魔法手帖百四十九頁
たいっへん、投稿が遅くなりましたっ!!
申し訳ございません!!
「本当に、面白い人だね、君は。」
シロは笑みを浮かべた。
「やっぱり怒ってる?」
「いきなり何をとびっくりしたけどね。結局我のために考えてくれたことでしょう?」
首に掛かる指先は離れ、そのまま魔道具を摘む。
しげしげと眺めた後、魔力を注ぎ器を満たすと魔法を発動した。
日陰をぼんやりと照らす、小さな、まあるい灯り。
シロは少しずつサイズを変え徐々に大きさを調整していく。
店の上空全体をぼんやりと照らすサイズまで拡大させたところで、魔道具に供給する魔力を切った。
「うん、今の影響範囲までが最大だね。これ以上の範囲は自分の器を使うしかない。」
「そんなことわかるの?」
「なんだかこう、上手く踏み込めないような感じ?違和感を感じるというか、うっかり自分の器から魔法を発動しそうになるね。」
「なんか想像していた影響範囲よりは小さかったかも。役に立ちそう?」
「そんながっかりした表情をしないでよ、エマ。助かるよ、これがあれば狭い範囲で浄化できる。」
影響範囲がわかるなら、それにあった使い方をすればいい。
そう言ってシロは笑った。
「我は内包する魔力量が多いから、野生の魔物などは我の力が強いことが自ずとわかる。それは精霊達も同様。だから下手な手出しはされないのだよ、元からね。そんな我が魔道具を使って攻撃をしてくるとは思わないだろうし、しかも自分だけを狙うような精密魔法が使えるなんて思いもしないだろうな。ああ、楽しみだな〜、規模の小さい魔法を使えないとされる我がそれを使えると仲間達が知ったら…。うふふ、ホント楽しみだね、エマ。」
うふふ。
ふふふふ。
…しまった、別の扉開いちゃったかも。
「落ち着こうね、シロ。実際にどれだけ使えるか未知数だし、狩りに行ったときにでも使ってみよう。」
「うん、そうだね。その時はついてく。」
黒い笑いを引っ込めて、シロは魔道具を置くと元の犬型に戻る。
そういえば犬型が標準なんだっけ。
どうやって装着させようかな。
「…オリビアさん、使い古しのハンカチとか、余った端切れ持ってます?」
「ん〜、あるけど?」
「それ貰ってもいいですか?」
「いいわよ。どんなものが入り用なの?」
「そこそこに大きさがあって四角い形が理想なのですが。」
「なら魔紋布の端切れがあるわよ。この中から好きなの選んで使っていいわ。」
綺麗なグラデーションを描くように色を分けて箱に納められた布の切れ端が窓から差し出される。
おお、これなんかかわいい。
「シロ、赤似合いそうだよね〜。毛の色が白いからなんでも合うけど華やかな色もいいかも。」
「そお?赤ならこの色がいいな。エマとお揃いみたいだし。」
「ホントだ。だけどちょっと地味かな。中間をとってこの色でどう?」
「うん、派手な柄が入ってるの好きだな。これがいい!!…で、何作るの?」
「作るというか、包むだね。」
そう言って赤地に紫や黄色、紺色などで複雑なチェックの柄を描く布を選んだ。
残った布はお礼と共にオリビアさんへ返す。
それに魔道具を包むと反対側の端同士を結び、それを背負わせるようにシロの首に巻いて、さらに首の前で端同士を結び合わせた。
小さな風呂敷に軽い荷物を入れて首に巻く、そんな状態を思い浮かべていただきたい。
背負った風呂敷の中身は魔道具だが、それを小銭と買いたい物リストに置き換えると。
子犬による初めてのお使い(異世界仕様)。
ちょっと困惑気味な表情を浮かべるところが、またキュートです。
しかも毛並みは真っ白フワモコ、ほんのりタレ目。
完璧な仕上がりだ、死角はあるまい。
ついでにふんわりとした毛並みを堪能する。
「エ、エマ?力一杯ぎうっとされてちょっと苦しい。」
「…あと少し、あと少しだけ待って。」
今私は全力でフワモコを撫で、且つその素晴らしさを絶賛しているのです。
シロは諦めたのか暫くの間は大人しく抱っこされ、しかもなでさせてくれた。
ありがとうございます、シロ様。
私とっても幸せです。
「ねえ、エマ。この装備かわいい?」
「超絶かわいいです!!嫌でなければ是非このままで!!」
「お風呂の時は外すよ?」
「もちろん。一応、魔道具は防水仕様にはしてもらったけど身体洗うときはお湯使うからね。」
湯気はやはりだめだろうと思うのよ。
それから将来的にはシロが自分で装着し、外せるような仕掛けをつけてもらわないと。
さすがに犬の手で風呂敷は外せませんからね。
「それじゃ、火の始末もしたし、仕事に戻ろうか。」
オリビアさんに声を掛け、シロを抱っこして再び作業部屋へと戻る。
作業部屋へと至る廊下は木製だ。
