魔法手帖百五十一頁 扉の魔法と"祝福"、猟師と二冊の覚書、矛盾に満ちた世界へ
遅くなりました、すみません。
よろしくお願いします。
「扉の魔法?」
音もなく突然開いた扉。
そして別の場所の景色を、いとも簡単に映し出す。
鼻をつく、すえたような匂い。
顔の端を何かの飛沫が掠めた。
赤い雫の正体は血。
開かれた扉の先は、血の飛び交う激しい戦闘の真っ只中だったようだ。
目の前に立つ、魔物とも人とも似つかない生き物と視線が合う。
私を認識すると血に濡れた口を一際大きく開き、威嚇するように吠えた。
驚きのあまり悲鳴を飲み込む。
やがてわずかに間をおいて、その首が刎ね飛ばされた。
崩れ逝く者の先にいたのは、ルイスさん。
彼の赤く血に染まった髪の隙間から視線が合う。
その目が驚きで見開かれた。
「エマ、どうしてここに?」
声もなく、その場で座り込んだ私の前で開かれた扉に気がついたようだ。
彼の視線が私の首元で鈍く光を放つ魔石に釘付けになる。
「俺としたことが、それを忘れていたよ。」
血に塗れたまま、ため息をつき、彼は苦笑いを浮かべた。
それは普段の彼が見せる表情とは違う気がして。
あまりにも脆く儚く消えてしまいそうで。
目が離せない。
二人、無言で見つめ合う。
その視線を外したのはルイスさんの方からだった。
彼の視線は先ほどとは別の方角を睨む。
「ごめんね、少し待っていて?片付けたら直ぐに家へ戻るから。」
彼は仲間と思われる人々と魔物が入り乱れる場を見据える。
頷くことも忘れて、無言のままに私は彼の後ろ姿を見つめていた。
やがて私の視線を拒絶するかのように派手な音を立てて。
扉が閉まった。
ーーーーーー
数分後、もしくは数十分後か。
扉は再び開かれる。
「いらっしゃい、エマ。」
笑みを浮かべたルイスさんが家の入り口に立っていた。
少し痩せたのかな?
柔らかい表情の奥に、今までにない陰が見えた。
彼は水を浴び、着替えたのだろう。
髪は湿り気を帯びたままで、身体にも、服にも血の痕跡は見当たらない。
かすかに感じる血の匂いだけが扉越しに見た景色の残渣。
「今日来るとは思わなくて、ごめんね。」
「いえ、事前に連絡しなかった私が悪いのです。すみません、ご迷惑をお掛けしてしまって。」
「とにかく入って?お茶を入れるから。」
食堂に通され、彼が台所に立つ。
ポットにお湯を満たしている彼の背中へと声を掛ける。
「すぐに帰るからお茶はいりません。それよりも、一つ聞いてもいいですか?」
「ん、なに?」
その声が、わずかながら緊張をはらんでいる事に気が付いたのは偶然ではないだろう。
無意識のうちに、どれだけ彼の声を聞き、姿を追ってきたことか。
こんな状況になって今更気付かされるされるなんて思いもしなかった。
「怪我はありませんか?」
「…うん、大丈夫だよ。」
「吐き気や、呪詛を受けたりはしていません?」
「大丈夫だよ、エマ。ありがとう、心配してくれて。」
振り向かない彼と背中越しの会話。
なんでだろう、こんなにも胸が痛いのは。
「…そうですか、なら良かったです。では、もう帰りますね。」
そこで初めて彼が振り向く。
「あれ、何か俺に用事があったのではないの?」
「顔を見に寄っただけですから。お仕事中断させてすみませんでした。」
そう言ってから頭を下げる。
ルイスさんがあんなふうに血塗れになるほど激しく戦う姿を見たのは初めてだ。
必死に何かを守ろうとする、そんな背中を見せたのも初めて。
「ちなみに私に何か手伝えることはあります?」
「いや、手伝いはいらない。」
視線を逸し、素っ気ない態度で断られた。
教えるつもりもない、と。
「私は関わらない方がいい、そういうことですね。」
うまく笑えているだろうか。
そんな姿を見せたのに何も言わないのは私に関わって欲しくないから。
それは彼なりの配慮なのかも知れない。
