魔法手帖二十一頁 住み込みのアルバイトと、店主さん
この世界に来てから、一週間がたちました。
その間に、ディノさんとゲイルさんが来て、今月分の『国からの補助』を持ってきてくれました。
この大陸では支払いに硬貨を使用しているそうで、種類は銅貨、銀貨、金貨とあり、買い物に同行して確認した硬貨の価値は日本円に照らし合わせると、おおよそ銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円位だろうか。
金貨の上に白金貨があるそうだけど、お釣りなどの関係で使い勝手が悪く、日常生活で使用することはあまりないそうだ。
今月分ということで、金貨三枚。
私はルイスさん達の住む家に間借りしているからこの金額。
宿に住みたい人にはプラス金貨五枚が支給される。
物価についてはこのあたりの感覚から推測する感じかな。
そして、さらにお二人からお仕事のご紹介をいただきました。
ルイスさん達のお話に時々登場していた「魔法紡ぎ」のお仕事を、住み込みでしてみませんか、とのこと。
仕事先は、市場から領館へと繋がる大通りの商店街から裏道を使って奥に入った辺りに店を構まえているとか。
おう、住み込みでということはルイスさん達と離れるのか…何だか良くしてもらったのに寂しいというかなんと言うか。
とはいえ、一年後に帰るまで収入がないのは不安だ。
「まだ十七歳だというのに、しっかりしてるね〜。」
ディノさんが感心したように言ってくれるが、そんなことはないよ。
「我が家の方針です!」
何せ下に二人いるからね、大学入ったら一人暮らしの予定だったし、バイト可の高校でしたからお金を稼ぐための労働の大変さは身に沁みています。
だからお二人には、お世話になりますと住み込み先の方へ返事をお願いした。
「うーんと、やる気を出してくれてるのは非常にありがたいんだけど、もう少し背後関係を補足してもいいかな?」
おや、やっぱり何かありましたね。
「エマちゃん、顔に『やっぱりね!』て表情が出てるけど、なにか察してた?」
「ルイスさんから、不都合がない限り暮らし方に強制はしないと聞いていましたから。誰にとっての不都合かはわかりませんけど、身の危険がないのなら従いますよ。」
「…身の危険がない、の判断基準は?」
「勘です!」
即答しましたら、初めてディノさんが唖然とした表情をみせた。
更に後ろでゲイルさんが大爆笑している。
そしてルイスさんがゲイルさんの大爆笑を見て目をそらして震えている。
…なんだ、このカオス。
とりあえず気をとりなおして、ディノさんから政治的なバランスという大人の事情…もとい、説明の補足を頂きました。
それ黙っていれば良かったのでは?
「あ~。実は最初はそのつもりだったんだけど、脅迫…んっ、助言をもらってね。」
ディノさん、なんか聞こえましたけど?!
「この補足を聞いた上で住み込みの仕事を受けてくれるなら、早いうちに相手の店主に紹介する。やっぱりやめて現状維持がいいなら、このままルイス達と暮らしていても構わないよ?」
「やめませんよ〜!だから、紹介して下さい!」
だってこういう御縁は大事ですよ!
後からやっぱり仕事をしたいと言っても働き口がないことも考えられますし。
だったらせっかくのチャンス、活かした方が…ん?
「スキルの、チャンス到来…」
ま、まさかね!こういうことは良くありますし…。
たぶん。
そう、スキルといえば、生産スキル『魔法紡ぎ』ですよ。
やっぱり気になりますよね!
そもそも何が出来るスキルなのか、このスキルで新しい何を作れるだろう、とか。
ディノさん曰く、店主の方が基礎から教えて下さるそう。
コントロールも課題があるし、願ったり叶ったりです。
という訳で、本日から住み込み先にお世話になることになってます。
ディノさんとゲイルさんに連れて来て頂きました。
ルイスさんにはお世話になったお礼にたんまりご飯のストックを作ってきました。
ただ、残念というかカロンさんは私の魔紋様を握りしめて研究所に行ったきり、帰ってきませんでした…。
お手紙を頂いたのですが、なんでも「研究し甲斐のあるネタをありがとうございます(意訳)」とのことで、帰れないというか、楽しくて帰りたくないらしい。
これからお世話になるお店の近くに研究所があるので、近々遊びに来てくるそう。
ルイスさん達の家を出て、散歩しながら体感で一時間くらいあるいたところで。
住み込み先のお店に着きましたよ!
あ、今思いましたよね、ロイトであるルイスさんやゲイルさんに扉繋げて貰えばいいと。
私も一瞬そうおもったのですが、ディノさんに言われたのですよ。
「街中を見るいい機会だよ〜。」
確かに!市場より先にはあまり行かなかったからな。
散歩しながら歩くのもいいですよね!
というわけで、商店街のお店を冷やかしつつ、お店に辿り着きました。
入り口に商店黒龍の息吹と書かれた看板が掲げられていますね。
建物全体の色は墨黒。
屋根の縁には薄赤の提灯のような灯りがいくつも連なり。
六角形の建物を中心にそびえ立つ様子は、まさに龍が天に向かい吼えた様を現すかのよう。
そんなわけないと思いつつ、なんか中華風な建物だなあと思ってしまった。
明らかに異質な建物の入り口をくぐり中に入ると、左右の棚にびっしりと道具やら書籍やらが順不同、秩序なく並んでいる。
そして、入り口から入って一番奥にカウンターがあった。
一目見て、店主さんと判る女性と目があう。
スラリとした体躯に整った顔立ち、赤茶色の波打つ髪を半ばから結上げ簪で留め、服装はこれまたチャイナドレスと西洋風なドレスを足して二で割ったようなデザイン。
裾は長いが体型が判る服を着ているから妖艶な雰囲気が漂う。
建物のデザインもそうですが、店主さんの服装も中華風でした。
しかも近寄りがたいような、迫力のある美人さん。
羨ましい…。
「はじめまして。お名前はエマさん、でいいかしら?」
はー。微笑みながら首を傾げる姿はもう、拝んでしまいそうに綺麗です!
「はじめまして!エマ、と呼び捨てでお願いします。本日からお世話になります。」
よろしくお願いします、と頭を下げると店主さんは一際嬉しそうな笑顔になった。
「礼儀作法はそこそこ大丈夫そうね。私はオリビア。店の中では店主と呼んでね。」
お店の外ではお姉様と呼んでもらいたいわ、なんて言ってますけど本気ですか?!
お姉ちゃん、欲しかったんですよ!嬉しいです!
あれ、ディノさん、ゲイルさん、なんか真っ青な顔してますけど大丈夫ですか?
え、オリビアさんが猫被って?…なんですか、話しながら突然震えないで下さい?!
は?オリビアさんの背後に真っ黒いカオスが見えるって?
はいぃ?!角が?牙?そんなわけないじゃないですか!
振り向いてみたけど、オリビアさんの笑顔は普通にキラキラしてますよ?
こうして、私は素敵な店主さんのいる不思議なお店で、『魔法紡ぎ』のお仕事を始めることになりました。
遅くなりました!
なかなか筆が進まなくてすみません(泣)
次回は少しだけ早く投稿できると思います。