燻したような独特の黒い色合いが風合いを醸し出していた。
この廊下を白い毛玉が赤い風呂敷を背負って飼い主(私)に駆け寄る姿を想像する。
この子は精霊界が私に遣わした天使だな、うん。
「えま、くるし…。」
「ごめんなさい、愛らしい姿を妄想してたら力加減を誤った。」
「ねえ、エマ。」
「うん?なあに?」
「エル・カダルシアの魔法手帖を自分の物にはしないの?」
「…まだ、少し迷ってるの。どうするのが最善か判断がつかなくて。」
シルヴィ様の魔法手帖は収納に仕舞われて未開封の印がついたままだ。
なにが起こるのか。
そして私になにが起きてしまうのか。
それが未知数なだけに、未だ手に入れることができないでいた。
「皆はどうか知らないけど、我は魔法手帖を手に入れても入れなくてもいいと思ってる。」
「そうなの?」
「うん。アレがなくてもエマはエマだから。それでも我が教えたのはエマが望んだからだよ。」
それは、聖国に向かう前のお話。
二十七階層の主さんが眠ったままであることからシロに調べてくれるようにお願いした時の事だ。
「主が眠ったままであるという、その原因になりそうな魔法や現象、魔紋様の効果、もしくは似たような過去の事件がないか調べて、っていうやつ。その結果、過去に似たような症例があった。眠った状態で発見され、意識を取り戻しても人形のように意思はないという症状が共通している。」
そして…同時に治療方法が確立されていない事もわかった。
主の権限で主様が確認してみたそうなのだが蔵書には記されていなかったそうだ。
そして女王陛下の書架もシロとグレースで探してみたけれど参考となりそうな書籍はなかったという。
「二十七階層の主が『知っている』という可能性もある。だけどそれは闇のの権限で書籍の内容を確認してみた結果、書かれてはいなかったみたいだね。」
シロ経由で主様にこっそりと内容を確認してもらったのだが書かれてはいないらしい。
現状、二十七階層の主さんは眠ったままだ。
そして目覚めないのではないかと懸念された棟梁は、目覚めはしたけれど意思を持たない人形のような状態だという。
城に留まる棟梁が未だ治らないということは、過去だけでなく、現在に至るまで王国には治療法ない、もしくは王国には伝わっていないという事だ。
他国については、ロイトやゲルター経由で治療法がないか確認を進めているらしい。
そして、もし他国でも答えが見つからないということであれば探す先はひとつしかなかった。
『未来の道すじのどこかでならば治療法が確立されているのではないか。』
それが調査の結果を基にしてシロが出した結論だった。
「他国にはあって王国に伝わらないという可能性はあるけどね、国が中心となって探しても見当たらないというのなら、治療法が確立されていない可能性のほうが高いからね。」
「そして未来を調べることのできる手段を私は持っている。」
「そう、それが初代女王の残した、エル・カダルシアの魔法手帖だ。」
収納にあるシルヴィ様の魔法手帖が一気に重さを増した気がした。
収納したら物の重さなんて感じないはずなのにな。
魂を救うために、私の命を掛けるかもしれない。
その事が私の踏み出す一歩を躊躇わせる。
「君が迷う気持ちはわかるよ。だからどんな選択をしても我は君を責めたりしない。」
シロはそう言ってから私の顎の辺りをぺろりと舐めると目を閉じた。
そしてそのまま幸せそうに眠りの世界へと旅立つ。
作業部屋に入るとシロを入り口の脇に寝かせ、魔法手帖の背表紙を開いた。
ーーー
エマ / Age17
HP:16561/18035
MP : 142372/164448
攻撃:26(+)
防御:36(+)
魔法攻撃:225(+)
魔法防御:249(+)
〈戦闘スキル〉
神聖魔法:Lv.5 / 火魔法:Lv.3 / 風魔法:Lv.3 / 水魔法:Lv.3
/ 土魔法:Lv.3 / 闇魔法:Lv.3
〈生活・生産スキル〉
魔法紡ぎ:Lv.MAX / 料理:Lv.4 / 掃除:Lv.4 / 鑑定:Lv.2 /
〈固有スキル〉
完全防御 / 空間魔法(収納)/ 全言語翻訳・全言語通話(全解放)
/ 全能力向上:Lv.4 / チャンス到来:Lv.3 / 魔法手帖:Lv.4 / 女王の魔眼 /
〈契約精霊〉
精霊(光属性): グレーステレジア・ロザリンド・ウィンザ・オーロスティファール
大精霊(光属性): シロ(一部解放)
〈ギフト〉
魔法手帖(未開封) / 精霊の加護(水)/ 精霊の加護(土)/ 精霊の加護(木)/ 精霊の加護(風)/
ーーー
何か新しいものがついていた、しかも複数。
精霊の加護、ってなんだろう。
加護っていうことはお守りみたいなものかな?