もしくは私が知らない方が都合のよい何かを守っているのか。
どちらにしろ、私の知らないところで守るべきものを選んだ彼を、これ以上煩わせるなんてできない。
ロイトの仕事は異世界から呼ばれた人がこの世界で暮らしていけるようにサポートすること。
その仕事の中で、ルイスさんは私をたくさん助けてくれた。
『もっと頼っていいんだよ、エマ。ワガママなんて思わないから。』
彼は私にとって、この世界の善意を寄せ集めたような存在だった。
あの無条件に与えられた優しさにどれだけ救われたことか。
「ルイスさん、手を出してください。」
「ん、なに?」
「元気がでる"おまじない"ですよ。」
私はにこりと笑った。
手伝いはいらなくても、お礼ならいいよね。
両手を握り、即席で魔紋様を紡ぐ。
「"祝福"、対象者"ルイス"。」
ルイスさんを守ってくれるように、願いを込めて。
ごっそりと魔力が抜けた感覚がした後に、金色の花が咲き辺りを照らす。
やがて花弁を散らすようにして粒子が弾けた。
「これは?」
「対象はルイスさんの攻撃、防御、魔法攻撃、魔法防御のそれぞれの経験値。難易度や戦闘行為の回数にもよりますが、倍以上の幅で数値が上がります。…ついでにスキルのレベルも上がりやすくなるかもしれませんね。ただし効果があるのは今から一ヶ月間だけですよ。」
「そんな事が…?」
「信じるのも信じないのも、ルイスさん次第です。」
言葉にすると怪しいが効果は折り紙つきだ。
ゲームにも経験値が上がりやすくなるアイテムがある。
あれを魔紋様に置き換えたらこうなるといえばいいだろうか。
永続的な効果でないのは、紡ぐために膨大な魔力を必要とするからだけでなく、場合によってはルイスさんが想定外の強さを得てしまう可能性があるから。
本人が望まぬままに与えられた強大な力は、祝福などではなく、ただの呪いだ。
そんな破滅的な力は優しいルイスさんにふさわしくない。
光の残渣を纏い困惑した表情を浮かべたルイスさんが問う。
「えっと、エマ?どうして?」
「理由はわかりませんけど戦う事を選んだんですよね、ルイスさんも。ならばそんなルイスさんに相応しいものを贈りたいと思いまして。」
私は再び笑みを浮かべた。
彼は複雑な表情を浮かべ視線を逸らす。
選んだ事を、否定しないんだね。
経験値の向上は全体的な戦闘能力を底上げする。
戦うなら自身を堅く守るだけでは足りない。
攻撃力こそが彼にとっては最大の防御となる。
「私、巷では次代の魔法紡ぎの女王なんて言われているみたいなんですよ。そして"アリアの花冠"は、とても器用なんです。だから期待の新人として、ルイスさんの新たな門出に祝福を。」
冗談も交えつつ、そっと繋いだ手を離す。
ここまで成長できたのはルイスさんが支えてくれたからでもある。
感謝の気持ちと、ちょっとしたお祝いにこれを受けてもらおう。
まあ押し付けた感はあるが今更だ。
「だけど無理しないでくださいね、ルイスさん。」
傷付いた彼の姿は見たくない。
本当はもっと手助けしたいけれど、彼が拒む以上それはできないから。
それに私にはこれからやらなくてはならない事がある。
そういえば、ここに来た用事を果たすことはできなかった。
でもよく考えてみればディノさん達にはオリビアさん経由で伝えてもらえばいい。
なんでルイスさんのことしか頭に浮かばなかったのかな。
「ありがとう、エマ。」
彼は壁に寄りかかったまま、口元に小さく笑みを浮かべる。
視線を合わせないのは気分を害したからかな。
こんなつもりじゃなかったのに。
「邪魔してごめんなさい、ルイスさん。」
知ってしまった痛みが何なのかわからないままに、そっと扉を閉めた。
ーーーーーーー
エマの気配が完全に消えた後、ルイスは壁を拳で叩く。
壁には滲んだ血の跡が付いた。
「彼女には言わないと、決めただろう。」
怒りの向かう先は、自分の不甲斐なさ。
