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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖三十五頁 ヒュノプスの眠りと、回復薬


女王の魔眼。

起動の仕方がわからないけど、ぶっつけ本番でいけるかな…と思ってたら、無事に使えました。


よかったー。

呪文もいらず、意図するだけでステータスが読めるとは、なんとお手軽だ。

実際、ダンジョンで使えたから大丈夫とは思ってたけど、精神的なものに左右されたり、一部解放状態で相手のランクによって読めなかったりしたらどうしようかと心配してましたよ。

「ディノさんのステータス…読めますね。…あ!!ありましたよ、状態異常…!」

「何て書いてあるんだ!?」

「ヒュノプスの眠り、だそうです。」

お、下に説明が出ている。

光属性であり、魔素の吸収を妨げ行動不能にする。

この眠りから覚めない場合は、魔素が充分に取り込めないままであり、やがて死に至る。

異界の神の名から付けられたとされ、特に闇属性を持つものに対し大きな効果がある、と。


「ディノさんの症状のまま、ですね。」

「「…。」」

「ゲイルさん?オリビアさん?」

無言のままの二人に思わず振り向く。

ゲイルさんは茫然とした表情で、オリビアさんは顔色が真っ青だ。

「オリビアさん!ゲイルさんも、ど、どうしたんですか?!」

サリィちゃん達を呼ぼうと後ろを向いた私の耳が、ぽつんと呟いたゲイルさんの声を拾う。

「…間に合わない…。」

「え!?」

「…薬が、手に入らないんだ。」

誰にともなく、呟いた言葉にハッとさせられる。

薬がない、ではなく薬が手に入らない(・・・・・・・)

「…んだよ、助かったていうのに、間に合わないのか?!」


ゲイルさんの叫びが、むなしく響く。




ーーー



薬はあるのだが、手に入らない。


それはこの国を取り巻く状況にある、とのことだった。

このサルト=バルト二ア王国の周辺には四つの国がある。

現在この国はうち二つの国から喧嘩を吹っ掛けられていて、ひとつはブレストタリア聖国、通称で『聖国』と呼ばれ、もうひとつはアントリム帝国、通称『帝国』と呼ばれている。

ディノさんにかけられた状態異常の原因である魔紋様まもんようは帝国の始祖ステラと呼ばれる魔法紡ぎが発現させたものだそうで、元々魔物対策だったそうだ。

ところが、いつの頃からか人に対しても使われるようになった、という。


例えば病を装った暗殺などのよくない方向に。


ただ、魔法紡ぎの技術力向上よりも高精度な魔道具による発展の方に力をいれた帝国では、ずいぶんと昔に技術が廃れ、紡げるものもいなくなった。

更に発動までに要する魔力の量も膨大なこともあって、近年は教本に名前が掲載される程度の扱いだったそうだ。


その負の遺産がディノさんに使われた。


さて、その『ヒュノプスの眠り』を覚ますには特定の効果を持つ回復薬が必要になる。

それは想像通り、帝国の限られた高山地帯にのみ生えている木の葉を主材料として使用するため、現在停戦中ではあるものの、不安定な情勢に帝国と国交の途絶えた状態の国内では手にはいらないのが現状だ。

「とりあえず、知り合いの薬師達に手にいれてもらえるよう手配はしているけれど…。」

焦りを声ににじませたオリビアさんにゲイルさんは頭を下げる。

「すまない。そこまでしてもらって。」

「…その薬じゃないと助からないんですか?」

私の言葉にオリビアさんがうなずく。

「人にかけられた魔紋様まもんようの効果を、魔紋様まもんようで打ち消すことは出来ないのよ。多少、回復力を増進させたりすることはできてもね。」

病気になった人が栄養剤を飲むのと同じ感覚かな。

病気には直接効かないけれど、体が抵抗力を持つことで多少改善がみられると。

「…ディノさんの魔法抵抗、ちょっと底上げしておきますね。」

気休めにしかならないけれど、負担にならない程度に魔紋様まもんようで『魔法抵抗向上』をかける。

「…これから、どうされるんですか?」

「上には報告してある。色々なつてで薬がないか確認はしてもらっている。打てるては、打ったんだ。あとは待つだけだ…。」

薬が届くより先に、ディノさんが力尽きるか。

もしくは、運よく薬が見つかって…


『私がお手伝いいたしましょうか?』


突然なにもなかった空間が黒く、ぱっくりと口を開ける。

人一人通れるだけの隙間から、上品な服を着た男性が姿を現す。


「「「な!!」」」

「失礼いたしました。そちらのお嬢様がお困りのようでしたので不躾ながら馳せ参じました。」

「誰だ、お前は?」

「私のことはいかようにでも好きにお呼びくださいませ。我が主より内密に遣わされた身ゆえ、名乗る許しを得ておりませぬので。」

武器を向けるゲイルさんやオリビアさんを無視して私に視線を合わせてから深々と頭を下げる。

私に対する物腰は柔らかいものの、目が笑っていない。

まるで虫けらを見るような視線とは、こういう質のものなんだろうな。

初対面にも関わらず、そんな目で見られる理由に心当たりはないのだけどね。


「…どこから入ってきたの。」

「…。」

「…どこから入ってきたのですか?」

「私は特技がございまして。そのうちのひとつと申し上げましょうか。」

うーん、職業は、たぶん執事?なのだろうか。

色々徹底されているな…オリビアさんの問いかけには無視して、私の聞くことには答えるところとか。

それなら。

「ご用件はなんでしょうか?」

「お嬢様は聡明な方のようですね。…実は私の主がお嬢様にお会いしたいと申しております。

そのためお迎えに上がりました次第でございます。ご同行いただけますか?」

執事さんはにっこり笑って答える。

意向を問う体裁をとった、命令。

その瞬間、一気にゲイルさんとオリビアさんの殺気が膨れ上がる。

私、動けませんでした。

…殺気って怖い、マジ怖い…。

「行かせると思うのか?舐められたもんだな。」

「…ですが主の意向でお嬢様をお迎えに上がるのに、手ぶらというのも失礼かと存じましたので手土産を持参いたしました。」

ゲイルさんを一瞥することもなく、執事さんは私の目を見つめて微笑む。



「『ヒュノプスの眠り』を覚ます回復薬でございます。」






執事さん出してみました。

作中で、「セバス」とか呼んでみたいです。

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