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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖四十頁 充電残量と、傷ついた手


初めて見る地下牢。

ゆるゆると上半身を起こして見渡すと、鉄格子の外にある廊下の何ヵ所かに灯りが点るだけで、人の気配は感じられなかった。


そっと天井付近にある小窓を覗けば、闇に浮かんだ月の姿が見える。


さて、どうしようか。

実は今、師匠とは別行動なのですよ。

女王様からのキリキリ働けよ?!(意訳)という激励(脅し)を真摯に受け止めた師匠は情報収集のため、建物内のあちこちを徘徊し、なんと城へと繋がる秘密の扉を見つけたのだとか。

たぶん今頃は城に潜入して都合上良さそうな場所へ記録用魔道具をせっせと仕込んでいる最中だろう。

パス(金の糸)は繋げたままだから、私の居場所を探し回ることはないにしても、戻るまでに時間はかかりそうだ。


よし、自分で何とかしよう。


今はまだパスを繋いだままにできる魔力の残量があるけれど、この首の魔道具チョーカーがつけられている限り、魔素が集められないようだからいつかは尽きてしまうだろう。

そうすれば師匠が吹っ飛んできて、血みどろの惨劇が?!

追求されるとコワイからチョーカーくらいさ自分でなんとかしよう、うん。


さて、チョーカーを切るか、それとも付加された効果を消すか。

チョーカーに触れると、血のついた部分が魔紋様まもんようになっているのがわかる。

そっと魔紋様まもんように触れてみる。


…なるほど、だからこういうことができたのね。

読み取った魔紋様まもんようの効果についての検証は今は置いておいて、今度はチョーカー本体に触れて効果を読み取れるか挑戦してみる。

うーん、流石に魔紋様まもんようを使わない魔道具は無理か。

『鑑定』のスキルでもあればわかるのだろうけど。


なら、安全性を取って効果を消すにしよう。

切ってしまえば丸わかりだからね。

効果を消した場合、GPSみたいな常時位置を特定するような魔法が組み込まれていたら厄介だな。

ただあの執事っぽい人、なんかそういう細かい作業ができる人じゃないと思う。

私の扱いが雑すぎるからな。

先ずは魔力残量を調べて、チョーカーの効果が解除できるか確かめてみよう。


気だるい体を無理矢理起こして、手に魔力を集め、魔法手帖を取り出す。

ん?なんで魔素が集められないのに魔法手帖が使えるのかって?

うふふ、それはね。


「検索 充電残量バッテリー。」


魔法手帖に魔力を充電しておく機能をつけたんですよ。

前回、扉の魔紋様まもんようを上書きするのに魔力が足りないという悔しい思いをした経験から、魔法手帖に魔力を貯めておける魔紋様まもんようを紡いで、魔力が余った日はそこに全部充填しておいたのですよ。

こうすれば必要なときに魔法手帖に貯めた魔力だけで魔法手帖に記された魔紋様まもんようを発動することができる。

今は魔道具の効果か、吸い取られてうまくいかないけれど、貯めた魔力を私に充填することも可能だ。

うん、魔法手帖に貯めた魔力の残量はまだ八割以上あるね。

これならあの魔紋様まもんようが使えそうだ。

早速キーワードを指定する。

「検索 魔法全消去 範囲指定」

検索をかけると空中でページが次々に捲られ、該当の魔紋様まもんようのページが開かれる。

そうそう、この魔紋様まもんよう

万が一の備えと思って、相手が魔法を使って攻撃してきた場合を想定して紡いでおいた。

魔紋様まもんようであれば上書き、魔法は容赦なく上回る魔紋様まもんようの効果で消去。

これが私の考えた魔法対策だ。

チョーカーを指で触れて魔紋様まもんようの有効範囲に指定する。

ここらへんはアナログなんですよね。

目でも指でもいいから目標や範囲を指定する仕様。

だって細かい指定はやっぱりアナログな方が楽なんだもの。

ちなみに範囲指定なしバージョンもあるよ!

めちゃくちゃ魔力使うけど!


