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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖二十三頁 魔紋布の専門家と、醤油

何が起きているのかしら。

目の前のお人形さんが関西弁を話しているような気がする。


呆けた私の様子に何となく察したのだろう、今度は滑らかに通常モードの言葉が出てきた。

聞けば、この領地出身ではなく、王都を挟んで反対側にある国境の出身だとか。

その地は他国との交流も盛んで、独自の言語文化が花開いているとのこと。

なるほど、だから翻訳機能は「方言」として関西弁を採用したのか。


翻訳機能について、もっと勉強しなきゃ。


サリィちゃんとリィナちゃんは私より二個下の十五歳。

ご両親は商売をしていて、支店の一つをここに開くため、引っ越してきたとのこと。

普段はどちらか一人がこの店でお仕事をして、もう一人はお家の仕事のお手伝いをしている。

今日だけは私が来るので二人揃って顔を見に来たそうだ。


同じ年頃の女子と働けるなんて嬉しいですね!

「明日から働くんでしょう?」

「制服はどうするの?」


いいですね!制服があれば着たいかも。

サリィちゃんと、リィナちゃんの制服姿をじっくり観察する。

着ているものは黒の膝丈ワンピースに白のエプロン。

髪型は自由みたいで、二人共カラフルなリボンで髪を纏めている。


かたや私は黒髪に黒い瞳。

うーん。地味ですね〜。

まあ、お仕事中だし汚れも目立たないから、黒でもいい…


「地味ね。」

「「地味ですね。」」


オリビアさんと双子の声がシンクロして聞こえた。

ええ、ダメージ二倍です。

「なら作りましょうか。」

リィナちゃんは、ぽんと手を叩くとカウンターの抽斗から白い紙を取り出し、机の上にあった万年筆でサラサラと何か書き始めた。


「どない?」

「ええね〜!」

「あら、いいじゃないの。それならここをこうして…」

「「採用!」」


ちょ、何採用した?

見たい、参加したい、混ぜてくださいー!

「ダメよ?楽しみが減るじゃない。」

すかさずオリビアさんが設計図らしき紙を隠す。


思わず方言が飛び出した事にも気付かずに、これから超特急で布から織るそうで、キラキラした笑顔のまま紙を握りしめた双子のテンションがいつぞやのカロンさんに重なる。

こういう熱い系職人多いな〜この国。

「ああ見えて、彼女たちは魔紋様まもんようを織り込んだ"魔紋布まもんふ"の専門家なのよ。複雑な魔紋様まもんようは紡げないけど、補助魔法は一通り紡ぎながら布に織り込めるから彼女たちを指名する注文は多いわね。」

ちなみに彼女たちは服を仕立てるのも得意だそうです。

…見たい、作業の邪魔になるかな?

「見たいかもしれないけど、それはしちゃいけない約束なのよ。」

表情で察したのか、オリビアさんから注意された。

曰く、魔紋様まもんようを紡ぎながら織り込むのは集中力が勝負なんだとか。

変なところで気を抜くと、魔紋様まもんようの糸が切れる。

そうすると、布自体全部がダメになるそうだ。

だから、彼女達は私が見た作業部屋で作業が終わるまで篭もりきりになるとのこと。

ほんとに職人さんじゃないですか!


「彼女たちに聞きたい事があれば、食事には部屋を出てくるから、その時を狙うといいわよ。」

そうですよね、体力勝負ですもの、食事は大事ですよね!

はっ、そういえば、そろそろお昼です!

「あら、お昼ご飯どうしましょう?いつもは彼女たちにお願いしてるのだけど。」

困った表情のオリビアさんに提案してみる。

「簡単なものなら作れますよ?」

あんまり時間もないし、パスタにしようかな?

収納にミートソースの作りおき、残ってたと思うし。

オリビアさんに台所まで連れて行ってもらうと鍋ごとミートソースを取り出し温め、更にお店の鍋で収納にしまってあったパスタを取り出して茹でる。

茹で加減は好みだからなぁ。

サリィちゃんと、リィナちゃんの分は後で茹でよう。

「エマちゃん、お料理上手なのね〜。」

ミートソースをつまみ食いしたオリビアさんに褒められました!

ありがとうございます!褒められて伸びる子なんです!


一先ず二人分のパスタを用意してる間に、オリビアさんがお店の入り口にあった札を裏返して戻ってくる。

札の表は商い中、裏は休憩中と書いてあるそうだ。

閉店の際は明日何時から開店します、と書いた札を下げて店頭の電気を消すのだそうだ。

まだ、店頭にはでられないけど、開店準備と閉店の時間には片付けを手伝うそうなので、覚えておいてと言われた。

それから、二人でカウンター奥の作業用テーブルに並んで座りパスタを食べた。

「美味しいけど、変わった料理ね〜。」

「変わってますか?こういう料理、意外とありそうですけど。」

「この辺りではパンを主食として毎日食べるから、どうしても煮込みとか、スープとか、パンと合うよう調理した主菜が食卓へ並ぶのよ。」

パスタっていうものを見たのは久しぶり、どこで見たんだっけと考えるオリビアさん。

このパスタは市場で手に入れました。

王都で流行っているそうで仕入れたとのこと。

一目見たら食べたくなりまして、ちょっと高めでしたが大量買いしました。

「そうだ!王都にある食堂で見たんだわ!」

なんでもそのお店では変わってるけど美味しい料理を出すのだとか。

「確か店主さんがお客さんに『しょうゆ』っていう黒い色の調味料を勧めてたわね」

「醤油!」

キター!醤油!和食に一歩近づきましたよ!

なんてお店だったっけ、と考えているオリビアさんを横目に食べ終わったパスタの皿を下げて片付ける。

片付け終わったあとにお茶の準備をして戻るとオリビアさんは満足そうに微笑んだ。

「お茶の準備までありがとう。このお茶はうちの店特製なの。」

色からするとほうじ茶?

飲んでみると味は烏龍茶に近くて、ほのかに花の香りがする。

…中華料理食べたくなったかも。


「あ、思い出した!『タミヤ食堂』よ!」

タミヤ…まさか田宮だったり。

いや、タミヤさんという女性の名前から付けたかな?

とりあえず、王都に行く機会があったら行きたい場所としてチェックだな。


さて、そろそろお昼休憩を終えて、開店しようかと椅子から立ち上がった時。


突然、入り口の扉が勢いよく開く。

と、同時に作業部屋の方からもすごい勢いで飛び出して来る二つの塊。

「エマちゃん〜!来たわよ〜!もうね、あの魔紋様まもんようすごいのよ!起点の花冠から僅かに細い糸が出ててその糸が編んだ治癒の効果を起点にさらに(以下略)」

「もうね、もうね、アレ見たらエマちゃんファンが殺到ですよ!オリビアさん!すごいですやばいです私達多分天才ですもしかしたら大陸制覇いや世界(以下自主規制)」




…オリビアさん、私上手くやっていける自信が全くありません。





大変更新が遅くなりました。

熱い系職人さんかっこいいです。

思わず登場人物にそんな要素を追加しました。

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