エマの首に下がる石に付与した効果は"自分へ繋がる扉を開く"。
万が一のとき、彼女が自分の元へ逃げて来られるようにと願ったから。
だが、今までその石の存在を忘れていたなんて。
『邪魔してごめんなさい。』
こんな台詞を言わせるために、エマを突き放したわけじゃない。
思わず彼女に全てを打ち明けてしまいそうになった。
任務のことだけでなく、自分の思いも含め全てを。
「違うんだ、君を傷つけたかったわけじゃない。」
誰もいない部屋に、自分の声だけが虚しく響く。
エマは微笑みながらも目元だけは泣きそうな複雑な表情を浮かべていた。
彼女は傷ついている。
その表情の意味は近くで彼女を見てきた俺だけが知っていること。
それでも突き放したのは、彼女をこれ以上王国の都合に巻き込むのが嫌だったから。
自分がヨドルの森の一件で奔走している間に彼女は聖国へと連れて行かれてしまった。
聖国で、彼女は罪人のように扱われたと聞く。
自分自身の潔白を証明するために自分を害する者たちの最前線へと送られた彼女。
ロイトとして彼女を守るべき立場であるにも関わらず、自分の力不足故に彼女を守れなかった。
帝国の一件で彼女が連れ去られた時も、力不足を嘆いたくせに学ばなかった俺の咎だ。
だから"猟師"という立場と付随する力を手に入れた。
それは彼女が、彼女のような立場の人間が晒される危機を、できる限り防ぐため。
先代の猟師は愚かだった。
自分以外の者を言葉ひとつで動かせる立場に酔い、自分が踊らされている事に気が付かないなんて。
王国の裏側で暗躍するのは、建国によりもたらされた聖国の闇。
それはどうやら歴史の裏に残る、初代女王により追い払われた者達の野望が関係しているらしい。
そして彼らと統一正国教団の繋がり。
過去、歴代の猟師達が綴った記録から推察するとそうなる。
現在ルイスの手元には二冊の記録簿がある。
一冊は先代の猟師が記載しルイスへと継承された覚書。
そしてもう一冊は…先々代の猟師が隠したと思われる覚書の原本だ。
これは王家の者と、許可を得た人物だけが閲覧できるという図書室に仕舞われていたらしい。
照らし合わせてみると、比較的新しい装丁である覚書の方の記録が簡略化されていた。
しかも聖国だけではない、多岐にわたる各国の大事な情報が違和感のないよう細工されて抜け落ちていた。
渡された覚書を改ざんし、伝わる情報を制限したのか。
それとも一代前の猟師が簡易にした覚書を彼に渡したか。
ルイスは前者だと思っている。
原本がある以上、後者はそれをする意味がない。
この隠された覚書を見つけたのは王の盾。
試しを経て猟師の任を受ける際、直接彼から渡された。
彼は女王を守るための魔紋様を神から授けられた者。
にも関わらず、中途半端にしか彼女を守ろうとしない彼の存在が腹立たしいのは、俺が未熟だからだろうか。
王の盾…リアン=フォーサイス様は、双星の二人に代わり身分証明書を授けに来たという。
これがあれば王国内のほとんどの場所に出入りすることが可能だ。
彼は水の精霊のような冷たい色合いの容姿に似合いの冷めた口調でルイスに見つけた時の状況を語る。
「訳あって失った貴族名鑑の代わりを探していて、偶然、見つけた。」
「これは…紙の綴?覚書のようにも見えますが…猟師のものであれば私もこのように引き継がれております。」
偶然、という言葉が気に掛かるも、彼が手元に握るものへと視線を向ける。
紙を重ね紐で綴じた"綴"だ。
独特の匂いと深みを帯びた色合いは年代を感じさせる。
比べて自身の引き継いだ覚書へと視線を落とす。
同じような綴だが、装丁からしてこちらの方が新しい。
数十年使い続けたというそれは紙の色も変わり装丁の一部が剥げてはいるが、図書室に置かれていたものと比べると明らかにこちらの方が綺麗だ。
「何かの参考になるかと目を通したのだが、こちらにはずいぶん面白いのことが書かれているね。」
