魔法手帖二十二頁 作業部屋と開かずの扉
ディノさんとゲイルさんが、よくわからない事をうわ言のように呟きながら仲良く帰ったあと、お仕事は明日からということで、オリビアさんに部屋まで案内していただきました。
外見は変わっているけど、建物の内部はルイスさん達の家と同じような部屋のつくりで変わったところといえば所々に障子やふすまがあるくらい。
私にと用意してくれた部屋も、窓にはカーテンの代わりとして障子がはめてありました。
障子を開ければ、カラリ、という音に感じる懐かしさ。
まだこの世界に来て一週間しかたっていないというのに、元の世界にいた時が随分昔のことのように思えた。
部屋にあるクローゼットへ『収納』から出した洋服や小物を仕舞ったあと、今度は仕事場を案内してもらう。
これがすごいんです!
部屋の上方にある明かり取りから差し込む陽光を除いて、薄暗い部屋。
明り取りも閉めれば完全に真っ暗だ。
「魔紋様は光の糸を操るでしょう?だから、暗いなかで紡ぐのが細部まで見えるし、集中するからコントロールしやすいのよ。」
ただ、こういう場所は眼が疲れやすいので、一時間に一度、明かり取りから自動的に陽の光が射しこむように魔道具でコントロールしているとのこと。
陽の光が差している間は休憩時間として眼と体を休めるようにとのことでした。
おー、定時に休憩時間までいただけるとは、労働環境としては素晴らしいですね!
この作業部屋は個室になっていて、私の他にあと二人、店番兼魔法紡ぎの方がいるそうだ。
ちなみにオリビアさんは、私が仕事に慣れたら店番のローテーションに加える事を考えているとのこと。
やることいっぱいですが、頑張りますよ〜。
それから、一応知っておくように、と建物の奥の方にある応接室三つ、オリビアさんの部屋、他の魔法紡ぎの方の部屋、物置き等を見せてもらったあと、地下へ降りる階段の手前でオリビアさんは立ち止まる。
五段しかない階段の先には木製で厚みの有りそうな扉がひとつ。
扉の表面には日本でいうところの百鬼夜行のような図が描かれている。
随分昔に描かれたようで、所々絵の具が剥げ落ちて絵の詳細が見えないところもあり、それがまた、気味悪い。
「エマさん、この扉は開けてはいけませんよ。」
…オリビアさん、今さり気なくフラグを立てましたね。
でしたらイイ笑顔でお返事します。
「はい!頼まれても開けません!」
フラグなんざ、笑顔でへし折ってやります!
昔ばなし「つるの恩返し」、読んでいつも不思議に思いましたよ。
なぜ見るなというのに、障子を開ける?
そうじゃないと物語が進まないから?
でも覗かなければつるさんの恩返しで一財産築けたんですよ?
そうしたら、気候の温暖な地方に引っ越して、温泉でも美味しいものでもつるさんのために使って楽させてあげられたでしょうに。
まあ、痩せ細っていくつるさんが心配だった気持ちはわかるけども。
…と、両親に言ったら微妙な顔してましたね。
だからね、開けるなと言われれば開けませんよ!
好奇心にはフタします。
第一、私は今絶賛異世界転移中じゃないですか。
これ以上の刺激はいりません。
大人しくして速やかに元の世界に帰ります。
万が一フラグ回収しちゃって、元の世界に戻れないほうが困ります。
…と、オリビアさんに言ったら可哀想なものを見る目で見られました。
ていうかオリビアさん、「つまんない」ってなんですか?!
開けてもいいんですか?なら遠慮なく開けますよ?
「開けちゃう?やっぱり開けちゃいます?!」とかいってますけど、オリビアさん目が笑ってませんよ?
コワイわ〜。開けませんからね、絶対。
なんだか名残惜しい風情のオリビアさんを急き立てて扉の前から店頭へと向かう。
うん、あの扉には絶対近づかないようにしよう。
カウンターの辺りにまで戻ると知らない女性が二人、一人は椅子に座り、もう一人は脚立を持って反対側の手には魔道具を持ったままこちらを見ている。
私より、少しだけ年下ですかね?
お揃いの洋服を着ていて、白いエプロン、ふわふわの金髪に青い瞳。
リアルお人形さんです!
先ずはご挨拶からと思いましてカウンターに近づくと二人共素敵な笑顔を見せて。
「はじめましてサリィって言うねん。よろしくなー♪黒髪ええね〜渋くて好きやわー!」
「リィナです。よろしゅうお頼もうします。」
…まさかの関西弁でした。
関西の方、誠に申し訳ございません。
私のポンコツな翻訳機能のせいで、不愉快な関西弁の使い方をしていたらすぐさま修正します。
このタイミングでこのキャラには、どうしても関西弁が似合うんです!
まだまだ出てきますが、ご容赦ください。




