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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖二十六頁 城の魔法紡ぎと、臨時収入

「…どう思う?」


王の視線の先には、先ほど『双星』の二人が退出していった扉があるのみ。


「どう、とは?」


護衛の男が一瞬にして年若い、少年といっても差し支えない容姿へと変貌する。


「『魔法紡ぎの女王』。本物だと思うか?」

机上の魔紋様まもんようを掴んだ少年は表情を変えることなく言った。

「王の求める答えはここにあります。」

「本物だと、いうのか。」

「十中八九。」


少年は無意識のうちに、僅かに口元をほころばせる。

「…懐かしい感覚だな。」


王は普段見慣れない少年の表情に驚き尋ねる。

「どうした?」

夢から覚めたようにハッとした少年は、先ほどまでの無表情に戻る。

「…僅かながら私の魔紋様まもんようが共鳴しているようですね。」

王座の後ろで結界を張り続ける魔石に刻まれた魔紋様まもんようが先程からうるさく鳴く。

「アンドリーニ様、一つだけ助言を。」

少年は臣下の礼をとり発言の許しを乞う。

「…許そう。」

「ありがとうございます。」

一旦言葉を切ってから少年は再び魔紋様まもんようを見ながらいう。

「察せられている通り、この『ステータス』というものは、諸刃の剣となります。実力の数値化、までは良いのですが、スキルの項目にある魔法が我が国にとって必ず有益となるとは限りません。例えば、スキルの擬装、スキル略奪それに…。」

「隠された古代魔法(・・・・・)か。」

「それが見つかるかは運としか言いようがありませんね。ですから、早いうちにこの『ステータス』を公表してしまいましょう。それもこちらに都合のいい(・・・・・)内容で。」

不都合な内容は削除してしまいましょう。魔紋様まもんようは私の得意分野ですから。

そう言ってから少年は王の方を向き改めて礼をとる。


「全てはアンドリーニ様のお心のままに。」

「忠実なる我が魔紋様まもんようが仕上がったら報告を。」

「かしこまりました。」


アンドリーニが謁見の間から出て行ったあと、少年は再び魔紋様まもんようを眺める。

王はまだ若い。有能で度量もあり、支えてくれる数多の忠臣、そして民からの人気も高い。

ただ一方で、若さゆえに舐められないよう自分にも他人にも厳しい人。

残念ながらこの国が一枚岩ではないのは彼の厳しい態度にも原因があると、少年は考えていた。

「君ならば、王の凍った心が溶かせるのかな。」


心溶かす魔紋様まもんようが紡げるというなら。

自分の忠誠を『魔法紡ぎの女王』に捧げることもやぶさかではないけれど。


「今はまだ、君は私の駒の一つだ。」


最近は他国の情勢も気が抜けなくなってきたし。

「さっさと解析して紡ぎ直さないと。昼寝の時間がなくなる。」

彼は魔紋様まもんようの紙を掴み、謁見の間から自室へと急いだ。



ーーーーー


「ステータスオープン!」


本日はお日柄もよく。

呪いの言葉がよく響く。


「…エマちゃん最近ちょこちょこ悶えてるんやけど、どうしたんやろ?」

「…なにか悪いものでも食べたんちゃう?」


おい、双子。

可愛い顔してひどいこと言うな?!


商店『黒竜の息吹(こくりゅうのいぶき)』に住み込みで働くようになって早一ヶ月が経ちました。

いろいろな失敗しましたが、『魔法紡ぎ』として着実に訓練を重ねてきましたよ!

ではなぜ、今不審者扱いされているのか。


それはとうとう「ステータスオープン(笑)」が量産され、拡散したからですよ!


嫌なら拒否すればいいと?

もちろんしましたよ!全力で。


そしたらね、カロンさんがね「うふ、たんまりご褒美出ますぜ!それこそ食材買い放題!他国で買い物三昧!しかも他国へ行くのに必要な身分証がおまけについちゃう!あら、お・か・い・ど・く(意訳)」。

さらにオリビアさんがね「エマちゃんお仕事できるし、魔法紡ぎの秘伝あれこれ教えてあげようかしら?で・も・断るなら教えてあげない♪(超意訳)」。


…なんかよくわからないうちに、「うん」て言ってました。

ああ、NOと言える日本人になりたい。


量産されたステータス表示の魔紋様まもんようは、まず国の上流階級と軍部に渡り。 

一定の効果が確認された頃、噂を聞きつけた新しもの好きな一般階級から要望もあり。

お試しにということで、うちを始めとして魔道具を扱うお店に魔紋様まもんようが提供され、評判を呼び更に量産。

使い方や各項目の説明解説付きの書籍タイプが発売されると、他国への輸出が始まり、国内ではなんと今年のベストセラー書籍になる勢いらしい。


わかるわ、買う気持ち。

たぶん女子が喜ぶ『◯○型占い』みたいな扱いなんだろうね。


私はといえば分厚い誓約書にサインをし、権利を国に移譲すること、そして魔紋様まもんようは国にあるダンジョンから発見された書物から転載したことにするので他言しないことの二つを約束して、生活費をもう三年分上乗せして払ってもらえる事になった。

やった!臨時収入〜!

あと一年位しかこの世界にいないつもりだし、プチ贅沢は許されるよね!


ちなみに、問題の「ステータスオープン(笑)」なんだが。


「ここだけでもなんとかなりません?!」

「いいじゃないの、雰囲気あって」(オリビアさん談)


この一声でこのまま使われることが決まりました。


…お金、いただきましたから、文句は言いませんよ?

…私の、魔紋様まもんようではありませんので、気にしませんよ。


ですがふとした瞬間に、「ステータスオープン(笑)」が聞こえてくると、心と、膝下のあたりが挫けます。

その位は許して欲しい。


こうして今日も平和に一日が過ぎていくと思われた、その時。




「「え?!ディノさんとゲイルさんが地下迷宮(ダンジョン)から帰ってこない?!」」





エマ、ダンジョン、行けるかな?



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