表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

168/187

魔法手帖百四十六頁

更新、忘れてました。

遅くなってすみません。

お楽しみいただけると嬉しいです。


次の日。

なんとなくだけど、サナと同じくらいのタイミングで起き、顔を洗い身支度を整えた。


「あら、エマの着ている服って制服?オリビアの店の新作なのかしら?」

「そうなんだよ!!素敵だよねー!!」

今日はこれからお仕事なので制服を着ています。

色は深みのある赤、膝下丈のふんわりとした形のスカート。

白い丸襟がついていて袖口も白、飾りはそれだけのシンプルなデザイン。

洋服にも流行があるように、魔紋布にも使う糸の色や織りに流行があるそうだ。

今年は赤や紫が流行りらしい。

この魔紋布はオリビアさんの『店員は生きた芸術でなくてはならないの!!』というポリシーを貫くため、サリィちゃんとリィナちゃんが趣味全開で織り上げた新作だ。

ちなみに足元には革製の茶色いブーツを履いています。


「あら、この紋様って…貴女の?」

「ハイ、汚れやシワが付きにくく、ついでに淑女の皆様の安全を保証する防御結界付きです!」

サナが制服に織り込まれた魔紋様まもんようを指差す。

私の新作はこれです。

起点の魔紋様まもんようの描く紋様にはそれぞれ属性に合わせた個性がある。

火属性の紋様は燃え盛る炎、水属性は滴り落ちた水の描く水紋のような具合に。

それに対して無属性とされる紋様は個性豊かで千差万別。

そして私の起点の魔紋様まもんようは"アリアの花冠"と呼ばれる、つまり。

花柄(・・)は確かに高貴な女性が喜びそうね。」

「こういう目立つ使い方をするのはどうか、とも思ったのだけど。」

アリアの花冠イコール次代の魔法紡ぎの女王の認識が定着しつつある今日この頃だ。魔紋様まもんようを柄に使うことでその服を着用した人が不要なトラブルに巻き込まれるのは申し訳ない気がする。

そのついでにオリビアの店へ悪い評判が立つのも避けたいところだ。

オリビアさんからは『そんなもの、今更よ』と軽く流されて終了した。


「気にし過ぎじゃないかしら?」

「そんなものかな?」

「貴女は実際に自分の商品がどれだけ国内に流通しているかわかってる?魔道具にして国外へ持ち出されたものも含めたら相当な数になるわよ。確かに需要が高いから人気はあるけれど今更珍しいものではないのよ。それに今までが回復や浄化といった冒険者や軍隊向けの商品、つまり男性に需要が高い商品ばかりだったでしょう?貴女にそういうイメージがつくのを避けたかったのではないかしら?」

確かに言われてみればそうだな。

需要が高いから回復と浄化の魔紋様まもんようを優先して紡いでいたけれど主に使うのは戦闘職につく人だ。カロンさんのように女性ながら戦闘に長ける人もいるけれど、やはり圧倒的に男性の方が多い。

「できれば平和的なものに紋様を使ってもらいたいよね。」

回復と浄化も使う場所はともかく、人を救うものだ。

ただやはり危険を伴う状況で力を発揮しやすく、効果を実感しやすいものだから、どうしてもそういう印象と結び付き易い。


「ふうん。なら私とも何か作ってみる?」

「サナと一緒にってこと?」

「そう。女性が喜びそうな装飾品に貴女の紋様を使うの。」

サナの指先が私の髪を纏めるゲンゾウモデルを指差す。

そうか、アクセサリに使うのか。

可愛いかも。

でもいつもサナが使う素材や形状とは全然趣きが異なるのだけど大丈夫なのだろうか。

「サナ、こういうものも作れるの?」

「むしろ地位の高い人は装飾品を魔道具へ転用するのが一般的なのよ。」

例えば指輪に使う具材に魔紋様まもんようを刻み、魔道具としたり。

石へ魔紋様まもんようを刻み、装飾品にしたりと。

あ、ディノさんやルイスさんからもらったネックレスもそうだったな、うん。


「そうだね、なら…。」

収納から魔紋様まもんようを二枚取り出す。

サナの宝石箱型通信機をもらった後に紡いだものだ。

「これは?」

「宝石箱に流れた魔力を感知して、こちらの魔紋様まもんように魔力を繋いでくれる。」

理屈は簡単。

サナの通信機は着信があると埋め込まれた魔石から微量の魔力が漏れる。

それを利用して、片方には魔力を感知したら対となる魔紋様まもんように感知したことをお知らせしてくれる効果を付与し、もう一つにはお知らせを受け取るだけの効果を付与した。

