魔法手帖四頁 門番と管理人
なんと、他にもいきなり呼ばれちゃった残念な人、いました。
「ちなみにその方、地球とか、日本人とか言ってませんでした?」
もしかしたら同郷の人だったりして。
「あ、いや、そのへんはあまり聞かないようにしてるんだよ。本人が話してくれるのは別として。」
あ、そうですか。残念です。
「でも、カロンならわかるんじゃないかな?"管理人"だし。」
「ま、一応ざっくりとした情報は知らされてるし、わからないこともないけど守秘義務があってね、ってルイス、エマちゃんが固まってるわよ。」
「あ、管理人はね、この世界に呼ばれた人が現れる場所を特定する人を指すんだ。大体俺みたいな門番と二人一組で、エイオーンに呼ばれた人を保護してるんだ。」
カロンさん、ナイスアシストです。ルイスさん、新たな謎を提供してどうするんですか!
「うーん。なんか色々面倒だから、とりあえず説明先にさせて。後でまとめて質問聞くから。」
め、面倒て…言いたいことと、思うところは一杯あるんですが、そこはゴクンします。
「さっきの話に戻るけど、君や他に呼ばれた人達が選ばれた理由は詳しくわからないんだ。呼ばれた時の条件や、年齢、性別関係なく選ばれるから特定できないんだよ。ただね、選ばれるために必要な能力があるとされてるんだ。」
それは大量の魔素を取り込む能力。
「当たり前のように魔法があるこの世界にも、使える魔素の量は人それぞれなんだ。当然、魔素が大量に取り込める人もいれば、ほんの少ししか取り込めない人もいる。だからなるべく少ない魔素で魔法が使えるように、発動時の動作や呪文で代用しているんだ。そして多めの魔素を使う代わりに、複雑な工程を代行してくれる技能のひとつが魔紋様なんだよ。異世界から呼ばれた人は皆、この世界の住人より大量の魔素を取りこめると言われている。」
「ちなみに、魔素を大量に取り込む能力が必要だというのには、もうひとつ理由があると言われているの」
カロンさんが、ちょっと怖いけどごめんなさいね、というと先程と同じサイズにした火の塊を、ぽん、と私に向かって軽く投げた。
突然のことに驚き、塊がぶつかった時の衝撃に備えて身構えるも、痛みも熱さも襲ってはこない。
自分の体から数cm手前に光る紋様が現れ、光の塊を弾いたからだ。
「それは絶対防御のための魔紋様。魔法での攻撃や刃物などからの物理攻撃も弾く、魔紋様の最高傑作の一つね。異世界から呼ばれた人は皆、体の何処かにこの魔紋様を持っているといわれているの。そしてこの魔紋様を発動するために大量の魔素が必要になるらしいのよ」
カロンさんはそう言うと、急にうっとりとした表情になった。
「久しぶりに見たけど、絶対防御の魔紋様ホントに綺麗よね〜。精密で、繊細で、崩れるように消えていく様も儚くて美しいわ〜。」
「…お前さ、だからって突然攻撃するのやめろよ、怖がってるだろうが。」
はい、ルイスさん、怖さ通り越して、このあふれる怒りをぶつけたいのですが。
「ホントごめんなさいね、なかなか見る機会ないから、つい。」
そのあとカロンさんにキラキラした瞳で、今度二人っきりの時に、ぜひ体に浮かび上がる紋様みせてねっと耳元で囁かれた。
「ごめんな、カロンは研究者でもあるんだ。熱意のあまり魔法や魔紋様のこととなると自分を見失うらしくての。なんかされそうになったら言ってくれ。出来るだけ止める。」
深々と溜息をついたルイスさんは、食後のお茶を入れ直すために立ち上がったカロンさんを見送ってそういった。
…はい、以降二人っきりにならないように気をつけます。
なんか色々大切なものを失いそうなので。
あれ、説明が終わらない?(笑)