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魔法手帖七頁 アリアの花冠

暫しの沈黙の後、ゲイルはルイスに尋ねる。

「念の為に訊こう。我ら双星に奏上した以上は、撤回も、修正も受け付けられない。それでも内容に誤りはないか?」

ルイスは緊張の色を濃くしながらも、丁寧に回答していく。

「ロイトである以上、最低限の魔紋様まもんようは覚えています。そして、アリアの花冠。…あれは本物でした。あれ以上に精緻で優雅な、力のある紋様を俺は見たことがありません。」

自分の操る魔素すらも吸い込むほどの威力でした、そういうルイスの顔を見て、ゲイルは隣りに座るディノルゾに尋ねる。

「だ、そうだ、ディノ。お前はどう判断する?」

ゲイルは隣りに視線を向けた。

「妨害や誘拐の気配は?」

「今のところありません。」

ディノルゾの問にはカロンが答える。

「ちなみに、ルイスは若く経験も浅いが、才能は他の奴らを頭一つ抜いている。当然、魔素の扱いも巧みだ。」

普段は厳しいゲイルからのフォローに固まるルイスを見て、ディノルゾは意地悪そうな笑顔を浮かべながら言う。

「表情に出るようだとまだまだだね〜。とはいえ、うん、まあ手順がいつもと違う訳は理解したよ。」

いつもの手順だと、保護した異世界人を連れて森を抜け、街道歩いて普通に村の入り口を通り、仮の身分証を発行後、最寄りのロイトの支部まで案内する。

後はサポートが必要なときの連絡を待つだけなのだが、今回、ルイスは人目を避け、エマを保護してすぐに門を自宅に繋げ、カロンに連絡をいれた。

彼女は自宅に門が繋がると同時に、緊急連絡用の魔道具を使用して支部まで連絡を入れ、この連絡を支部で受けたゲイルとディノルゾは何事かと足を運んだのだが。

予想外の出来事に二人は暫し考え込む。


やがて、ディノルゾが先に口を開く。

「なるほどねぇ、いい方向の厄介事かぁ。さて、取りあえず状況の確認はできた。

…カロン、この後することはわかってるね?」

「本部への報告です。」

カロンはわかってますよ!とばかりに緊急時連絡用の魔道具を手に取った。

だが、ゲイルは、一つため息をついてから首を振る。

「残念だが、違う」

「「はい?」」

「あ、いや、普通はその通りなんだが、コイツの場合は違うんだ。」

ゲイルは若干遠い目をしながら、ディノルゾを指差す。

そこには、キラッキラに目を輝かせた、澄んだ瞳の…中年オヤジがいた。


「飲もう!」

「「はい?!」」


「だってさー。今更帰るわけには行かないし。それにすることないでしょ。ツマミはあるし、頭数も揃ってる。…飲むしかないじゃん。」

ねぇ!と言わんばかりに振り向いた顔は、すでに獲物を見つけていた。

「あ、酒みっけ♪」

「キャー!それアタシの十年ものの秘蔵酒!」

カロンは被ったネコを脱ぎ去ってディノルゾに跳びかかる。

「それ飲まれたらアタシ生きていけません!」

「任せろ!骨は拾う!」

「酒以下!?おかしくない?!」

「ん〜。ツマミはこれがいいかな♪」

「ぅおっ!ソレ俺の隠してた干し肉!」

「隠してなかったよー」

「棒読みだな、おい!…ゲイルさん、なんか腹立つんでコイツ叩きだしてイイですよね!」

「諦めろ」

「即答だな!」

「叩きだしても、叩き潰しても、どこからかわいてくるんだ。ちょっとしたホラーだぞ。」

「「…」」

「おー!珍しいお酒!」

「ギャーー!それ飲まれたらアタシお嫁に行けない!」

「えーどうせ行く気ないじゃん。」

「…これ、青い石の守り、要らなくないか?」

「あ、そういえば、異世界から呼ばれた子、名前なんて言うの?」

「「いま、それ聞きます?!」」


そのあと、ディノルゾがこっそりこの家の結界を補強…という名目でエマのいる部屋に声が響かないように音を遮断する結界を張っていたり、ゲイルがコップ半分で酔いつぶれる前に気配だけで付近の魔物や悪党を蹴散らしていたのは、また別のお話。


こうしてエマの知らないところで、賑やかな夜が更けていく。

酒盛り大好きです!お酒におつまみの話しかない短編をいつか書きたいです(笑)

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