黙ってしまったロイさんに代わり、レーブルさんが話しかけてくる。

今の刀の状態は刀身だけ。

(こしら)えというのだったか、鞘も柄も無い状態だ。

確かに不便というか、危険だ。

収納から取り出そうとしたときに、うっかりさわって流血なんていう未来しか見えてこない。


「別に費用をお支払するので加工してもらうこと出来ますか?」

「もちろん。うちはそれが商売だ。」

そういうとレーブルさんは素材見本と契約書を持ってくる。

「何かデザインに希望はあるかい?」

「あ、一切お任せって出来ます?」

「出来るけど、それでいいの?」

「こういう存在って、なりたい形があると思うんです。よい武具であれば尚更。それを私好みに飾るのはどうかなと。職人さんならそういうものを察して作ってくれそうじゃないですか。」

私好みに誂えるのは確かに魅力的だけど、所詮私は素人だ。

武具として使うものなら専門家に戦闘で扱いやすいよう加工してもらった方がいろんな面で安全だ。

あとの問題は費用か。

「ちなみに費用はいかほど…。」

「ああ、基本はこの金額でいいよ。あとはもし追加で材料を使いたいならその分の材料費は別になるかな。そこはデザインを決めたところで相談させてほしい。」

元の世界の感覚でいうとOLさんがブランドバックを買うくらいの金額、と思って欲しい。

うーん。随分とお金を遣ってしまうな。

頑張って稼ごう。

「あ、でも、一つだけ注文があるんですけれど。」

そろっと紙に転写した魔紋様手渡す。

職人さん相手にこんなこと頼んだら怒鳴られたりしないかな?

「…なるほど。こういう使い方をしたいのかい。分かった、任されたよ。」

特段いやな顔もせずに受けてくれるレーブルさん。

こちらの注文は別料金ということなのでデザインが出来上がってから相談することにした。

こうして予想外な展開となったものの一先ず武具を手に入れる目処はついたところで。

「とりあえず、注文の品が出来るまでこれを使って慣れておきな。」

まだ時間があるということで、これから狩りに連れて行くというカイロスさん達。

それを聞いていたレーブルさんから渡されたのは最初に練習で使用した短剣。

こちらはサービスとか。ありがとうございます!


初めての武器屋さんでの一件。

このとき興奮から、ちょっと浮かれた気持ちでいたことは否定しない。

そんな態度で臨んだから良くなかったのか。


油断大敵。

この意味を身を持って知ることになるとは。




ーーーーーーーーーーーーーーー



教えてもらった狩り場は、街道から外れ、ヨドルの森の手前にある草原から林のある辺りにある。

途中でもう一人のお仲間さんであるトーアさんと合流した。

二十台後半くらいの寡黙な人で、挨拶すると私の顔をちらりと見て直ぐに視線を逸らした。

以降特に何をされるわけではないが、私と一定の距離を保ちつつ淡々と仕事をこなしている。


私の指導は主にカイロスさんが担当し、時々ヨーゼさんが魔法の力量に対するチェックをかねて魔法の使い方の指導を担当してくれる。

ご存じの通り基本の魔力操作は魔法紡ぎの作業で鍛えられたからそこそこ出来るのですが、とっさの判断は当然のようにドシロウトです。

私、学んで初めて力を発揮するタイプなんです。

無双?ムリムリ。

安全第一、平穏無事が一番ですよ!


そしてロイさんからは狩りの方法や商品価値について教えてもらう。

この国で行われる狩の方法には二通りあって、"追い込み"という獲物を罠に追い込んで狩る方法と、"待ち伏せ"という獲物が攻撃範囲にやってくるのをひたすら待つという方法があるそうだ。警戒心の強い獲物は後者を、比較的体が大きく動きの遅い獲物には前者の方法を選択するそうだが、私がお世話になるこのグループには遠距離魔法が使える魔法使い(ヨーゼさん)がいるので彼が魔法を放ち獲物を追い立て、追い立てた先で武器をもったカイロスさんと愉快な仲間達が狩るという方法をとっていた。

ちなみに捕れる獲物は鹿、猪や鳥、時々熊などの大型動物。

野生の動物は筋肉が多く牛や豚のお肉よりは固いし味に独特のクセがある。

一般的な食材ではないものの、貴族からは嗜好品として、そして加工肉にすると保存性が高まるという特性から旅行者等からの需要も高いという。


後でおいしい食べ方を教えてあげるよ、ロイさんそう言ってくれたので思わずテンションが上がる。

よし、獲物が夕飯のおかずに見えてきたぞ!

おかげでぜんぜん怖くない!

そんなテンションの上がった私に影響されたわけではないと思うが、いつもより多いという数の獲物が森の奥から現れ、それを皆で協力して順調に狩った。

捌く手間もあるのでそろそろ帰るか、などと話していたところ突然カイロスさんが皆を押しとどめる。

なんでも森の奥から大きな魔物が出てくる気配がすると言うこでそのまま茂みに身を隠した。


数分後。


巨体を揺らし血走った目を左右に忙しなく動かす魔物が森の奥から姿を現す。

「…あれはこの辺りで見かけない種の魔物だ。たぶん山を越え、聖国辺りから追われてきたのだろう。」

ロイさんが小さな声で教えてくれた。

この猪のような外見を持つ魔物は恐ろしく力が強いそうだ。

中途半端に張った結界などぶつかった瞬間に破壊されるという。さて、どうするんだろう。

「もちろん撤退だ。俺達だけならともかく、今はエマがいる。受けた依頼の方を優先すべきだ。」

迷わずカイロスさんが言った。

「トーア、通信の魔道具で領館に連絡を入れろ。」

無言で頷いたトーアさんが魔道具でどこかへ連絡を入れ、やがて通信を切ると『討伐隊をすぐに手配するとのことです』と言った。

「よし、このままやり過ごし、距離を稼いだところで街の方角に」


グゥオオォォォーーーン!!

一際大きな地響きと鼓膜が破れるかと思うほどの雄叫び。

撤退しようとする私達の進路を阻んだのは。

「なんでこんな場所に、コイツが。」

茫然としたロイさんの声へ重なるようにカイロスさんの指示がとぶ。



「隊列を崩すな!前方にビッグボア、後方にブラックマーナガルム!”悪魔”の牙に気をつけろよ!」













やっと狩りが始まりました。

魔物との戦いがうまく描けるといいのですが。

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