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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖六十三頁 禁忌『傀儡の王』と『召喚』


とりあえず契約の更新と今後量産する魔紋様まもんようについて指示を受けた後。

今度こそ話が終わり、双子と共に部屋を片付ける。

終わる頃を見計らって一足先に部屋を出たオリビアさんが部屋に戻ってきた。

「それでエマさんのお部屋なんだけどね。」

「あれ?今まで通りのお部屋で大丈夫ですよ?」

「とはいえ、この間みたいな事があると困るでしょう?」

ディノさんの寝ていた部屋であったことか。

確かにオリビアさん結界に自信持ってたみたいだけど、なんちゃって執事にあっさり破られたもんな。

それならどこに住むのかしら?


「…王城はイヤですよ?」

どう考えてもあそこしかあるまい。

師匠がガチガチに結界固めてそうだからな。


「なら、王城じゃなければいいのよね?」

「そうですね。特に現状でも不満はないですし。」

そう言った瞬間、紫とピンクの縞模様を持つ猫もビックリな、ニンマリとした笑顔を見せるオリビアさん。

あ、これ、ヤバイやつ!

「やっぱイヤです!止めます!」

「うふふ。遅いわよ!」

すかさずオリビアさんの転移の魔紋様まもんようが発動した。

っと、ここは?

見覚えのある景色に周囲を確認する。


「ダンジョン?」

「そうよ。ここはダンジョンの十五階層。」

「な、なンて危険な場所に!!」

「あら、これから冒険者に師事して狩りを覚えたいと、偉そうに豪語した人間がずいぶん弱気なこと言うじゃない。」

すました顔でさらっと毒を吐いたオリビアさん。

やっぱりさっきのこと(辞めてやりますよ!)を根に持ってましたか。

「大人げない…。」

「何か言った?」

「イエ、ナニモ。」

オ、オリビアさん、後ろで魔物ちゃんたちがプルプル震えて怯えてますよ?!

貴女、なんて禍々しいオーラ出してるんですか!

「まあいいわ。こちらに来て。」

あっさりとオーラを霧散させたオリビアさんが十五階層の奥へと進んでいく。

しばらく二人で歩いていて気が付いた。

「あれ、襲われませんね。」

「前回が特殊だったの。そもそも管理者を襲う時点で他者の魔紋様まもんようの影響下にあったということ。だから影響下から抜ければ今まで通りの従順な子達に戻る。」

ダンジョンの魔物達が一時的に混乱させられた原因、それは。


禁忌『傀儡の王』

魔紋様まもんようの支配下にある魔物を暴走させる効果がある。

魔素の発生源付近に仕掛けることでより広範囲に強い効果を示す。


「どこに仕掛けられていたんですか?」

「それが…二十九階層なのよ。

三十階層には主がいるから避けたにしても、そこまで行けるなんて恐ろしい技量の持ち主がいたものね。」

「それは管理者の目を盗んで出来るものなんですか?」

「ごめんなさい。不甲斐ない管理者で。」

「ち、ちがうんです。責めているわけではなくてですね。ディノさんが倒れている原因をステータスで確認したときに、チラリと見えてしまった内容で引っ掛かったことがあって。本来は個人の情報なので言うのはルール違反なんでしょうけど…。」


『召喚』

古代魔法の一つ。

継承者は魔力を魔紋様まもんように流すことで魔物や精霊を召喚することができる。

継承者のレベルにより、召喚した魔物や精霊を使役でき、またレベルが上がると継承者が指定した上位種を召喚できる。

ただし、召喚出来る魔物や精霊の属性は自身の持つ属性に限定される。

『女王の魔眼』でこのスキルを見つけて以来、ずっと気になっていたのだ。

古代魔法ってなんだろう?

未知の魔法が存在するということなのか?

そして。


「今回使われた禁忌の魔紋様まもんよう、ディノさんの魔力だからこそ発動したと言えるんじゃないでしょうか?たぶん同じ推測にたどり着いている人もいると思うんですけど、この魔紋様まもんようを発動させるには古代魔法"召喚"のスキルを持った"闇属性"の持ち主が魔力を流す必要があるんです。そんな条件に該当する人、ディノさん以外にこの国どころか近隣国含め、他にいるんですかね?」

「…ステータスから考えると確かに不自然ね。」

「そして重要なのはディノさんが"召喚"のスキルを持っていることを誰が知っていたか、です。」

「…。」

「私も知らなかったんですけど、今巷で流行ってるステータス占い…失礼、ステータスを表示させる魔紋様まもんようは紡ぎ直されてるんですね。パン屋のおじさんが面白がって見せてくれたんですけどスキル関連は一切表示されない形式になっていました。

