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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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幕間 さがしもの、さがしびと①


さがしもの、さがしびと。

大地の切れ目、天蓋の果て。

見つけたものは、どんなもの?

見つけたのは、だあれ?


「おっとっと。」

「ごめんねー!!おじさん!!」

歌いながら子供達が市場を駆け抜けていく。

ぶつかりそうになるのを避けながら、彼らの放つ輝きに目を細める。


若いってのは、不思議なものだ。

それだけでひとつの力となり得る。

ロイは失った若さを思い、そして大切なものと引き換えに新たに得たもの…自身の名を思い浮かべる。

最も付き合いの長い名は冒険者として"蒼い獅子"を中心に活動するロイ、だがこの名は偽名だ。

そして現在の本名とされるのは伯爵位を持ち、また補佐官として城に勤めていることになっているロナルド=テスラ、そしてかつてはロラン=オーディアールと名乗っていた。

なお現在もロラン=オーディアールは地下牢で自主的に謹慎していることになっている。


「名をいくつも持つと、どれが自分なのかわからなくなるな。」

だから親しい者には積極的にロイと呼ばせていた。

それは本名から派生する愛称とは異なるのだが、呼びやすいからか、皆疑問には思っていてもわりと素直に受け入れてくれている。

だが人によっては長い本名よりも短い愛称の方が、本人が望まずとも周囲に定着してしまう場合があった。


「…フィオ、本当にお前なのか?」


フィオリクス。

彼にとって祖父にあたる人物がつけた比較的珍しい名だ。

親しい人間からは名の頭だけをとってフィオと呼ばれる事の多かった我が息子。

一定の間隔をあけて、後をつけていく男の後ろ姿は全くの別人。

だがその癖や時折見せる仕草が息子と同じように見えるのはただの思い込みなのか、それとも。


「彼らは何をしようとしているのだ?」


自身の手だけでは足りず、人を雇い探らせた結果、彼が定期的に会う人物がいる事がわかった。 

それはまさに今日。

そして相手はヨドルの森の奥深くに姿を現し、顔に傷を持つ男。

足を若干引きずるようにしていることから、同時に足にも傷を持つのではないかと調査結果に記されていた。

顔と、足に傷を持つか。

頭の片隅で何か引っかかるものがあった。

それが何なのか探り当てる前に霧散する。


後をつけていた男が立ち止まると辺りを確認している。 

姿を見られる訳にはいかないからと、今日はエマの紡いだ認識阻害の魔紋様まもんようを魔道具に仕立てたものを身に着けてはいたが、念の為、近くの建物に身を潜める。

やがて再び歩き始めた男の後ろ姿を追う。

善し悪しはあるだろうが、姿を正確に認識されない事がこれほど便利とは思わなかった。


この魔紋様まもんようは自分のような人間のためにあるようなものだ。

例えばこの魔道具をつけ補佐官として仕事をしている時、城の者は皆口を揃えて自分の事を"いるはずなのに印象に残らない人物"と評していた。

彼女は狩りの時にしか使っていないようだから想像もしていないだろうが、上手く使えばこうして別人として暮らしていく事ができてしまう。

気配を偽るだけでなく、癖や話し方を工夫すれば、別人になりきることができるのだ。

販売されてはいないものの、売れば一財産築けるのではないだろうか。

そう思わせる程に彼女の紡いだ魔紋様まもんようは出来がよかった。

そして同時に思う。

リアンは濁していたが、もし彼女以外にそんな事ができる力があるとすれば、未知なる魔法の力か禁忌の魔紋様まもんようの力を借りているとしか思えない。


もし息子が魔紋様まもんようの力を借りて別人に成りすましているのだとすれば、親子揃って同じことをしているわけか。

口元に苦笑いが浮かぶ。

魔紋様まもんようの力で姿を偽り、名を変え別人を装う。

発想が同じあたりは血の繋がりを感じさせるが、それはまるでオーディアール家が呪いに囚われているようにも思えた。


名を捨てなければ生きられない、そんな呪いに。


市場で手早く食料や日用品を手に入れると男は森の奥へと躊躇いもなく踏み込んで行く。

動物だけでなく魔物が彷徨くはずのヨドルの森が比較的静かなのは先日大々的に魔物狩りを行ったから。

聖国を目指し狩場を移動しようとした冒険者達を紹介所経由で説き伏せ、その彼らの力を借りて、増え続ける魔物を何とか一定数まで減らす事ができた。蒼い獅子の冒険者であるカイロスやヨーゼも説得がぎりぎり間に合ったようで想像以上であった魔物狩りの成果に聖国に行く事を止め、今もこの領地に留まり狩り残した魔物を狩っている。