ルイスは彼の手によって軽く掲げられた紙の綴を受け取り、文面に視線を走らせる。
そして一瞬にして血の気が引いた。
理は古より始まり、やがて古へ帰る。
最初の一文が自分の持つ覚書と同じだ。
次の記述も、同じ。
つまりどちらかが原本、もう一つは模写もしくは複製した偽物。
「これが図書室へ置かれた理由はわからない。だが古い記録には王の許可を得た先々代の猟師が図書室へ出入りした記述が残されている。いつ、というのはその機会しかないだろうな。」
「ということは、これは…。」
「先々代まで使用された"覚書"の原本だろう。」
「ならばこちらの覚書は後から作られたものだと。」
「恐らく。」
見比べてみると図書室に置かれていた方は朽ちかけたものを写し変えた新しい紙に差し替えたり、消えかけた文字を上書きした跡が散見される。
これは引き継がれてきたという痕跡ではないのか?
ルイスは先代の猟師から、この覚書を渡された時の彼の言葉を思い浮かべる。
『引き継がれてきた覚書に当代の出来事を書き足したものだ』と確かに言っていた。
彼が辞めさせられた状況が状況だけに、これを保管していただけマシだと思っていたが、先々代が残した原本と内容を比較とすれば中身の違いは一目瞭然。
そう考えると別の側面も見えてくる。
ここに記されたことは本当に真実なのだろうか。
「貴方の初仕事は覚書の内容の照らし合わせだ。先々代までの内容に"付け加えられた事"と"削除された事"を抽出して欲しい。それが新たな情報となるだろう。」
「かしこまりました。それにしても…なんと愚かな真似を。」
「単なる欲に駆られたという理由だけではないかもしれない。」
「それはなぜでしょう?」
「いくら昔の事とはいえ、書庫には他の記録も残っている。調べれば整合性の取れない内容が見つかる可能性があった。問われて誤りとして訂正したとしても、いくつも見つかれば覚書そのものの信憑性に関わる。そのことを不審に思われたら更に厳しく調べられる事など明白。」
「それすら判断できない程に追い詰められていたのでしょうか?」
「もしくはそうしなければならないと、思い込まされていたかだな。」
情報として与えられたのは、以前エマが話していたという"さぽーときゃら"と呼ばれる存在のこと。
重要なのは、その人物の指示のとおりに演じれば目的を達成できると、そう信じさせることなのだという。
ルイスも実際に経験し感じたのだが、猟師は厳しい選択を迫られることも多い。
だから迷うときに助言を求める相手というものを欲してしまう、その気持ちは理解ができた。
そして助言による成功体験が続けば、相手の言葉の裏を疑わなくなるだろう。
例えそれが後に自分を追い詰めることになろうとも、今までの実績があれば布石のひとつなのかも知れないと、そう都合よく思ってしまうかもしれない。
「今はまだ確証がないから可能性のひとつに過ぎないが。」
「ですが本当にそんなことが可能なのでしょうか。」
相手が若い者ならともかく、人生経験の豊富な大人の思考を操るなど口で言うほど容易ではない。
「五年前の一件において、私は優秀で分別もあるはずの人物が、まるで"誰かの望むような性格を演じている"姿を目の当たりにしている。そして、"そうあることが普通"であるかのような彼らの振る舞いに、周りの人間は困惑しながらも、相手は自身より身分も高く、しかも成人しているのだからと様子を見た結果、問題が大きくなるまで問い質せなかったことも知っている。」
その理由は最低限の義務や責任を果たしていたから。
日常生活において支障のない程度の違和感であれば忠告以上の何ができるだろうか。
やがてその違和感も積み重なれば、周囲もそんなものと受け止め、受け入れてしまう。
そして義務や責任を放棄し、周囲がおかしいと気づいた時には大きな問題へと発展した後であった、と。