「つまり宝石箱にこれをつければ、着信があるとこっちでお知らせを受け取れるわけだね。」

「それで何をするの?」

「宝石箱から多少離れた場所にいても、着信したら連絡くれる魔道具を作ったらどうかな、と思ってね。」

例えばサナが連絡を寄越した時に私が必ず応答できるとは限らない。

だから後で気付いて折返し連絡をするにしても時間が経ちすぎて『もう終わったことなんだけど…』という事態が何度かあったのだ。リアルタイムで対応とまではいかなくとも、自分の都合のいいタイミングで連絡が返せるとしたらその方が便利な気がする。

「それはそれで需要はありそうね。通信機とセットにして売るのもありかも。」

「女性向けなら華やかなデザインで、男性向けにもシンプルなデザインのものを作るってどう?」

「夫婦や恋人同士で使えるという発想ね。それ、使わない手はないわ。」

ついでだし、とサナはささっとデザインを書き上げる。

さすが元公爵令嬢。

装飾品に慣れ親しんでいるだけありますね!!

白い紙にはどこか品のある華やかなデザインで、いろんな種類の装飾品が描かれている。


「あっ、これいいね。」

指輪の表面にいくつもの花の蕾が描かれ、そのうち一輪だけ、花が咲いている。

その中心に魔紋様まもんようが刻まれた魔石が嵌っていた。

「そうね、なら女性用はこれにしましょう。それで男性用は…。」

「流石に花柄を着けるのは抵抗あるよね。いっそ裏側を同じデザインにしてみようか。」

「なら少しだけ全体を太めにして柄を裏に。で、魔石は表面かな…こんな感じ?」

「うん、いいね!!」

全体的に華やかな印象の女性物に対し、男性向けのものは見た目魔石が一粒嵌っただけのもの。

それでいて裏面は女性と同じデザイン。

つまり実はお揃いでした、というやつですね!!


「それでお知らせっていうのはどう届くの?」

「漏れた魔力を感知して、受信する側の魔紋様まもんようが光る、くらいかな。」

実はこれ、まだ試作段階でもあるのだ。

どういう機能でお知らせしたらいいかイメージが湧かなくて、受信する側の魔紋様まもんようが淡く光るとしか効果を付与していない。

「魔力が魔石から漏れるとは言っても微量だし、魔道具に流した本人の魔力と混同して反応してしまうことがあるんだよね。あと当然、誰からの着信かはわからない。」

「ならそこから先は魔道具の機能で補助するわ。」

ふむ、と言いながら何やら紙を手繰り寄せ、複雑な線を描き始める。


「他に注文はない?」

「あと可能なら、宝石箱本体にお知らせ機能を"作動させない"事を選べるようなスイッチみたいなものを付けられる?もしくは従来の機能がついていない商品を継続して販売してくれるとか。」

