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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖五十頁 襲撃

特別であることを望んだ訳じゃない。

ただ、皆と同じでありたかっただけなのに。



ーーーーー



「じゃあ、行きましょうか。」

「全く、押しきるのが得意なんだから。」

にっこり笑ってルクサナ様と手を繋ぐ。

苦笑いを浮かべた彼女は、ポンポンとワンピースの裾を払いながら立ち上がった。


「ええ、押しきられたんだから、文句は聞きませんよ。」

いくつもの推測を怒濤のごとく並べ、説得を試みたとはいっても、最終的に決めたのは彼女だ。

そうでなければ自己主張の強い彼女のことだ。

あっさり王国を見限りそうで怖い。

「ディノさん、知識豊富なルクサナ様のこと喜んでくれるかな、あー!!!」

「ちょっと、いきなり叫ばないでよ!」

「し、師匠!ディノさん、ディノさんは大丈夫だったんですか!生きてますか?!」

「今それを聞くのか?」

ルクサナ様の言葉を無視して、ガクガクと師匠を揺さぶる。

彼は私に激しく揺さぶられながらも醒めた表情は崩さない。

万年氷河の壁か?師匠は。

「今更それを聞いてどうする?」

「だっていきなり連れてこられたんですよ?!先ず生き残ることが先じゃないですか!」

「つまり、忘れてたんだな?」

「…ハイ。」

師匠が珍しく頬を緩める。

くそう、笑いたければ笑えばいい。

ライフが大幅に削られるから、その時は見えないところでお願いします。

「生きてるぞ。帰ったら、ちゃんとお前の目で確かめればいい。」

ポンポンと頭を軽く叩くかれる。


「ちょっと、いくらなんでも身内を亡くしたばかりの私の前でイチャイチャしないでくれる?非常識というか…ハア、もういいわ。」

なんかもう、一周回ってしまった心境なのか渇いた笑いがルクサナ様の口から漏れる。

師匠、俺にも相手を選ぶ権利がって、乙女捕まえて失礼な言い種だな!

「これは師弟の心暖まるふれあいです。それに皇帝陛下の溺愛を一身に受けるルクサナ様に言われたくありません。」

「なっ、それって推測でしょう?違ったら、ただただ恥ずかしいだけの自惚れた勘違いよ?」

守るべき年下の男の子が、いつの間にか自分を守ろうとする立場になっていたなんて。

ルクサナ様、その困惑したような表情がとってもお美しいですね!

美人はどんな表情でも絵になるんだなあ…。

ああ、うらやましい。


「で、どうやってここから帰るの?」

「どうしましょうね~。」

「え、そんな大事なこと考えてなかったの?」

「だから事前準備もなく拉致されたんですって!

