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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖六十二頁 紹介状と、新たな選択肢


美しい花の咲き乱れる庭の一画。

整えられたお茶の支度の前でにっこり微笑むシルヴィ様の姿が目に浮かぶ。


「事情はわかりました。たぶんお手伝い出来ると思いますよ?女王様との約束がありますし。」

言わないという選択肢もあったけれど、嘘ではないからいいかな。

私の台詞に不思議そうな顔をするオリビアさん。


「その代わり私からも、一つお願いがあるんです。冒険者を紹介する機関があると聞きました。紹介状を書いてくれませんか?」

「…エマちゃん、一応理由を聞いてもいい?雇用主として把握しておかないと困る事かも知れないでしょう?」

まあ、聞かれるよね。

今までそういう無茶な要求をしたことがなかったし。

「休みの日を利用して私自身のために…狩りを経験しておきたいんです。」

このダンジョンにいる魔物は血を流さない。

ダメージが入るとドロップ品を残して霞のように消えるだけだ。

正直言ってそれだと、生き物を傷つけたという実感がわかない。

平和な国に生まれた私は自分がわからないのだ。

相手が自分に害を加えようとしたとき、私は人と戦えるのか。


一歩進んで、私は人を殺せるのか。


相手が魔物ならいい、というわけではないが、それでも経験すれば判断できる。

肉を断ち、血を流すことに私の心が耐えられるのかどうかを。

「…魔物狩りってこと?」

「運が悪ければ、そうなるかもしれませんね。」

野生の動物は相手を選ばない。

魔物が素人だからといって襲うのを遠慮してくれる理性があるとは思えないし。

「雇用主として、保護する側の人間としても許可できないわ。そんなの経験値のない貴女には危険すぎる!自分が何を言っているか分かって聞いているの!」

当然のように声を荒げるオリビアさん。

止められる、そんなことぐらいは想定済みだ。

私はオリビアさんから見えないように口元を緩める。

異世界から呼ばれた私に対して、本人の望みを拒否したと判断されれば、オリビアさんが不幸の連鎖に巻き込まれるかもしれないのに。

それをわかっていて止めてくれる人は貴重だと思う。

それでも。

「アントリム帝国で男達に囲まれて襲われた話をしましたよね。私一人でその場に残ることを選択したから、誰かを責めているわけではないんです。ただ、私は元いた世界に生きて帰りたい。そのために必要な訓練だと判断しました。」

いつかどこかで一人で戦う羽目になったとき、生き残るための最善が尽くせるように。

「許可できない。貴女は自分が思うよりずっと貴重な存在なのよ。どうあっても貴女を死ぬかも知れない状況に置くわけにはいかないわ!」

「どうあっても?」

「ええ。」

しばし、静かに睨み合う。

そうですか。

ならば最後の手段を。


「それではお店を辞めさせてください。」

「な!」

驚きのあまり、オリビアさんが目を見開く。

それはそうだろう。

彼女の想定した状況のなかでは最悪の部類なのだから。

「ありがたいことに、まだ貯金がありますから早急に働く必要はないですし。何ヵ月か訓練を受けて、そのあと働かせてもらえそうなところがあれば働きます。、他国へ行く(・・・・)という手もありますし。

厚かましいとは思いますけれど、それでも元の世界には帰してもらえるでしょうから、一年後には必ず戻ってきます。」

身分証があるので、出入りは自由のはず。

別にこの国で残り何ヵ月も頑張ることはなのだ。


「女王様との約束については、対価としてこの魔紋様まもんようを置いていきます。」

そう言って三枚の魔紋様まもんようを提示する。

一枚は書籍の盗難を防ぐための魔紋様まもんようの改良版。

一枚は書籍を階層から持ち出すことができないようにセキュリティゲートのような機能をもつ魔紋様まもんよう

これは各階の扉に設置するつもりだ。

許可なく書籍を持ち出すと魔紋様まもんようが反応して、今までと同様管理者に通報が入る。

さらには全身に不気味な斑点が浮かぶうえ、三日三晩高熱にうなされるようにした。

鬼というなかれ。

現実に魔物に追いかけられるよりましだろう。

とはいえ、百鬼夜行はこのダンジョンの名物のようだから、ランダムにそれが追加されるバージョンも付与した。

運が良ければ斑点、高熱に百鬼夜行のフルコンボでダンジョンの醍醐味を堪能できる。


何ならもう二、三個、ダメージ入る仕様に出来ますよ!

男性なら女性に、女性なら男性に嫌われる香りを追加して…と言ったらオリビアさんに『もう許してあげましょうね?』と言われた。

二度と悪さをしないようにする、いい案だと思ったんだが。


そして最後の一枚は。

各階層の部屋の一部にセーフゾーンを作るための魔物避けの魔紋様まもんよう

「今まで通り、ダンジョンの規律を乱す者を百鬼夜行で追い出す、それはそのままで良いと思うんです。ただ、研究者が書籍を探しに冒険者を雇ってここまで来て、冒険者に守ってもらいながら目ぼしい書籍を読むなんて、なんかこうそこまで努力する姿って、涙を誘いますよね。」

