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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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主としての矜持 sideオリビア

全く、ほんっと甘いのだから。


ディノルゾとゲイルを見てひっそりとため息をつく。

能力的にはずば抜けて高い二人は女子供が絡むとどうも矛先が鈍る傾向がある。

まあ、それが致命的なミスに繋がるような愚か者ではないから、仕方なしとはいえフォローはするが。

彼らが"双星"として活動する際、情報物質両面でサポートするのが彼女達"添え星"の役目。

彼女の他にあと二人いるが、彼女が最も二人と長いつきあいである。

初代女王によって選ばれた裏の紋章である"双星"の由来は王家の紋章の一部である月、その月を支える天馬をこの大陸まで導く道標となったのが天空の星々であるという古い伝承による。

その"双星"を名として与えるほど、王家と組織の関係は深い。


かく言う私も王家の人間である。

しかも直系の。


先代の王家の子供の人数は然程多くはない。

それでも、巷では男子が二人、女子が一人いると言われている(・・・・・・)

現在の王はその男子のうち一人だ。

私は兄姉達の一番末に生まれた。

王家に生まれたものは秘密裏に検査され、適性が高い者はその時点でいなかったもの(・・・・・・)とされる。

私はその適性がずば抜けて高かったため、生まれてすぐに王籍から抜かれた。

一応、性別だけなら姉のスペアとなれるため、王族としての教育は施されるが歴代その経験が生かされたものはいないと聞く。

代わりに、私はゲルターの組織の人間に預けられ、彼らから庶民としての生活の手段と、組織の仕事について教えを受けた。


はっきり言おう。

彼らは私が『自分が王族に連なる人間だということを知らない』と思っている。

ディノルゾとゲイルに至っては知らされてすらいないだろう。

彼らの仕事とは全く関わりのないところにある過去と経歴だから。

それに、組織の上層部についても国より知らされていないことがある。

それは私が組織の仕事とは関わりのない仕事先で与えられた主に付き従うという名目のもと、堂々と王族としての教育の機会を与えられていたこと。

何故こんなに回りくどいことをするのか。

私がいるこの店は、一つの特殊な場所に繋がっている。



地下迷宮『初代女王の大書庫』。


時は国の創始まで遡る。

初代女王はその有り余る才覚であっという間にこの国を安定させると、経済の発展と国の財政の削減にも務めた。

その一方で、神と人との距離がまだ近い時代でもあり、国をより良く治めた対価として創造神を始め、数多の神々より女王は貴重な書籍を与えられたという。

そして、当人も頂いた書籍を参考に更に技術改革を進め、製紙及び製本の技術を確立させ活字文化と共に発展・文化を輸出するにまで至った。

これにより、更に資金を得た女王は他国から優れた書籍を多数輸入し、王城から少し離れた敷地に書庫を建設、ここを『女王の大書庫』として学識賢者に開放した。


ところが。

女王の遺言により、死後も着実に書籍を増やした大書庫だが、ある時建物の立つ地盤に緩みが見つかった。

女王の魔法技術により、書籍には盗難防止のため、強力な魔紋様まもんようが刻印されていたため、全く建物の外へ持ち出す事が出来なかったという。

そして、恐れていた地盤沈下が起こる。

建物を押しつぶし、貴重な書籍を巻き込みながら崩れていく地盤。

貴重な書籍が失われたと嘆き悲しむ人々の前で。


巨大な穴の底に魔素の吹き溜まりが姿を現した。

底に見える魔素の吹き溜まりは数多の書籍を吸い込み、代わりに吐き出したのは異形の魔物達であったという。

終わりの見えない吹き溜まりは、何を思ったのかやがて書庫そのものを穴の内部に再構築。

三日三晩が過ぎて出来上がったのは、世にも珍しい書籍を魔物が護る書庫型の地下迷宮だった。

それだけなら、学識賢者の更なる嘆き悲しみを生んだだけで皆も危険を冒してまで、書籍を回収しないだろう。


だが、ここで予想外の出来事が起きた。



大書庫には『錬金術』の書籍が何冊も収蔵されていたという。

意思を持った書籍(かれら)は無から金銀や宝石を生み出し、貴重な剣や鎧を吐き出す。

あっという間に『冒険者』と名乗る秩序も礼儀も知らぬ荒くれ者が群がった。

そこで、地下迷宮内で魔物や冒険者を管理する者が求められた。

かつて初代女王は大書庫の書籍を管理する者を指名し、亡くなったという。

それは、『自分の血を濃く継ぐ者』。

すでに長い時を経て、数多の国の血が混ざり、王家も女王の血脈を繋げていくのは難しいかと思われていたのに、大書庫が地下迷宮となって以来どんな力が働いているのか、必ず王家に一人血を濃く継ぐ者が産まれるようになっていた。

彼らになら魔物は心を許し、従い、協力して許可無く立ち入る冒険者達を追い払う。

だがそれは、まるで王家の者には呪いのように映ったのだろう。

子が一人しか産まれぬ場合を除いて、産まれて直ぐに魔法具を用いて血の濃さを測り、

血を濃く継ぐ者は庶民に落とし死んだ事(いないもの)としたという。

例えば私のように(オリビア)というしるしだけを残して。


そう、私こそ、今代の『大書庫の管理者』。

不思議な事に、私にだけは書庫の魔物たちも牙を向かない。

それどころか、じゃれて甘えてきたり、数多の魔物が跪き貢物を捧げられたこともある。


大書庫は今や三十階層のダンジョンに姿を変えたが、私には大切な魔物(りょうみん)のいる国と同じ。


守らなくてはならないものの一つ。


さて、新たに産まれた『魔法紡ぎの女王』よ。

貴女がどこの国の誰でも私は一向に構わない。


貴女が無知で愚かな敵となるなら完膚なきまでに叩き潰そう。

聡明で敬愛を捧げるに足る味方となるなら、私からの変わらぬ忠誠を。




それが私の主としての矜持。




異形の魔物のイメージは付喪神とか百鬼夜行的な感じの海外版を脳内変換してみてください(汗)。

オリビアのイメージはエリザベス一世。敵には容赦なく、味方にはデロデロに甘い人だったんじゃないかなと勝手に思ってます。

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