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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖三十二頁 師匠(仮)と、揺り返し

緩く。


細く。


歌うように、切れ目なく。

魔力の糸を紡ぐ事は、昔の映像で見た繭から引き出した糸を、撚って糸車に巻きつけていく作業に似ている、と思っていた。

「もう少し絞れるぞ。糸が細くなれば、その分魔力の消費が少なくなる。」

はい、ただいま即席の『魔法紡ぎ初級者講習』を受けております。

貴族の方に直接教わるなんて面倒くさ…恐れ多いと辞退したのですが、「魔力を無駄にされると腹が立つ」そうで、魔力の供給をいただく代わりにスパルタ教育を受ける羽目になりました。


実験や遊びのつもりなら帰れって言ったの貴方ですよね?!

無茶苦茶実験じゃないですか?!

「不満があるなら言ってみろ。」

だから、心を読むのやめてください?!

はじめのうちは緊張感と集中力のおかげで均一だった糸の太さが、浄化の効果が現れるようになると緊張感が途切れがちになり、更に数十分経つと少しバラつきが出てきた。

それを目ざとく見つけた貴族のか…面倒くさいから〇〇でいいか。


いきなり指導が始まった。


初めはポカンと見ていたオリビアさん以下捜索隊の皆様はだんだん無口になり、時々「おぉ!」とか「なるほどね!」とか言い出して、誰も止めやしません。

止めようよ、皆さん。

ただ、確かに厳しいだけあって、指導も的確だし、時々反対の手で切れそうになる糸を器用に補強してくれる。

その時にちらりと見えた反対の手は、…あれば多分義手だ。

近くから見ないと分からないけど、魔紋様まもんようがびっしりと書き込まれていた。

うん、自分も凄く努力してきた人なんだね、きっと。

〇〇なんて呼んでごめんなさい。

せめて師匠(仮)と呼ぶことにしますから。


「…あとどの位だ?」

私の魔力と師匠(仮)の魔力を混ぜて魔紋様まもんように流すこと一時間以上。

随分節約して使ったけど、互いに魔力の残量はあと三分の一を切っている。

「…あと、一階層か、二階層くらいです。」

師匠(仮)はまだ余裕があるが、私はといえば倦怠感を感じるようになった。

少しだけ呼吸が荒くなる。

でも、召喚された魔物がどこの階層にいるか分からない以上、途中で止めるわけには行かない。

「そろそろ来るな(・・・・)。」

何が、ですか?そう問おうとした私の足元が突然上下に揺れる。

「!」

「魔力の糸を切らすな!」

とっさに師匠(仮)が繋いだ手を引き、私を体全体で揺れからかばう。

そして、もう片方の手で私が魔紋様まもんように注ぐ魔力が途切れないように補強する。

「…!」

今まで均一になるよう魔力を流していたものが、急に出力を上げたことで一気に魔力が減り、彼の口から呻くような声が聞こえた。

「ご、ごめ…。」

「…いいから、集中しろ。」


顔を上げる事無くそう言った彼の声に応えるように、私は魔力の糸を紡ぐ。


…あと、少しだけ。

あと、少し…。

やがて、扉が白く発光し、魔物達の凄まじい叫び声を残して。

黒い魔紋様まもんようは消えた。


「…っ終わった…。」



私は師匠(仮)に抱え込まれた体勢のまま、二人揃って座り込む。

扉から魔紋様まもんようが消えたと同時に、サリィちゃんとリィナちゃんが先頭になって十八階層へと突入していった。

それを横目に呼吸を整えながら、師匠(仮)が最後の揺れが何なのか教えてくれる。


「"揺り返し"だ。」

「"揺り返し"?」

「力ある場所を浄化する時にたまにあるんだ。負のエネルギーが貯まる場所に、正のエネルギーをぶつける。その時発生する衝撃が溜まって最後に爆発するんだ。」

建物が古ければ崩れ落ちることもあるから気を付けろよ、そう言って深くため息をついた。

魔力を大量に使ってぼんやりしている師匠(仮)は、先ほどまでの厳しい態度が薄れた分、少しだけ幼く見えた。

この人、もしかすると私と同年代かもしれないな。

きっとあの子(・・・・)もこの位の歳だったらこんな感じかもしれない。

「お前は不思議な存在だな。」

師匠(仮)の言葉に意識が現実へと引き戻される。

「っと、はい?」

魔紋様まもんようの知識とセンスは賢者並、だが技術はまるで素人だ。オリビアから魔法紡ぎを教わっているんだろう?彼女は、優秀な技師であり、魔法紡ぎだ。いつか誰かに足元すくわれないように精進しろよ。」

ぽん、と頭を叩くと足元からローブを拾い、身に纏う。

おっと、忘れるところだった。

「師匠!」

「はあっ?」

唖然とする顔を見てニヤリと笑う。

まあ、この顔を見たなら散々虚仮にされたことは水に流しますよ!

それから、深くお辞儀をする。

通じるか?異世界式感謝の気持ち。

「エマともうします。色々教えてくださり、ありがとうございまし…」

た、と言おうとしたところで、クラリと世界が回る。

あ、あれ、なんか気持ち悪い…。

「おい、大丈夫か?」

視界では師匠(仮)が手を伸ばし、温かいものに触れた感触があって。

フツリと私の意識が途切れた。

「…おつかれさま。」

どこからか聞こえた優しい声。

手のひらの温もり。


それを懐かしいと思ったのは、何でだろうか。





短めです。

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