「あらなんで?便利な機能を付加する予定なのに?」

「いずれ束縛されることに苦痛を感じてしまう人が出てくると嫌だから。」

携帯電話やスマートフォンと同じだ。

お知らせという便利機能がついて常に繋がるようになると今度は繋がることが普通になる。

それを煩わしいと思いながらも孤立するリスクを避けるため、致し方なく対応するようになる。

やがて自分がそうなのだからと、それと同じ対応を他者に求めるようになっていく。

そしていつしか、お知らせ機能に束縛されていると感じるような人が出てくるのではないか。

それを避けたいのだ。

「皆が皆、同じ考えとは限らないけどね。」

付加機能として好意的に迎えてくれるならそれでいい。

それを強要するのは傲慢というもの。

繋がらない事を選ぶ権利もまた、使う人にあると思うのだ。


「以前、ルイスさんがダングレイブ商会の話をしてくれたの覚えてる?」

「ええ、覚えているわ。」

「かつてのあの店には『夢があった』と。それは、たぶんたくさんある商品から選ぶ喜びがあった、ということだろうと思うよ。」

いくつかの選択肢から自分の意志で自分に相応しいものを選択する。

それは人にとってとても幸福なことだ。

そして他者の意向に左右されず、欲しいものを選ぶという精神。

特にある程度社会的な地位がある人にこそ、そうであって欲しいものだから。

「個人主義の考え方が発達した世界ならそうかもね。ただ貴族相手の商売だとそう単純にはいかないの。」

あまりそういう顔を見せないサナが珍しく苦い表情を浮かべた。

彼らは基本、新しいものや珍しいものが大好きだ。

それは自身の経済力、そして情報網の広さを誇ることに繋がるから。

だから積極的にそれを吸収し広めようとする。

他者に迎合することで、数は力となり、新たな風潮を生み出すしていく。

そこから新しい文化や芸術が生まれ、経済的にも発展、その経済力が国の礎となり、また新たなものを生み出していく力となるのだそうだ。


「だからね、便利機能を一概に悪とは言えないのよ。」

「うーん。やっぱり販売するのやめようかな…機密性が高まる分、そういう面でのリスクもあるし。」

もともと互いが高性能な通信機を持っていれば、わざわざ外で会って密談などせずとも済む。

秘密が漏れにくくなり、情報が把握できないというリスクを更に上げてしまうのだ。

「要は使う人の問題ね。一度誰かに販売してしまえば『貴方には売りません』というわけにもいかないし。」

「途中まではいい案だと思ったのだけどな。」

「あら今更諦めるのはナシよ。宝石箱型通信機がある限り、こんな便利機能があったらいいなって、違う誰かが考えつくわよ。それが今なのかもっと先なのか、の違いだけで。」

あとはその時に実現可能な技術があるかということ。

その技術が安全なものだけとは限らない。


「ならば危険を避けるためにも、今のうちに安全性を確保できる状態で商品化してしまった方がいい。」

「なんとかできそう?」

「所長やカロンさんに相談してみるわ。こうして堂々と提案できる立場を得たわけだし。」

「正式に研究員として採用されたのだもんね、おめでとう!!」

「ふふ、ありがとう!!今まで以上に頑張るわ。」

とりあえず、研究所に持ち帰ってどうするかを相談するらしい。

サナってば雰囲気まで変わった気がする。

今まではどこか不安そうな気持ちを堂々とした態度の裏に隠していたけれど、今は自然体なのに、それでいてやる気に満ち溢れている。

自信がついたのかもな。

経済的に安定したという安心感もあるだろうけど、何より勝るのはこの国で暮らしていけそうだという、そんな自信。


「サナちゃーん、エマちゃーん!!朝ご飯だよ?まだ寝てるの〜?」

階下からカロンさんの声がする。

昨晩仕掛けた二日酔いを解消する魔紋様まもんようは無事に発動したらしい。


「ねえ、サナ。いくら便利でもこういう会話が宝石箱魔道具から伝えられる、という事態は避けたいな。」

「あら、顔が見えて声が聞こえるのよ?他に何が不満なの?」

「味気ないもの。食べ物の画像見て、誰かがその食べ物の美味しさを語っても『美味しくない』でしょ?」

「…たとえ話が食べ物っていうのが貴女らしいわね。」

「はい、食べ物への情熱は未だ冷めていませんよ!!」

ああ、やっぱり朝は焼き魚が食べたい。

ブレないわね、そう言って笑ったサナがふと思い出したように卓上へ置いた箱を渡してくる。

ん?これなんですか?


「以前頼まれた魔道具よ。」

「頼んだって…あ、あれね!早いね、もうできたの?」

「頼んだ本人が忘れるってどうなのかしら?はい、モノはこれ。それからお代はこちらです。」

「う、ちょっと高い?」

「お友達価格よ?今回は材料費がずいぶんかかってるのよ。その代わり、実験済みだから。」

「そうか特別製だもんね。」

そして安全性も保証済みと。

収納からお代をお支払いする。

うう、ずいぶん無駄遣いしてしまった。

今月は遣り繰りがんばりますよ!!


「それにしてもこんなもの何に使うの?ゲンゾウ氏みたいにドラゴンでも捕まえに行くわけ?」

「違うよ!!だけどもしかしたらいるかな、と思ってね。」

視線の先で白いしっぽの先がふわりと揺れる。

いつの間にか帰って来てた、この毛玉。

無防備に腹をさらけ出している。

野生生物は寝る時、弱点となる腹を上にしないらしいよ、シロさん?

緊張感、どこに忘れてきたのかな?


「サナちゃーん、エマちゃーん、ご飯全部食べちゃうわよ…ああっ、食べちゃいそう!!」


再び階下からカロンさんの声がする。

…まさかの実況生中継!!

しかもリアルタイムで進行中!!

しまった、このままでは胃袋が受難の危機だ。

サナと顔を見合わせ、二人無言のまま階段を駆け下りた。





別のお話を二本ばかり書いていて更新遅くなりました。

次回のお話では、ほっこりしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