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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖十五頁 マグルスマフの盾

『マグルスマフの盾』



破壊と再生を司る『サルヴァ=トルアの剣』と対を成し、司るは叡智と節制。

現在確認されている魔紋様まもんようの中では最高クラスであり、"守り"を主軸とした"創意"に長けるという。

また、この魔紋様まもんようを持つものは、相手の魔法の構成を読み解く力を持ち、魔素の量が同等もしくは上回る規模で相反した効果をもつ魔紋様まもんようを発現させる事が出来ればそれを相殺することもできるという。


まさに国にあっては守りの要と言わざるを得ない。


その規格外の魔紋様まもんようを操る彼は侯爵家の子息である。

幼い頃に大きな怪我をしたため、ずっと領地で静養していたという。

だが、十歳を越えたあたりで日常生活に支障がなくなってきたということで、社交界へのお披露目を兼ねて十三歳の時に王への謁見を許された。

その謁見の場で、彼はひとつの魔道具を献上した。


守護の魔紋様まもんようを刻みこんだ黒く輝く龍の魔石。

魔石は自らに大量の魔素を含み、更には術を展開するための媒体として研究者に好んで使われていたが、そこに魔紋様まもんようを刻んで魔道具としたのは彼が初めてであった。

その精緻な細工の施された魔石に彼が集めた魔素を注ぐと、魔石を中心に王都周辺の都市まで広がるドーム型の防御結界が発現した。

実験の結果、その結界は魔物の侵入を阻み、武器などを持った悪意ある者の攻撃を退ける効果があることがわかった。

更には謁見の間で魔素を注ぎ込む様子から、彼が平均的な魔術師と比べ、桁違いの量の魔素を取り込めることも明らかになる。

それに慌てた研究者が彼の紡いだ魔紋様まもんようを確認してみたところ『マグルスマフの盾』である事が判明したのだ。

こうして彼は、若干十三歳にして国の防衛を担う「魔法紡ぎ」として城に仕官することとなった。


彼が献上した魔石は、現在王座の間に飾られ、『王座の守護石』と呼ばれている。


「なんかもう、あのヒト凄すぎて同じ空気吸いたくないんだよ。」

「お前さらっと酷いこと言うよな。…というか、あの環境なら人を寄せ付けなくなるのも仕方ないだろう。」

対面した時の事を思い出したのか、死んだ魚のような眼をしながら言うディノルゾ。

それに対してのゲイルは何処か思案している様子を見せた。

「ひとつの国に女王と盾がいるとわかったら、周辺国から要らぬ警戒をされる上に、二人共いるとなれば先ず城が狙われる。王族の安寧の為にも二人を離しておく方が無難だろう。」

「しかも、剣の方はあの国(・・・)に居るらしいし。剣も盾も女王の傍らにあって初めて本来の力が発揮される(・・・・・・・・・・)。」

あの国(・・・)ならこの国に彼女じょおうがいる限り、彼女を殺すか、誘拐してきて剣と共に使い潰すか、そのくらいのことはするだろうね、とディノルゾは感情のこもらない声で言った。

三人の間に再び沈黙が降りる。



「わかりましたわ。その話、条件つきでお受けします。」

すっと顔を上げたオリビアに、ゲイルは聞き返す。

「条件とは?」

「ひとつめは、その方にここでお話された事全てお話下さい。そして、その方が当店に滞在される事を了承されるなら私達は喜んでお迎えいたしましょう。」

「ふたつめは、その方には「魔法紡ぎ」として当店で働いて頂きます。内容にもよりますが、商品化される価値がある魔紋様まもんようなら対価をお支払いします。」

オリビアは指を折りながら条件をあげていく。

「ふたつめはなんとなく理解できるけど、ひとつめは?」

ディノルゾは聞き返す。


「かの方は"女王"なのでしょう?女王ともあろう方が己の生き筋一つ決められぬとはあまりにも脆弱。守る価値もありませんわ。」

ぴしりと言ったオリビアに対して、ディノルゾは眉間にシワを寄せ反論する。

「彼女はこちらの世界に迷い込んで二日目だ。魔紋様まもんようのことがなくても混乱するだろうに。政治のあれこれを吹き込んで決めさせるのは酷じゃないかい?」


「その方、今おいくつなのかしら?」

ディノルゾの抗議には答えず、今度はゲイルにオリビアは尋ねる。

「…今十七歳だと聞いている。」

オリビアは鋭い視線を二人に向け言い放つ。


「過保護ですわね。」


「「…」」

「見た目、幼い感じの方なのかしら。でも、その方はあと一年足らずで成人なさいますのよ?お二人が婦女子を保護すべき対象として考えていらっしゃる事は存じ上げてますわ。私に対しても常に紳士でいらっしゃいましたし。」

表情を和らげ、懐かしいですわねと言って微笑むとオリビアは続ける。

「でも、それと甘やかすことは違いますわ。敵が来たらお二人はなんとその方に説明されますの?その方、ご自身が危険に晒された時、自らの身を守ろうとなさいますかしら?それに…」


己の命に関わる事を話してくれない者なんて誰が信用するのかしら?


言葉の重みが二人に突き刺さる。

「話して大丈夫だと思いますわよ。殿方が思うより、その歳の女の子は大人ですから。」

にっこりと笑うと、更に爆弾を投下する。

「それに私の掴んだ情報だと、この国ではなくひとつお隣の国で『魔法紡ぎの女王』が現れたって話もありますわ。」

「なっ!」

「ブレストタリアか!」

ガタッと立ち上がる音に茶器がぶつかり合う音。



「ちなみに、かの国の『魔法紡ぎ女王』は"聖女"と呼ばれているようですわよ。」

ディノルゾ様の"勘"が勘違い(・・・)と言われないといいのですけど。

からかっているにしては真剣な表情をしたオリビアの言葉が、ディノルゾとゲイルには不吉な出来事の予兆のように響いていた。


どうしても、過保護ですわ、を言わせたかったんです。

厳しい言葉を不快に思われましたらすみません。。

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