範囲の指定が終わったところで一気に魔力を魔紋様まもんように流す。

瞬間、音もなく魔道具が力を失ったのがわかった。

しばらく静かにして、誰か人が駆けつけてこないか確認する。


よかった…バレてなさそうだ。

安心した反動で一気に脱力し、壁に寄りかかった。

そうしてじっとしていると、徐々に失われた魔力が戻ってくるのがわかる。

魔力が戻るに従い、今度は体力を回復させるためか急激に眠気が襲う。


はあ、終わった…。

お腹空いたけど、まずは少し休もう。




ーーーー



「…い、おい、起きろ。何があった!?」

「っと、おかえりなさい師匠。すみません、ちょっと寝てました。」

ぼんやりとしたままベッドの上から起き上がり、脇に立つ師匠の隣に並ぶ。

なんかまだ体がだるいけれど、さっきよりは大分調子がいいかな。

「そんなことはいい、それより何があった?説明しろ。」

怖い表情をした師匠が、手と首の辺りに触れる。

チョーカーをつける際に撥ねた血が襟元や手首に残っていたらしい。

師匠が不在の間、謁見の間から地下牢に閉じ込められるまでの経緯を説明する。

「ちなみに、それ私の血ではないですよ。相手の血です。」

「相手って、誰だ?」

「私を王国から連れ出した執事っぽい男の人です。完全防御の魔紋様まもんように弾かれたこのチョーカーを私に着けるために必要だったみたいですね。」

「魔力を奪い、魔法の使用を抑えるための魔道具か。」

「たぶんそうですね。なので魔法手帖を使って魔法そのものを消去しました。今はもう大丈夫ですよ。」

証拠となるチョーカーを手渡しつつ報告する私を黙って見つめたまま師匠はため息をついた。


「なぜ俺を呼ばない?緊急時にと、通信用の魔道具を渡してあっただろう。」

「師匠、一人称が俺に…」

「黙って聞け。俺が戻れば無理に魔力を使わずに済んだだろう?しかもこの場所についているのは相手の血なんかじゃない、お前のものだ。」

確かにきつく握りしめた私の右手にはいくつかの傷があり、血が滲んでいた。

意識を失って手から転がり落ちた髪飾りも赤い点が浮かぶ。

「…目敏いですね、師匠は。」

厳しい言葉に、思わず視線を逸らす。

今回わかったのは大量の魔力を一気に失うと意識を保つのが難しくなる、ということ。

魔法手帖に貯めた魔力があるので魔素を吸収する力を阻害し魔力を封じ込められても、魔紋様まもんようの発現発動は問題なく出来たが、それは結果論。


それを操る私の方が意識を何度も失いかけたのだ。

だから執事さんが髪を結ってくれた際に着けた髪飾りを強く握り意識を保っていたのだが、手加減できずに手のひらを深く傷つけていたらしい。

髪飾りにも所々血がにじんでるから、バレるわよね…。


「…こっちを向け、エマ。」

初めて名を呼ばれたことに驚いて思わず師匠の方を向く。

そこにあるのは、今まで見たことのない師匠の真剣な表情だった。

「呼ばないにしても、何故俺の帰りを待たなかった?」

「それは…。」

「女王が言っていただろう。俺はお前の"盾"だ。お前が望まなくとも、俺はお前の盾となる義務がある。ディノルゾもゲイルもいない、ここに味方は俺しかいないことくらい、聡いお前ならわかっているだろう?なら、何故俺をうまく使おうと思わない?」

師匠の強い視線が、言葉が、私に突き刺さる。


「何故、お前は人を頼らないんだ?」

返事をしようと何度も口を閉じ、開けて…。

言葉を探すけど、なんでかな。

うまく言えない。

「…って。」

「ん?」

「…元いた世界では頼られることが普通だったんです。だからどこまで頼っていいのか、わからなくて。」

だってしょうがないじゃない。

大抵のことは自分でやらなきゃって思っていたし、失敗もしたけど、それでもできてしまったんだもの。

異世界に一人迷い混んで、赤の他人でも助けてくれる優しい人達に出会って。

尽くしてもらうだけの私が頼るなんて、思いもよらなかった。

その言い訳が何だか恥ずかしくて、悲しくて。

目のはしにうっすら涙が滲む。

しばらく黙っていた師匠は、ひとつため息をついてから表情を和らげた。

「そういえば、お前はこの世界に来てまだ二ヶ月ぐらいなんだよな。規格外ぶりが話題に上りすぎて忘れてたが。」

そう言った後、傷がついた方の手を握って治癒魔法をかけてくれる。

私自身、治癒魔法かけられるんだけど、大量に魔力を失った後だったから面倒で寝てしまったんだよね。

ここはおとなしく治療してもらおう。

「お前は無駄に器用で、思考もそこそこ大人だから、つい回りの人間が自分と同じ大人として扱ってしまうんだろうな。」

治療の終わった後も握った手はそのままに、ゆっくりと魔力を補充してくれる。

師匠から融通される魔力は、以前と変わらずに優しく、温かかった。

「…師匠からは貰ってばかりですね。」

思わず溢れた私の笑みが伝染したのか、いつも愛想のない師匠の顔に笑顔が浮かぶ。

おお、眼福です!

「そのあたりは早めに成長してもらえると面倒が減って助かる。」

緩やかに体内を循環する魔力が体の隅々まで満たされてくると、今まで感じていただるさがとれて気力が戻ってきた。

「…お前、吸収できる魔素の量がまた増えたみたいだな。」

「あれ、そういうのってわかるもんなんですか?」

「こう度々魔力を融通すれば渡した魔力の量で計れるだろう。お前ぐらいの年齢になれば吸収できる量はそんなに増えないと言われているのに。本当、どこまでも規格外の道を突き進んでいくな。」

そう言って師匠は呆れを含んだ苦笑いを浮かべ、手を離した。

「そういえば、師匠の方はうまくいったんですか?」

「…その話は一度寝てからにしよう。俺も結構たくさん魔力を使ったから眠い。」

「はーい。あ、師匠は床に寝てくださいね!」

「お前、そこは気遣いとしてベッドに寝るか聞くもんだろう。」

「あ、じゃ、一緒に寝ます?」

「…そこの床でいい。」


ですよね~。

絶対拒否されると思ってたもん。

って、師匠!?その収納から出したのは…。


「高級マットレス!!」

「俺は寝具にこだわりがある派なんだ。」

「どこの女子ですか!?私の分は?」

「あるわけないだろう。」

次に枕と肌触りの良さそうな毛布が出てくる。

牢の狭い空間に器用にマットレスをセッティングした後、寝具に織り込まれた魔紋様まもんように魔力を流す。

「そこは嘘でも一緒に寝るか聞きますよね?!」

「俺は嘘がつけないんだ。じゃ、おやすみ。」

一瞬声だけ聞こえて、あとは無音の世界。

寝具のあった辺りを蹴ってみるけれど、師匠にも、寝具にも接触しない。


「空間魔法も併用か…!」

絶対にその魔紋様まもんよう紡いでやる!そう固く決意して私もベットに潜り込んだ。

うう、このベッド、スプリングもなく固くて寝づらい…。

絶対寝れないよう…。

寝れない…。




ぐう。





今回はお話長めです。

読んでくださりありがとうございます♪

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