転移したくてもこう暗くては目視で座標が定められないし。」

そうなのだ、完全に日が落ちた今、目視で建物を座標に定めることが出来ない。

窓から漏れる家々の灯りは見えるが、それがどの建物の灯り(・・・・・・)かわからない以上、終点に定めるのは危険だ。

うっかり牢屋に転移しました、では笑い話にもならない。

「師匠、転移出来ますか?」

転移にこだわるのは、なるべく帝都内を通りたくないから。

こんな夜道を美女(ルクサナ様)+黒いローブをすっぽり被った無表情(師匠)+おまけ、で歩いてたら、怪しいことこの上ない。

一刻も早く、人目につかない場所へ移動したいのだ。

しかも出来るだけ王国の近くへ。


「出来ないこともないが…俺が持っている転移の魔道具は一人用か二人までの人数制限がかかったものなんだ。だから二人を連れて一度には運べない。」

「その魔道具、私にも使えます?」

「俺の魔力に反応するように作っているから、無理だな。」

「そうですか…あ、じゃあ、これをお願いします。」

紙に転移の魔紋様を複写したものを渡す。

実験のためにいくつか用意していたものの一枚だ。

「転移の魔道具の終点になる場所の近くへ貼っておいてください。貼って師匠の魔力を流してもらえれば発動しますから、そこを終点にして転移します。」

「…お前、本当にこういう細かい機能つけるの得意だよな。」

「なんかこういうの、好きみたいです。」

『アリアの花冠』には"祈り"と"願いの実現"という力がある。

ついでにスキルの魔法紡ぎLv.MAX様はざっくりとした「こうなったらいいな。」位の曖昧な思いも紡げる優れものだ。

だから私は願うだけで、効果や機能として魔紋様まもんように付与され紡ぐことができる。

ただ、出来上がった後、追加したい効果や機能があっても魔法手帖に取り込まれた後では加工ができない。

上書き保存ができないから、最近は試行錯誤して満足がいったものだけを追加するようにしている。

そしてその試行錯誤の残骸が、師匠に渡した紙に書かれたもの。

試行錯誤の後が、ぐちゃぐちゃ書かれた筆跡と魔紋様まもんようから 読み取れたのか、師匠の口角が再び上がる。

「なんですか?」

「真面目に努力しているな…と、なんでもない。…それじゃあ行きましょうか。レディ、お手をどうぞ。」

「よろしくお願いします。」

私の扱いは雑な師匠も、傷心の淑女には礼を尽くすらしい。

ルクサナ様が承諾した事で、彼が優しく手を差し伸べる。

緊張からか表情の固くなったルクサナ様へ、とっさに収納から取り出したお菓子を渡す。

「食べながら待っていてください。すぐに追いつきますから。」

「まあ、これって…小さい頃、一度だけ行ったお祭りで食べたわ。懐かしい。」

お菓子の包み紙を見てルクサナ様は表情を緩める。

それからお菓子の包み紙を握りしめ、名残惜しそうに私から手を離す。

そんな仕草が少し子供じみていて、なんだか可愛らしい。

彼女って根が素直で、親しい相手には愛情深い人なのかもしれないな。

だから皇帝陛下も単に始末することを躊躇ったのかな。

いいなあ、ルクサナ様。

王国に行ったらさぞかしモテるだろう。

「じゃ、いってらっしゃい。」

師匠は小さくうなずくと、ひとつの魔石に魔力を流してから私に渡す。

「絶対防御の魔紋様まもんようがあるから大丈夫だと思うが、念のためだ。」

ふんわりとして温かい師匠の魔力が私を包む。

守護結界が発動したのがわかった。

そして手を振る私を残して二人の姿が消える。

暫し、辺りの気配を探った。

特に不振な気配はしない。

「さあ、あとは師匠が魔紋様(まもんよう)設置するまで隠れて待つ…」

「「いたぞ、こっちだ!」」

突然、丘の上の何もないはすの場所が割れ、現れた黒い空間から男達が飛び出してくる。

掴みかかる男の手を振り払うと、師匠の守護結界が派手な音と共に男の体を弾き飛ばす。

「守護結界か!また面倒なものを!」

落ち着こうと思うが、呼吸が荒くなり、手が震える。


怖いんだ、私は。

真っ白になりかける頭を余所に、回りを取り囲む男達の攻撃は緩まない。

魔法と剣を弾き続けてきた師匠の守護結界も、やがてヒビが入り。


弾けた。


「あっ!」

「今だ、捕まえろ!!」

距離をとっていた男達が一気に加速し飛びかかってくる。

その時、一瞬胸が熱くなった。

『転移 地点A。』

私の声を借りた、私でない声が、転移先を指定する。


「シルヴィ、様。」


男達が私を捉える直前、無事に私は転移先へと飛ばされた。

そこは私が来る途中にこっそり置いてきた転移の出口。

…そうか、ここに逃げるっていう手があったのか。

荒くなった息を整え、崩れ落ちた膝を立て直し。

やっと立ち上がった私の前に。



天使が舞い降りた。






短めです。

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