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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖二十九頁 ダンジョン観光

「現在の状況を説明するわね。」


エマの部屋に入り、並んでベットに腰掛けながらオリビアさんは話し始めた。

三週目が過ぎ二人がいよいよ危ないのでは、そういわれる現在に至るまで組織は手をこまねいていた訳ではなかった。

念のため、双方の組織から実力者を集め捜索隊を出した。

選りすぐりだけに、驚異的なスピードで各階をクリアしていったという。


やがて十五階層を抜け、未知の十六階層に突入していく。

流石にここはもたついたそうだが、それでも何度か補給をし、人を入れ替え、なんとか下へ下へと進んでいく。

そして、たどり着いた十八階層で彼らが見たものは。



階層の入り口である扉を黒々と塗りつぶす巨大な魔紋様まもんようだった。



「ここから先はあくまでも予想になるのだけどね。」

オリビアさんは前置きをしてから言った。

二人は未知の十六階層から下の層で書籍を探すため、一週間に一階層ごと進んで行ったのだろう。

ちなみに元いた世界と同じで一週間は七日ある。

そして、二階層進んだところでこの魔紋様まもんようを見つけ、何か事件・事故が引き起こされたのではないか、いうことだ。


「私も見に行ってきた(・・・・・・・)のだけど、なんかこう、嫌な雰囲気の魔紋様まもんようでね。今まで見た事はないんだけど、すごく強力な魔素を感じるのよ。」

「見てきたんですか?」

王都にあるんだよね?あれ、もしかしてオリビアさんも扉が繋げられる人?

「ここから先はまだ秘密。」

そう言ってはぐらかしたオリビアさんだったが、次の瞬間私の手を握り、目をまっすぐ見て言った。

魔紋様まもんようの教本、読み終わった?」

私は無言で肯く。

「貴女なら、『魔法紡ぎの女王』と呼ばれる魔紋様まもんようを持つ貴女になら、あの魔紋様まもんようが解けるかもしれない。」

「こんなことを、異世界から呼ばれた人にお願いするのは間違いだということは承知しているわ。しかも、まだこの世界に来て一ヶ月しか経っていない、戦闘経験のない少女に頼むことでないことも。でも、私は何としてもあの二人を助けたい。」

それから、オリビアさんは私に頭を下げた。


「お願いします。」



ああ、もうダメだな、と思った。

信用しすぎてはいけない、一年で帰るのだから情が湧いてはいけないと、随分我慢してきたけれども。

この人達のことをこんなに大切に思っていたなんて。


「はい、了解しました。」

努めて、笑顔で答える。

こうなれば、とことん巻き込まれてやろうじゃないか!


オリビアさんはほっとしたような表情で微笑んだ。

握った手は思いの外冷たくて、緊張のためかうっすら汗ばんでいた。

普段の余裕たっぷりの様子からは想像出来なかったけれど、このギャップは好ましく思う。


さて、善は急げということで、オリビアさんに案内され、到着した先は例の「開けちゃうとフラグ立つよ」なアノ扉の前。


本日も順調に禍々しいですね!


「…」

「さあ、逝きましょうか!」

「…お、オリビアさん、今、逝くって…。」

「あら、行きましょうかって言ったわよ?」

いきなり後悔しまくりですよ!さっきまでのしんみりした気持ち返せ!



ーーー



ハイ、到着しました。

現在地は十八階層の扉の前です♪


ん、途中すっ飛ばしたって?

だって長い階段が続くだけなんですもん。

噂に聞く書籍の魔物とか、ギミックボックスとか、金銀財宝とかないんですもん。

ひたすら長い通路を歩いて螺旋階段を降りて、二階層毎にあるダンジョンへの扉(オリビアさん曰く、裏口)の脇を通りぬけ、何のイベントもなく時折ある窓からちょっとばかりダンジョンの中を覗くだけ。


…オリビアさん、観光にすらなってませんよ。


あの禍々しい扉は、ダンジョンの入り口とは逆に配置された管理者専用口というもの。

毒を喰らわば皿までな心境なのか、私が一年でいなくなるからバレるリスクは低いと踏んだのか、本来は秘匿せねばならないはずの管理者としての身分を明かしてくれた。

それを知るのは王族の一部、組織の上層部の人、オリビアさん本人、そして店から一緒に来たサリィちゃんとリィナちゃんだけ。

大丈夫、他の人には言いませんよ!だってお家に帰りたいもの。


状況が状況だけに、皆無言で足を動かす。

体感にして、数十分。

「このあたりよ。」

おそらく十六階層に繋がっているのだろう管理者用ダンジョンへの入り口を指差す。


「念の為、確認します。」

サリィちゃんが扉を開けて中の様子を伺う。

右手には背の丈以上ある大剣を握りしめて。

…いつの間に出しました?


しかし、サリィちゃん、戦える店員さんですか!

ごつい大剣とメイドさんモチーフの楚々とした制服が全く合ってないけどね!

確かに魔紋布まもんふの効果で、汚れない、破れない、匂いがつかない(しかも仄かな花の香り付き)の洗濯洗剤も真っ青な高性能な制服ですけれども!

違う意味で真っ青な私の心を知らずに、緊張をほぐそうとしたのか、オリビアさんは微笑んで言った。


「大丈夫よ。管理者である私を襲う魔物はいな…」


「来ます!数は三体。」



二人の言葉が発せられたのは同時だった。





ダンジョン入りました。

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