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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖六十四頁 『女王陛下の書架』と、試練


「ここが…女王様の部屋…。」


扉を見るとそこには手のひらより少し大きいサイズの魔紋様まもんようが刻まれている。

ここに魔力を流すと開くのか。

魔紋様まもんように手をかざし、魔力を流す。

すると魔紋様まもんようが光を放ち、やがてゆっくりと扉が横にスライドする。

随分と使われていなかったようで、錆び付いたような鈍い音がした。


「「開いた!」」

ん?開いた?


「あれ、こうやって開くものじゃないんですか?」

「この扉は初代女王が亡くなって以来、誰も開くことができたものがいないのよ!」

「…。そういう大事なことは先に言っていただかないと。」

普通に開けちゃったじゃないですか!

うっかり閉じ込めてた魔物とか出てきちゃったらどうするんですか!

戦って、て、だれが!あ、私が…いやそれを言われると…。

オリビアさん随分と大人げないですよ。


彼女は私のライフを順調に削った後、一緒に部屋の中へ入ってくる。

なんだか興奮してて嬉しそうだ…、まあ、自分の祖先にあたる人の部屋だもんな。

期待も喜びもあるだろう。


オリビアさんから視線を外し、ぐるりと部屋のなかを一回りする。


入り口から見たよりも全体的に広い印象だ。

表面が滑らかになるよう削られた明るい色の石材を使い、頑丈に組んだ大きな部屋が一つ。

更に奥に行くと左右に一つずつ小部屋が見える。


大部屋がリビングとダイニング。

そこから左右に小部屋が一つずつということは、寝室と、書庫かな?

覗いてみると果たしてその通りだった。

寝室の奥には更にもう一部屋あって、水回りの器材(トイレ?)と洗面台が置かれていた。


ふと気が付くと、オリビアさんがいない。

どこ行った?

書庫の方へ向かうと、書棚を呆然とした表情で見上げている。

「ここが『女王陛下の書架』…。」

お、オリビアさん!

いろんな感情を一周回った結果、無表情になってますよ!

「私もダンジョンに住もうかしら…。」

「なら私の代わりに住んじゃいましょうよ!今なら無料でお譲りします!」

「ふふ、エマさん、面白いこと言うわね。」

くっ、騙されませんでしたか。

それにしても。

「血筋ですかね?オリビアさん、笑ったときの表情が女王様にそっくりですよ。」

そう言った途端、オリビアさんがすごい勢いで振り向き、私を青ざめた表情で見つめる。


「…それ、誰に聞いたの?」

「女王様に。夢の中で?」

シルヴィ様曰く、会っていたのは夢とは少し違う場所だって言っていたけど、説明が大変そうだからこれでいいだろう。

オリビアさんは暫し私を観察した後、深くため息をついた。

「貴女が初代女王に会ったというのは間違いないわね。夢の中っていう状況が、全く想像できないけど。ちなみにその情報、極秘だから他の人には言わないで?」

「もちろん言いませんよ!」

そんな恐ろしいこと。

どんな閻魔様(オリビアさん)のお仕置きが待ってるか、わからないし。

シルヴィ様と話してた時も恐怖で三途の川渡りかけたもんな。

血筋だな、間違いない。

それにまさか王族が平民に混じって街の一角に暮らしてます、なんて襲ってくださいって言ってるようなもんだし。

大丈夫、平穏無事に、問題を起こすことなく元いた世界に戻りますよ!


「なんなら今のうちに書籍、借りていきます?」

「え、いいの?」

「この書架の本、ほとんどに盗難防止の魔紋様まもんようがついていませんから、建物から持ち出しても魔物とかに襲われることはないと思いますよ。それに管理者のオリビアさんなら女王様も嫌とは言わないんじゃないでしょうか?さらに言うなら、この扉が開く魔紋様まもんよう、私の魔力に反応したっていうことは私が元いた世界に戻った後、再び開かなくなる可能性が高いですよね。今のうちに読んでおかないと閲覧できなくなりますよ?」

「借りていくわ!」

「ですよね。」

一部のマニアを熱狂させる、期間限定というものです。

書架の前でブツブツ言いながら借りていく本を選んでいるオリビアさんを見ながら、この部屋の書籍の扱いについては、機会があったときにシルヴィ様に相談したい、そう思った。


「うーん、それにしても。」

「あら、なにか足りない?」

「いや、調度品も大体揃ってるし、魔法でもかかってるのか掃除の必要もないくらいピカピカなんで今からでも住めそうなんですけど、台所がないな…と。」

「あら、別に店の台所使っていいのよ?」

「おお、そうですね!じゃあそうさせてもらいます。」

買ってきた食事ばかりだと流石に飽きるし、お金もかかる。

料理を作りおきして収納にしまっておけばいいよね。

今度そういう料理をストックできるような入れ物を探しに買い物へいこう。

頭の中で今後の予定を立てていると、ふとオリビアさんの視線を感じる。

「どうしました?」

「ついでに私の分も作ってね!エマさんのご飯美味しいし食べたいから。」

「それが目的でしたか。」

家主には逆らいませんけど。

長いものには巻かれますよ!