その状態からスキル関連を再表示することってできるんですか?」

「…出来ないわ。」

「ならば、このダンジョンを荒らした犯人はいつディノさんのスキルを知ったんでしょうね?」

気づいてるみたいだからディノさん達にはここまでの情報は言わなかったけど…恐らくゲルターに漏らした人がいる可能性が高い。もし、情報提供がされていればロイト側も疑わしいことになるが。

「でも、ディノは国の上層部にスキルを含めたステータスを見本として提供しているわ。国の上層部に裏切り者がいるということはないの?」

「国に魔紋様まもんようを売却したとき、ステータスの表示を削る話は出ませんでした。恐らく国の偉い人がスキルを知った人間による悪用を避けるためにそうしたのかなと。

だから漏らした人は想定外だったと思いますよ。まさかステータスが表示されない仕様が一般に流通するなんて。」

誰もが疑わしい、という状況が望ましかったに違いない。

だが現状、魔石の事を含め限られた範囲(ゲルター、ロイト)に疑いの目が向いている。

もちろんこちらがそう考えることを見越して、あえてそうしたとも考えられるけども。


その場合、メリットって何だろうな?


この国が狙われたのはこういう方面に疎いというだけでなく、何かもっと深い執念のようなものを感じる。

裏切り者達は恐らく長い間用意周到に準備を重ね、時間をかけ地位を得、そして獲物(この国)が弱るのを待っていた。

この場合、重要なのは誰がやったのかということより、なぜ今なのかということ。

まあ、その辺りは国の偉い人に考えてもらおう。


しかしダンジョンの一階層なのに、結構広いですね?!

まだまだ歩くわよ~、と言っているオリビアさんは、すこぶる元気そうだ。

何が違うのか?鍛え方?…そうですか。

若さで補えない体力ってすごいですね!

この国、もしかして女子の方が強いんじゃないだろうか?

「あとこの際なのでもう一つ。ディノさんやゲイルさんが、あれだけ扉一杯に書かれた禍々しい魔紋様まもんように気づかないで、うっかり魔力を流すなんてあり得ないと思うんです。そう考えると、恐らく魔紋様まもんようを何らかの方法で隠して(・・・)おいたと考える方が納得できます。たぶん本人達も状況を説明したときそう言っていたんじゃないですか?」

「…そう言っていたわ。ただ実際にああやって魔紋様まもんようが発現している以上、言い訳と思っている人もいるわね。私もあの人達が気付かないなんておかしいと思ってる。」

「たぶん『擬態』だと思いますよ。」

「『擬態』?」

「私も知識がないんであんまり的確な言葉が出てこないんですけど。

例えば魔物で、獲物を捕獲するために周りの景色に溶け込むようなの、いませんでしたっけ?体の色を変えたり、透明化したり?」

「いるわね!」

「禁忌の魔紋様まもんようにそういう効果をかければ、扉に溶け込んで魔紋様まもんよう見えなくなる(・・・・・・)

擬態の効果は一度きりでいいんですよ。

むしろその方がディノさん達に責任が転化できる。

こういう効果を持つものが魔紋様まもんようにあるのかものかもしれないですけれど、今回スキルで確認したときに使用した痕跡が見えなかったんですよ。

だから固有スキルとか、戦闘スキルとかにそういう種類のものがあるのかなと。

もしくは痕跡を残さない、魔紋様まもんようの設置方法があるとか?

すみません、この辺りは不確定要素が多いので、一つの意見だと思ってください。」


そしてこの『擬態』を使えば。

魔物に擬態して階層を降りることができるかもしれない。

例えば臭いとか、誤魔化せない要素があるから除外されがちだけれど、私の魔紋様まもんようのように規格外のスキルであればいけるんじゃないかなと思う。

ただし、実験していないからあくまでも仮定の話なので、これについては口をつぐむ。

まだまだ勉強不足だなあ。

魔法紡ぎのレベルは高くても、どんな魔紋様まもんようを紡ぐのか、魔紋様まもんようにどんな効果を付与するのか、考えるのは自前の頭だ。

きっと思い付かないだけで、面白い効果や発現方法があるに違いない。

そもそも"女王の魔眼"だって今の使い方が正しいとは限らないし。

ちょっと調子に乗ってたかな…。

「どうしたの?急にしょんぼりして。」

「いや、なんかこう、色々足りないかなと。」

「ならここで思い切り吸収してちょうだい。」

そう言ってオリビアさんの指差す方を見れば、ダンジョンにはそぐわない一際豪華な扉が見える。


「これは…なんの扉ですか?」

「忘れてない?ここは初代女王が建てた書庫なのよ。

主に使う人間の、専用の部屋があっても不思議ではないでしょう?」

「じゃあ、ここって。」



「『女王陛下の書架』と呼ばれる彼女専用の書棚がある部屋よ。」








エマ、住居移動します。

次回こそ、紹介所に行きたい。

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