魔法手帖五頁 異世界から呼ばれた人と、願い
魔紋様のためにカロンさんが暴走し、ルイスさんが若干遠い目をしつつ、微妙なフォローをかました後。
なんとも言えない空気の中、お茶をしながら話は続く。
「これで、異世界からこの世界に呼ばれた人が、大量の魔素を取り込むことができる能力を持つことがわかっただろう?魔素を取り込んで絶対防御の魔紋様が発動できる、選ばれる基準にはこの要素が確実に含まれている。あとは年齢や性別、呼ばれる時期なんかは、人によって該当したりしなかったりで、確実なことはわからない。ただね…」
ルイスさんは、確認するようにちょっとカロンさんへ視線を投げる。
それを受け止めたカロンさんが、軽く頷いて話し始める。
「これはあくまでも私の意見なんだけどね、呼ばれる人は"こちらの世界でなら願いが叶う可能性がある"ことが基準に含まれているんじゃないか、と思うのよ。」
参考として色々な記録を読み、さらに生きている関係者に話を聞いてそう考えるに至ったのだとか。
うん、確かに願いはあった。しかも結構切実なやつ…。
…てことは、私の願いは、世界を違えなければ叶わないレベルなのか。
神様、そこまでしなくてもよかったんですが。
なんとも言えない表情に気づかれないよう俯いた私の頭に、ふわり、と優しく手が触れる。
ルイスさんがこちらを覗き込みながら、柔らかい笑顔を浮かべ言った。
「そんな顔しなくても無理には聞かないよ。話したい気持ちになったらいつでも聞くし。もしかしたら、手伝うことができるかも?」
いいヒト過ぎます、ルイスさん!でも言いません、いえ、言えません!
「異世界に呼ばれて何も得るものがなかったら、それは一方的な搾取よ。存在するものにはには対がある。天がありそれを地が支え、光は溢れそれを闇は包む。世界を対とするなら、互いに与えるものと失うものを対等にしなくてはならない。それでなくては、互いの世界の相互関係が崩れ、結果両方の世界のバランスを損なう。だから、呼ばれた対価として願いを叶えてもらう、と、そう考えれば辻褄は合うのよ。」
ついでに、願いの強さだけ力も強いと考えてるの、そうカロンさんが補足した。
この考え方は徐々に支持を集めているらしいけれど、異世界から呼ばれた人に素性や背後関係を無理に聞き出さないからハッキリしないらしい。
ちょっと無理して聞き出そうとする人いなかったのかな?
疑問が顔に出ていたらしい。
「無理して聞き出す人がいなかったわけじゃないけど、そういう人は軒並み不幸になるらしいよ。家が没落したり、家族が続けて怪我したり、領地が大量の魔物で溢れたり。」
しかも、聞き出そうとした本人がどん底を味わうと、ピタリと被害が止むらしい。
…祟りか、祟りなのか?そうだな、とりあえず私なら、絶対にスルーする。
そう考えると、うん、取り扱い方としては正しいのかな。
しかし不幸になり方が半端ないな!
聞いたこっちが謝りたいくらいだよ!
お茶の入ったカップを持ちながら、ちょっと思うことがあり、暫し私は思考の海に沈む。
真実はわからないからなんとも言えないが、もし…もしもその考え方が一部でも当りなら、私はチャンスを与えられたのではなかろうか?
無理やりでないなら、互いの世界の需要と供給を満たすための転移、ということになる。
怒りを覚えるのはお門違いというやつだろうか?
うーん、とはいえ、この少ない情報だけでそう決めつけるのは、お人好しが過ぎるかな。
自分たちに都合の良い決着に持っていくための布石、とかそんな感じ。
でも、この二人を見てるとそんな悪意を感じないんだよなー。
なんか色々憎めないというか、絆されるというか。
今も、お茶請けのクッキーの最後の一枚をどちらが食べるかで、真剣に揉めているし。
この、おこちゃま共め。かわいいじゃないか。
…クッキーは半分こにしなさい!
「「お姉ちゃんみたい」」
そこ、綺麗にハモらない!…確かに三人姉妹弟の一番上だがな。
だいぶ夜も更けて、さらに緊張も解けてきたのか、眠気が襲ってきた。
そんな私の様子を見て、続きは明日ということで、カロンさんが部屋に案内してくれた。
結構広さのある一人部屋。家具は最低限でシンプルなもの。うん、落ち着くわ〜。
寝間着を借りてそれに着替えると、ベッドに潜り込む。
ほのかにラベンダーのような花の香りがした。
…目が覚めたら全てが夢でした、なんてね。
そう思いながら眠りについた。
スピードアップどこいった。