そっと目元を拭う。

魔物に襲われながら本を読むってどんだけ研究を愛しているの?!って思いませんか。

一瞬嬉々として魔物を狩りながら、目当ての研究資料に向かって突進していくカロンさんとサナの幻想が目の前を過ったが、無視だ無視。

あれは例外だ。

だから図書館でいうところの、椅子やソファーなんか置いてある読書スペースをイメージして、魔物はその場所に寄ってこれないようにしたらゆっくり本が読めるんじゃないかと思ったのだ。

「書籍は知識の宝庫。学びたい人にゆっくり読ませて、その吸収した知識を世界に広げてもらえばいい。いつかその知識が優秀な研究者を育て、この国の技術レベルが向上すれば国の利益にもなるし、失った信用を取り戻すきっかけになるかもしれませんよ?」


それにね。

「同じ異世界から呼ばれた人間として、彼女の行いは恥ずべきものだと思います。同郷の人間かもしれない私が言うのも腹立たしいとは思いますが、残念ながら失われた人材を取り戻すことはできません。だったら失われたものを呻くより、新たな人材を育てるようにすればいい。国の未来を担う人材を。」

オリビアさんは無言のまま私を見つめる。

はっきり言おう。

私は内心ガクブルです。

また閻魔様が小鬼従えて降臨したらどうしよう。

だが間違ったことは言っていない…はずだ。

「はあ…わかったわよ。そもそも女王の後継者かも知れない貴女を止めることなんてできないわ。」

「お、お、オリビアさんー!!よかった~!閻魔様が来たらどうしようかと。」

「閻魔様?」

「はっ!心の声が!」

「ダダ漏れすぎよ、それにしても。」

オリビアさんが笑いを噛み殺した。


「いかにも緊張してますって表情で何を言うのかと思えば。貴女、気を使いすぎよ。確かにその通りなんだから。」

「え?」

「国からの援助を受けているなら協力してもらわないと困るけど、もう国の援助を受けないのだから別にこの国に縛られなくてもいいのよ。お休みを利用してお買い物に他国へ出掛けたっていいわけだし。」

「それは…そうですよね。」

こういうときに、狭い視野でしかこの世界を見ていなかったことに気付かされる。

しかしまだ他国へ食材買いに行く事すら出来ていないなんて。

どこいった?私の異世界のんびり生活。


「ただし、条件をつけさせてもらうわ。」

心の中でひっそりため息をついているとオリビアさんの声が聞こえる。


「条件、ですか?」

「そうよ。雇用主として優秀な魔法紡ぎである貴女を失うわけにはいかないの。

だから紹介状を書くけどその中にいくつか相手の技量に条件をつけさせてもらうわ。

それに該当した冒険者と契約してもらう。これでどう?」

「なるべく国に関わりのない人間がいいんですけど…。」

「一応希望の一つとして書いておくけど、優秀な冒険者ほど国とのパイプを持っているものよ。それに該当しないとなると新入りか後ろ暗い経歴を持つ人間しか紹介できなくなる。それでもいい?」

「それは…困りますね。」

「そうよね。だから希望としては出しておくけど、多少の繋がりがあるくらいは我慢しなさい。他に希望はある?」

「女性の冒険者さんがいたら是非!」

「うーん。いないわけではないけど、数が少ないから必ず紹介できるとは限らないわ。それよりも…、そうねサリィかリィナを連れていきなさい。」

「イヤイヤ、流石にお店の戦力を削るわけにはいきませんよ!」

「今まで二人ともいない日だってあったんだから、別に一人欠けたところで影響はないわ。遠慮せず好意として受け取っておきなさい。」


「私がエマちゃんと行く!」

「私が行きますわ!」

双子よ、今まで空気だったのが嘘みたいに参戦したな。

一緒に来てもらえるのは嬉しいが、仕事の邪魔にならないだろうか?

「「全然!」」

あ、そうですか。

そのままの流れで私の希望も聞きながらオリビアさんは紹介状を仕上げた。

仕事が早いな!話振ったのは今から十分ぐらい前だよ?

オリビアさんは封をした紹介状を私に渡す。

明日、買い物に行くリィナちゃんが一緒に紹介所までついてきてくれることになった。

ありがとうございます!

これで話は終わりかと思いきや。

「エマちゃんは週に五日働いているでしょう?そのうち三日を書庫の管理、二日を魔法紡ぎとして働いてもらえればいいわ。」

「えと、なんか色々失礼なことを言った覚えはあるんですが?」

雇用条件の変更について提示されました。

こちらもシルヴィ様との約束もあるし、きちんと取り組める方が助かりますが、ぶっちゃけ辞めてもいいんですよ!?と脅し紛いのセリフを吐いた手前、申し訳ない気持ちで一杯です。

「あら、初代女王との約束があるんでしょ?

ならこちらとしては約束を果たしてもらえるように協力しないとね。」

「…私の言うことを、あっさり信じていいんですか」

「エマさんなら何でもありそうな気がするのよね。」

そう言うオリビアさんに同意する双子。


「で、お給金なんだけど。」

「問題ないなら今まで通りか、安くなっても構いませんよ。女王様に恩返ししたいので。」

「いいの?随分と頑張ってもらうことになるけど。」

「望むところです!」

さあ、明日からまたお仕事頑張ろう!

そして紹介所に行かなくちゃ。


冒険者って、どんな人なんだろう?

指導の上手な冒険者さんに出会えるといいな!




遅くなりました!

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