大精霊様達の顔が浮かぶ。
ちらりとシロの顔を伺うと、口からちょっとだけヨダレを垂らしながら深い眠りについていた。
シロには聞かない方がいいのかな。
気配に敏い彼が何も言わないから害のないものなんだろうけど。
…もしくは気づいていない可能性もあるから、今度こっそり主様にでも聞いてみよう。
そう納得してから横に表示された魔法手帖(未開封)の文字をなぞる。
たぶん、ここに答えがあるのだろうな。
過去から未来へと繋がるサルト=バルトニア王国の道すじには、この魔法手帖が存在する。
この魔法手帖に干渉することは、王国の未来に干渉するのと同じこと。
それは私の望むことではないのだけど。
ただ間違いなく私には武器となる。
手立てが増えるということは、それだけ生き残る確立が上がるから。
そう思い、ひっそりとため息をついた。
「おっかしーな〜。望んだのはのんびりと過ごす異世界生活だったのだけど。」
「ん?何か言った?」
「あ、ごめん。なんでもないよ。」
繋がった縁が、与えられた加護が。
私の手を握って離さない。
いつの間にか、私の守りたいものになっていた。
私の守りたいものを共に守ろうとする人達。
「…まずは仕事だな。」
少しでも沢山の魔紋様を紡いでおかないと。
どのくらい不在にするのか想像もつかないから。
ーーーーー
「おつかれさま、エマさん。これで今回の大口の納品分は全部終わったわね。」
「はい!あとこれは明日の分です。」
ギリギリ間に合ってよかった。
少しずつだけど、集中力を保てる時間がながくなってきていた。
やはり練習って大事ですね。
「あらっ?ちょっとやる気出し過ぎじゃないの?体調は大丈夫?」
「体調は大丈夫なんですけどね、魔力は空っぽです。なので今日は早めに休みます。」
「そうした方がいいわよ。それにしても…何かあった?」
オリビアさんと視線があった。
やはり何か察するものがあったのだろう。
「ちょっとご相談してもいいですか?」
「いいわよ?」
「明日一日、お仕事をお休みしたいのです。忙しい時期に申し訳ありません。」
「どうしたの、いきなり?」
「これを開こうと思うのです。」
収納から取り出したのは灰色の表紙、背に刻まれた貴族名鑑第十二巻の文字。
地味な外装に包まれた、圧倒的な力を持つ何か。
「…初代女王の魔法手帖。」
「はい。正直、開くのが怖いので先送りしていたのですが。」
私は苦笑いを浮かべる。
一転、真剣な表情をみせたオリビアさん。
「それを手にしようとするのは、なぜ?」
「未来の時間軸を見に行ってきます。得なくてはならない情報があるからです。」
生き残る手段を一つでも多く得るために。
この私の選択すら、もしかするとすでにシルヴィ様によって定められた道すじなのかもしれないけれど、今この瞬間にでも私が情報を得たい気持ちは確かだ。
「二十七階層の主さんや棟梁のような症状については未だ改善されていません。」
「そうね。それは間違いないわ。」
「この件の恐ろしいところは、症状そのものだけではありませんよね。」
オリビアさんも予想がついているはずだ。
私の一言に彼女の顔が歪む。
「一番は、明確な治療方法が見つかっていないことです。」
病に掛かっても治せるのなら、むしろリスクは少ない。
だが急速に病が進行し命を失う病気や、治す方法が見つからない病など、多数の人物が感染することによって大惨事となる恐れのある病は存在する。
しかも病にかかった原因がはっきりしていない。
「例えば国を動かす立場の人間がこの病にかかったとする。一人ならまだなんとかなるかもしれない。だけど複数の人間がこれに感染したら…病により混迷を極める国を攻めるなど容易いですよね。」
今はまだ試されているだけ。
本当にこわいのはこれからなのだ。
「私は自分の命を守ることが一番大事なんです。そしてこの病によって、この国から元いた世界に戻る手段が失われてしまうことを恐れています。」
国は二の次、って言外に言っちゃったけどいいよね。
この国を守る人は別にいるのだもの。
ふと、師匠の仏頂面を思い出す。
「わかったわ。それならお休みして構わないわよ。」
オリビアさんが真剣な表情のまま頷く。
その表情はどこかシルヴィ様に似ていた。
やはり血の繋がりは隠せないのだな。
「明日、準備が整ったら魔法手帖を開きます。」
「ええ、わかったわ。こちらも主様に伝えておくから。」
別のお話(短編)を書いていたつもりが、いつの間にやら長編になり、しかも世界観が魔法手帖と違うのでなかなかこの世界に帰って来れませんでした。
まさに異世界転移から帰還した気持ちです。
またよろしくお願いします。




