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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖四十八頁 誓約と、女王様の望み

『サルヴァ=トルアの剣』


叡智と節制を司る『マグルスマフの盾』と対をなし、司るは破壊と再生。

現在確認されている魔紋様まもんようの中では最高クラスであり、"攻撃"を主軸とした"創意"に長けるという。

また、この魔紋様まもんようを持つものは、ある程度のレベルであれば相手の魔法を吸収する力を持ち、自身が改良した上で、即時同様の効果をもつ魔紋様まもんようを発動することができるという。


まさに国にあっては攻撃の要。


オリビアさんの教本が大活躍ですよ。

そんなすごいことができる奴だったんだなぁ…でも。

「なんかあの人苦手です。」

「やっぱ、あいつ嫌いなんだけど。」

同時に言って、其々にお互いの事を指差す。

指差しちゃいけませんと教わらなかったのですか!…私もだけど。

「なんかこう、予想外…。」

「同族嫌悪だな。」


師匠!同族ってなんですか?!

私となんちゃって執事が睨み合っている間に、皇帝陛下と師匠は淡々と取り決めを交わしていく。

今回の件について帝国は公式に遺憾の意を表すること。

国境に展開している双方の軍は日時を定め撤退すること。

主犯が亡くなっているので賠償はない代わりに交易を再開、その安全性は帝国側が責任をもって維持すること、など。


よくもまあ、こんな殺伐とした腹の探り合いを素敵な笑顔で出来るもんですね。

互いに顔立ちが整っているから余計に迫力が…。

しかも師匠の一人称"私"呼びなんかはじめて聞いたわ。

ちなみに師匠、出掛けに王国の交渉権をもぎと…失礼、一任されてきたとのこと。

ある程度のレベルまでは話をつけてきていいよ、と言われてきたらしい。

こうなることが予想できたってことかな?

うん、私には無理だわ。

お、あらかた話が決まったようですね。

「話、纏まりました?」

「大まかにな。あとは誓約だけだ。」

「誓約?」

「流石に担当者抜きで詳細は決められないからな。後日場所を設けて話し合いを行ってもらうんだよ。その場で決めたことを文書にして互いに誓約を交わす。」

ちなみにこのとき魔紋様まもんようが刷り込まれた特別な紙を双方が用意し、相手方の用意した誓約書に調印するのだそうだ。

最終的には双方の代表者が魔力を流し入れ、再び交換し誓約終了となる。

「誓約に対し、違反があった場合は魔紋様まもんようの色が変わって知らせるようになってるんだよ。」

皇帝陛下の補足に感心する。

なるほど、そんな使い方もできるのか。

「それでは国に戻り次第、こちらより使者を派遣します。その後日程を調整しましょう。」

師匠が会話を締めくくった。

「じゃ、話が終わったところで、私から"祝福"をひとつ。」

「「「祝福?!」」」

その場にいる三人の声がハモる。

「はい。誓約が成立するまで時間がかかりますよね?その間にどちらかの国が約束を破らないように、祝福をしたいと思います!…"剣"と"盾"のお二人に。」

「「は?」」

ふふ、師匠が慌てて結界はってるがもう遅いわよ!すでに発動済みなんだから。

なんちゃって執事…ごめんね、制服の恨みがあるから巻き込まれてちょうだい。

キラキラとした光を纏った魔紋様まもんようが二人の体を包み込み、一瞬にして弾ける。

「…なにも変わってないが…。」

「おまえー!何した!?」

掴みかかるなんちゃって執事を完全防御の魔紋様まもんようが弾く。

「大丈夫ですよ。肉体に欠陥をもたらすとか、遅効性の毒とかそういう害のあるものではないですから。お二人に命懸けで誓約まで約束を破らないように自国の偉い方々を監督していただきたいだけです。でないと…。」

「でないと?」

「ハゲます。」

「「は?!」」

「誓約が成立するまでの期間限定に設定してあります。だからそれまで自国を必死で見張っていてくださいね。私、まだコントロールが未熟なようで、頭髪だけじゃなくて…イダダダダダ、師匠、暴力ダメです!無理です、今は解除できません!そういう風に紡いだんで!」

師匠、頭をわし掴むのやめませんか?!

私がハゲます!

なんちゃって執事も「それは祝福じゃなくて呪いだ!」とか言わない。

器が小さいぞ?!

期間限定で解除される上に、ここで交わした約束事が守られれば発動しないし。

ほら、皇帝陛下なんて大爆笑だ。


「いいねえ、面白い。私の予想を裏切るなんてさすが魔法紡ぎの女王と言われるだけある。どうだい?君を信用していない王国なんか捨てて、うちの国に移住しないか?今なら問題なく私の正妃になれるよ。」

絵本に出てくる異国の王様からの仕草まで完璧なプロポーズ。

ちょっと上目使いなところが妙に色っぽいな。

成長したらディノさんみたいに色気駄々漏れ生活を送るんだろう。

…ディノさん元気になったかな?

あまりにも刺激的な帝国生活(意訳)で確認するの忘れてた。


「ちなみに陛下は今おいくつですか?」

「十五才だ。成人はしていないが、婚姻はできる年だぞ。」

胸をはって言うが、ただただ可愛いだけだな。

何となくうちの弟に似ている。

「は、何血迷った事言ってるの?!」

「勝手に勧誘しないでもらえるか?」

皇帝陛下、臣下その一が凄く冷たい視線で見てますよ?

師匠、「頭沸いてんのか?」って、それは口から出ちゃダメなやつです!

師匠と、なんちゃって執事は言い回しは違えど反対であることは同じようだ。

同時に言うなんて仲いいねえ、二人とも。

慌てることないじゃないか、ちょっとした冗談だ、…だよね?

「我が帝国と君のいる王国は長い年月にらみあってきた。だが君の前では…なんだかこう、そうしているのがバカらしくなってくるよ。」

内緒だけどね、そう言って柔らかい笑顔で微笑んだ皇帝陛下。

そうだね、だって。

「こうなることが、"女王"の望みでもありましたから。」

火の粉は払うけれど、それ以上の争いは望まない。

呼応するように胸の辺りがほんのり温かくなった。

思わず、口元に笑みが浮かぶ。

彼女の願いがほんの一部でも叶って良かった。

皇帝陛下が師匠に真剣な表情を向ける。

「王国の"盾"である君に、王への伝言を頼みたい。王国が魔法紡ぎの女王をもて余すようなら、帝国は喜んで彼女を迎え入れると。彼女が望むなら我が国は皇帝の正妃として迎える用意がある、ともね。魔法手帖を持つものは、我が国にとってそれだけの価値がある。」

うわ、冗談だと思ってたのに、ちょっと本気入ってましたか。

しかし結婚に対してものすごくビジネスライクな思考だな。

貴族階級はこんなものかもしれないけれど。

「伝言については承りました。王国は現在彼女の待遇について検討中です。私からの回答は差し控えさせていただきます。」

優等生な回答だね、師匠。

みんな好き勝手言ってるから私からも一言。

「私はのんびり過ごしたいので、ほっておいていただけるのが一番望ましいですけど。」

「それは無理。」

「おまえ、それはどうみても無理だろう。」

「無理だ。」



あ、さいですか。




遅くなりましたー(泣)

バタバタしていて同時進行の「赤い鳥」シリーズの方を先に投稿して、構想から練り直したこちらは後回しになりました…。

楽しんで頂けると嬉しいです。

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