「じゃあお腹もすきましたし、一度店に戻りませんか?」

「そうしたいんだけど、あら、困ったわね…。」

オリビアさんが眉をひそめる。

「困ったですか?」

「実は私、管理者の権限があるからダンジョン内で転移出来るのよ。色々頼まれると面倒だから出来ない、ってことにしてるのだけど。」


あ。


「そうですよ!私ここまでオリビアさんに飛ばされてきましたもん!え、じゃあ先日のダンジョン観光は?」

「気分?」

「なんですと!」

「しかも私ってば、うっかり屋さんだから帰りは一人で転移しちゃったりして?」

「そんなバカな!」

「あ、階段はあの扉ね!あと戻って来られるまで紹介所行きは延期だからってリィナに伝言しておくから安心して頑張ってちょうだい!書籍また借りに来るから!その時に納品分の魔紋様まもんよう受けとるわ。それじゃあ…。」

一気に連絡事項だけ言ってニンマリと笑った。

つかもうとした腕が弾かれる。

しまった、この人、結界張ってる!


「頑張ってね!」

「嵌めたなー!!」

鮮やかに、しゅるんと消えたオリビアさん。

女王様の部屋の入り口で呆然と立ちすくむ。

確かに階段はあるさ。

でも、この高い天井、一階層につき何段階段があると思ってるんだよ?

しかも上りだよ?

前回下りだから運動程度だったけど、これって何時間かかると思ってるの!?

筋肉痛で済めばいいね、私!!

体力ないから訓練とか?

もしくは出自をバラされないように、人畜無害な少女を閉じ込めた?!

いくら図太い私だって食料なしでは餓死するよ?

はっ!!まさか油断させて丸々と太ったところで…。



お、オリビアさん、オリビアさんなんて…。



「オリビアさんなんて、ちょんまげ頭になってしまえばいい!しかも語尾に『ござる』がついてしまえ!…三日くらい?」

さすがに一生は可哀想だ。

好きな人ができても、嫁にいけなくなる。

…いやむしろ、そんなオリビアさんでも好きといってくれるような理解ある男性と付き合えばいいのか。

そうだ、これは優しさだ。

親切の押し売りだ!!

まあいい、とりあえずここから脱出しよう。

階段は何がなんでも使わないぞ!

意地でもここから店まで転移の魔紋様まもんよう紡いでやる!

運のいいことに食料は調達した後だ。

出来合いの食事だけでも三日は保つだろう。

…どれだけ買ったのかは聞かないでほしい。

この国に無事戻ってこれた解放感で大人買いしただけだからさ。


トイレ?はあるし、洗面台もあるし水回りはなんとかなる。

改めて調べてみると、本当に食事さえなんとかなれば暮らせそうなのが余計に腹立つな!


よし、早速転移の魔紋様まもんようを紡いで…の前に。


辺りを見回せば、シルヴィ様の部屋と階段の入り口を避けるように、ちょこちょこ魔物が徘徊している。

部屋の中から観察してみると半径一メートル位はセーフゾーンと考えていいのかな。

私の他に人は…いないな。

気配を感じないし、よし大丈夫。

アレを試そう。


「シルヴィ様の魔法手帖ちゃーん!」

一回叫んでみた。


「やっぱり名前じゃなきゃダメかな…エル・カダルシアの魔法手帖ー!こっちにおいで!」

二回目。反応なし。


「よし、愛称みたいな呼び方なら反応するかな?エルちゃーん!シアちゃーん!」

三回目、まあ、ないよね。

一応試してみただけだもん。

来るはずないってわかってたさ!

ふと視線を感じてそちらを向くと、二メートル位先にある書棚から書籍の魔物が顔を覗かせていた。

亀のように本から首がにょきっと出ていて、甲羅の代わりに青い装丁の本を背負っている。


しばし、見つめあう。

も、もしかして?

期待に胸を膨らませる私に向かって。


「プププ。」

魔物が口元に手をかざし、笑い声が漏れる。

これは、アレか。


…魔物に嘲笑されました。

スゴいですね、シルヴィ様。

あなたのダンジョンの魔物は物理攻撃なしで敵にダメージを与えることができるようです。

部屋の入り口に崩れ落ちた私。

魔物の嘲笑は、すでに爆笑だった。


ダメージ二倍。


「引きこもってやる!」

叫んで勢いよく扉を閉めた私の足元で空気が動く。

しまった、魔物も一緒に閉じ込めたかも!

固まる私の足元で白い毛玉がクルリと回転する。

つぶらな瞳…ではないな。

タレ目だ。


「わふ!」

「い、犬?」



そこには犬のような容姿の生き物がいて、私を無邪気な表情で見上げていた。








すみません、どうしてもモフりたかったんです。

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