魔紋様まもんようがお友達価格とやらで手に入るうちは続けますよ!!』とヨーゼがキラキラした瞳で話していたから、エマが友達経由で仕入れた設定の、その実、彼女が紡いだ回復や浄化の魔紋様まもんようは無事に手に入れる事ができたらしい。

今は事情があって狩りの練習を休んでいるエマに成果を披露するのが楽しみだと言っていた。


「さて、俺の狩りの成果はどうなるかな。」

ロイは見失わないように一定の距離を保ちつつ後をつける。

枝の擦れ、葉のざわめき、草を踏み分ける、何気なく立てる音。

僅かな違和感が自身の存在を知らしめる結果になりかねないため、細心の注意を払い近づく。

そして鬱蒼とした森の中、僅かに開けた場所にある大木の下に彼らはいた。

遠目であるが二人の容姿は確認できる。

相手の男は黒く長いローブに身を包み、顔は見えないが恐らく例の顔に傷のある男だろう。

じっくり観察していると男がローブを脱いだ。

見慣れた(・・・・)赤みを帯びた茶色の髪が揺れ、頬に大きく傷の付いた整った顔立ちが陽の下にさらされる。

その瞬間、息が止まった。


「…ジェイス様。」

口からこぼれ落ちた言葉が僅かに空気を揺らす。

気付かれたか?