猟師の件は確かに彼の商人に対する敵愾心が招いたもの。
だが猟師になる前の彼は、自身に厳しく有能な人物でもあった。
そうでなければ猟師という難しい立場に選ばれるわけはない。
だとすれば彼を愚かにした何者かの存在があったのではないか。
五年前の一件と同じように。
「今はまだ憶測。覚書の照らし合わせと共に、彼の側に誰がいたのか、それも調べてもらいたい。」
覚書には日付や出来事の顛末に添えて情報をもたらした個人名や団体の名称も登場する。
当然先代の猟師の近くにある人物の情報や記述も添えられていた。
確証を得るためにも、そこから新たな情報を導き出せと言うことか。
「今回の件、その発想に至った理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
それにしてもその発想が唐突である感は否めない。
俺の問いに、一瞬逡巡したのち、リアン様は再び口を開く。
「聖国で、エマが領館の地下牢に囚われていた女性から聞き出した事に関係がある。その囚われていた女性というのは…五年前に王国を混乱に陥れた、例の彼女だった。」
ルイスは目を見張る。
エマの異世界生活に影を落とす、そんな存在との邂逅。
五年前の少女については、ミノリという名前と容姿が美しかったという評判しか知らない。
同じ異世界から呼ばれた少女であるエマに彼女は何を話したのか?
「彼女は…ミノリは魔紋様の効果で魔物に無理矢理変化させられていた。その彼女を私が結界に封じ込めた後、エマと話がしたいと彼女から申し出があった。その申し出をエマは承諾し、会話の中で彼女から情報を引き出そうと試みた。」
その会話の内容を聞いていたのだという。
フォーサイス様曰く、彼の紡いだ結界は彼の支配下にあるのと同じ。
意識すれば小さな声であろうとも拾える。
「エマは問うた。この世界は"乙女ゲームの世界"なのかと。ミノリは"らいばる"には情報を与えないのが定石と、はぐらかし答えなかった。」
らいばるとは、競い合う相手のこと。
まるで先代の猟師と商人の間にあっただろうやり取りの縮図のようだ、とルイスは思った。
そしてエマはミノリと調子を合わせるように、こう話を繋いだという。
『それは…サポートキャラの人達も尽くす甲斐があったでしょうね。』
『あの二人?どうだか。肝心な時に役に立たない男なんていらないわ。』
あの、二人。
つまりミノリが"さぽーときゃら"と呼ぶ存在は二人いたのだと。
彼女が思わず口にした事が事実と仮定するなら、その存在は二人の男。
そして。
「異世界から呼ばれた人にとって最も身近な二人組の存在がいただろう。」
「ロイトとゲルターですね。」
「ミノリを保護していた二人はどうした?」
「ゲルターの者についてはわかりませんが…ロイトは他国の支部へと追放された後、任務中の事故で命を落としたと聞いて…。」
その瞬間、思わず口元を手で覆う。
ちょっと待て。
誰から聞いた、その事を。
「先代の猟師から聞いた情報じゃないか?」
頭の中を読んだようなフォーサイス様の台詞。
闇の深さにルイスは愕然とした。
「そうだとすれば、すでにその情報からして怪しいと。」
「生存している事も視野に入れるべきだろうな。それからもうひとつ聞いておきたい。」
フォーサイス様は青にも銀にも見える不思議な色合いの瞳を真っ直ぐに向けた。
嫌な、予感がする。
「その二人は、どんな顔をしていた?」
「顔ですか、それは…」
思わず、呆然とした。
なんでだ?
仲間の顔が思い出せない。
そして今更気がついた。
彼らの顔を、初めから知らなかったような気がする。
表情の動きひとつ思い出せないのは、そういうことではないだろうか。
「ようこそ、残された者だけが知る矛盾に満ちた世界へ。」
フォーサイス様は唇を歪めると、自嘲するような笑みを浮かべた。