だが幸いにも合流しただけのようで転移の魔道具に魔力を流すと二人は瞬く間に姿を消した。

戻るかもしれないからとその場で様子を見るがその気配はない。

細心の注意を払い再び森の中を移動する。

森を出て、人里に近い場所までたどり着いたところで大きく息を吐いた。

暫し呼吸を整え、今見た景色を思い出す。

行き先はわからないが、この国のどこかに二人がいる事は確かだ。

リアンの結界がある限り国外へ転移することは不可能。

…エマならできそうだが彼女の魔紋様まもんようは特別製だ。

二人がそれを所持しているとは思えない。

そしてあの男はやはり…。

追放された()王子に付き従う者など一人しか思い浮かばなかった。


「フィオ、何をしようとしている?」


ただただ嫌な予感がする。

とにかく直ぐに報告しよう。…いや、報告して場合によっては償わなければなるまい。


何故だろうか。

何も知らないのに、彼らがしようとしていることが決して正しいとは思えないのは。


ーーーーーー



とある日の昼下がり、レーブル・タンナ・ローゼ武具店。



「…いらっしゃい。」

一瞬、相手に声をかける事すら躊躇った。

ニ三度瞬きする。


やはり幻ではないようなだな。

職人且つ、販売員でもあるレーブルはため息をついた。

厄介な客というものは勘でわかるという師匠の言葉を思い出した。


目の前に立つのは、武器や戦闘行為から最も遠いと思われる少女。

天使が舞い降りたかと思うような、整った顔立ちと輝く金の髪を持つ彼女は口元に柔らかい笑みを浮かべている。

だが親しみを込め弧を描くように細められた瞳の奥は全く笑っていなかった。


「何か御用かな、お嬢様?」

「はい、武器を売っていただきたいのです。」

身なりがよいことから、恐らくは高貴な身分の者が冷やかしにでも来たのだろう。

そう判断して適当にあしらい、速やかにお帰り願おうと決めたところで聞こえた思わぬ言葉に目を見張る。

確かにここは武具店。

武器を買いに来たというのなら立派なお客、売る事に抵抗はないのだが。

「贈り物なら本人を連れて来ていただきたい。使う者の技量や武器との相性があるからね。」

そう遠回しに断りを入れたところで、再び彼女の口から驚くような言葉がこぼれた。


「私が使いますの。」

少女らしい生真面目さと潔癖さを感じさせる態度で答えた彼女に、ふとエマの事を思い出す。

彼女は好奇心と畏怖、そういった複雑な感情をはらんだ瞳で武器を眺めていた。

それもそうだろう。

未知の物を知る時、人は自身に置き替える。

自分が武器を振るう様を。

自分がそれを振るわれる…恐怖を。

だがこの少女は武器を振るうことは想像していても、振るわれることの方は想像していない。

レーブルの背筋に寒いものが走った。

彼女は、何か圧倒的な力を振るうことに慣れているのではないか。

だから圧倒的な力で命を奪われるという恐怖を想像できない。

漠然とした不安であったが、それは少女が次に口にした言葉で裏付けられた。


「"虚無"を…ナーダを買い受けたいのです。」

「…なぜ、それを。」

ローゼ以外、誰も存在を知らないはずの武器。

その存在を何故知っているのか、その疑問に彼女は答えることなくただ曖昧に微笑む。

「あれは私のためにあるような武器ですから、知っていて当然です。もちろんただでとは申しませんわ?その行為は武器の魂に傷をつける愚かな行為ですもの。」

硬貨の詰められた袋がジャラリと音をたて机の上に載せられる。

ざっと確認しただけで、この国で五年は暮らせる位の金。

おおよそ対価に等しい。


先日の店でのエマとのやりとり、それに付随する情報。

両方を知らなければナーダという存在に辿り着けず、対価を正しくは測れない。


きっとこの少女か、もしくは少女に親しい者がエマと私のやり取りを聞いていたに違いない。

エマには彼女の監視がついているのか。

目の前の少女はいったい何者なのだろう?

ナーダの話をしたのは直近ではあれきりだ。

自分の店で何を好き放題してくれるとは思うものの、今回のように対価まで正しく提示された状況であれば彼女に売らなければならない。

自分が他種の職人であれば理屈をつけて売らないという選択肢もあった。

だが鍛冶は火神の加護を受けている。

誇り高き火神は嘘を嫌う。

そして仮の名とはいえ商品名と等しい対価を示した彼女に商人としても売らない理由はない。

情報はひとつの力。

今回は自身に対して彼女が勝ったということだ。

悔しいが仕方がない。


だが、器に相応しいか試すくらいなら許されるだろう。


「ではお嬢様、試しを受けていただけますか?」

「対価を示した私に、試しを受けろと?」

「ご存知のとおり扱いの難しい器です。それを扱う技量があるか試すのは鍛冶職人としての務め。」

「…いいでしょう。」

ナーダの特性まで知っているのか?

もしそうなら店の防犯体制も見直さないといけないな。

高価な武器も扱ってはいるが、盗人程度なら自分とローゼがいるから大丈夫と思っていたのは認識が甘かった。

とにかく、今は目の前の客をどうにかしなくては。

彼女を一度別の部屋に追い出し、ナーダを店の商品の中に紛れ込ませる。

百を越える砂粒(武器)に埋まる一粒の(武器)

意地が悪いと言うなかれ。

困難を極めるほど"試し"に相応しいとされるのだ。

まさに誇り高い火神が求める対価。

それから再び扉を開き彼女を招き入れた。


「では『火神カグチの名のもとに、"試し"を』。さあ、この中から貴女の欲しい武器をどれかひとつ選びなさい。それをこの金額でお売りしましょう。」

「それでは貴女が得をするのではなくて?」

「間違えなければ同等(・・)ですよ。嫌ならお帰りください。」

彼女は僅かに不快そうな表情を浮かべた。

翻弄されたままなのは癪にさわる。

これで彼女が誤った武器を選んだとしても対価として提示された硬貨はこちらのもの。

どれを選んでもこの店でナーダより高い物は売っていないから損はしない。

今回の件で防犯対策を見直すのだ、その資金とさせてもらおう。

少女は困ったような表情を浮かべ…その実、たいして困ってはいないのだろうな、そんな表情をして、ゆったりとした口調を崩さずに答えた。


「試しを受ける際に、してはならない事はある?」

「嘘をつくこと。そして約束を破ること。」

エマと同じことを問うのか。

同世代の少女達はこんな駆け引きとは無縁と思っていたのに。

自身が彼女達位の歳の頃はすでに冒険者になるための修行の真っ最中で、同年代の少女達とは無縁で気付かなかったけれど。


少女と呼ばれる生き物は、思いの外したたかなのだな。


「それでは試しを受けます。」

「手に持つか、選んで指をさせばその武器が君のものだ。」

そして彼女達は存外に無謀で、思い切りが良い。

若さ故の特性ともいうべきか。


少女が一気に魔力を放出した。

声を出す間もなく、部屋に満ちる魔力の奔流に思わず目を閉じ、再び目を開いたとき。

彼女は愛おしいモノを抱くように武器を手にしていた。

それは少女に最も相応しくない太く武骨なデザインの短剣。

柄や刀身にびっしりと彫りがあり、薄く刃がついている。


虚無(ナーダ)が、そこにあった。


遅くなりました!!

一話で完結させようと思っていたのに気がついたら文字数が予定よりだいぶ多くなってしまいました。

ぶった切った後半は明日公開できるように準備しています。

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