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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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158/187

魔法手帖百三十六頁 手を繋いで、第一手は陽動

残酷な描写を含みます。

ご注意ください。


「そういえば、ルイスさんは?」

「今はヨドルの森の後始末で忙しくしていてな、抜けられるようなら来ると言ってたぞ」

「ああ、無事なんですね! 良かったです!」


ゲイルさんの情報にほっと一安心。

ロイトの中でもルイスさんは腕の立つ方らしいので、ずいぶんと頼りにされていた。

きっと危険とされる場所へも足を運んでいるのだろう。

見慣れた顔が見られないというだけなんだけど、なんだか心配になりますね。

ん?なんですか、皆さんの顔がおかしなことになってますよ?

ディノさん、『いい傾向だね』ってなんですか?


「それで君はこれからどうするんだい?」

「一旦お城へ戻ります。師匠と相談してから、オリビアさんと今後どうするか考えますよ」


国として私の処遇をどうするかが決まらないと、このままの雇用形態でよいか判断がつかないからね。

オリビアさんと視線を合わせる。

事前に相談はしておいたけど彼女が頷いてくれたからそれでいい、という事だろう。

保証人はルイスさんだけど、現時点では、すでにオリビアさんが雇用主兼身元引受人だ。

できれば今まで通りにお店で働きたいのだけど、そういうわけにもいかないだろうな。


「それにあとひとつ、やっておかないといけない事があるのですよ」


それには師匠の力が必要な気がするのだ。

私の言葉に事情を知るオリビアさん以外の人は不思議そうな顔をしている。

ちらりと足下でお菓子を頬張るシロへと視線を向けた。

視線を感じたのかシロが私の方へ顔を上げた。

まるで『君次第だよ』とでも言いたげな眼差し。


沈黙を破るようにヨルの八の鐘の音が聞こえた。


「さて、私は帰りますね!」

「あ、エマちゃん送ってくよ」


サリィちゃんが席を立つ。

ありがたいけど、いいのかな?


「未成年が遅い時間にうろつく場所ではないからな、皆で帰ろう」


そう言ってゲイルさんも席を立つ。

そしてオリビアさんとリィナちゃん、カロンさんと次々に席を立った。


「なんだかすみません、気を使っていただいて」

「いや、構わないよ。ディノはどうする?」

「ん〜? もう少し飲んでく〜」

「……ほどほどにしておけよ。」

「はーい。」


ゆるい感じで手を振るディノさんを残して皆でお店を出た。

今夜は元いた世界でいうところの満月。

この世界の月は地球から見るより何倍も大きい。

灯りがなくとも薄明かりで道は白く照らされ、夜だというのに稜線はいまだ明るい。


「まるで朝焼けみたい」

「そうだね。でも日陰は暗いから、気をつけないと」


そう言いながらサリィちゃんが手を差し出す。

ん?


「エマちゃん、手を繋いで帰ろう!」


あら可愛い。

笑みを浮かべ彼女と手を繋ぐ。

触れた手の温かさ。

その温もりが、懐かしい記憶を呼び覚ます。


『お姉ちゃんと手を繋いで帰ろ!!』

『えっ?! 俺はイヤ。誰かに見られたら恥ずかしい。』

『あたしは繋ぐー!』


学校の帰り道。

私を真ん中に双子の弟妹がつかず離れずの距離を保ちつつ歩く。

妹は寂しがり屋だから繋いでくれたけど、弟には結局手を繋いでもらえなかった。

正反対の性格を持つ弟妹は最近よく喧嘩してたけど二人仲良く暮らしてるかなぁ…。

懐かしい記憶に浸っているとゲイルさんから声が掛かる。


「…エマ、ちょっと寄る所があるから俺達は悪いがここで失礼する」

「はい。ゲイルさんとカロンさん、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

「おやすみー、エマちゃん。いい夢見てね!」


ゲイルさんは僅かに笑みを浮かべ路地を曲がる。

後を追うように軽やかな足取りでカロンさんも姿を消した。

急なお仕事でもあったのだろうか。

やがてもう間もなくお店という所で、オリビアさんが声を上げ、ポンと手を打ち合わせる。


「あら、いけない! 今日納品予定だった魔道具、届けるの忘れてたわ!」

「あっ、ダレスさんに頼まれた品ですね! 今持ってきます!」


リィナちゃんが走って店まで取りに行くと風呂敷包みを抱えて戻ってきた。


「エマさん、サリィと先に店に戻っていてもらえるかしら?」

「わかりました」


オリビアさんとリィナちゃんはダレスさんの店のある方角へと歩いていく。

うーん、遅い時間に美人な女性と愛らしい少女の二人歩き。


「ずいぶんと暗くなってきたけど、二人で大丈夫かなぁ?」

「大丈夫だよ、エマちゃん。すぐ近くだし」


確かに行き先はすぐそこなんだよね。


「じゃ、お店で待ってようか」

「うん、そうそう。そうしよう!」


手を繋いだままサリィちゃんに促されお店の玄関をくぐる。


「「ただいま!」」


サリィちゃんと声が揃う。

思わず笑みがこぼれた。

本当に不思議。

なんだか久しぶりに我が家へ帰ってきた、そんな気分がした。


「エマちゃん、おつかれさまでした!」

「サリィちゃんもね!あ、寝る前に少しだけお茶しない?」

「いいね、もらったお菓子があるから持ってくる!」


バタバタと部屋へ向かう彼女の背中を見送ってから台所へ向かう。

そしてお菓子という言葉を聞いて一気に覚醒したシロを足下へ降ろし、ポットを火にかけた。

うーん、折角だし夜食としてなにか簡単につまめるものでも作ろう。



ーーーーーーー



エマが台所で夜食作りに勤しんでいる、その裏側では。


「……ディノ」

「あ、親父さん。お騒がせしてすみません」


店の裏口から親父さんが顔を出す。

結界を張ってはいたが、この人なら空気の揺れで気付くのだろうな。

さすがかつてロイトで"鬼教官"と呼ばれた人だけある。

それとも派手に魔法をぶち当て過ぎたかな。

ポケットから魔石を取り出し砕くと流れ出した水で手や顔についた返り血を洗い流す。

あとは身につけた魔紋布に付与された効果で浄化して、終わり。


「全て一人で始末したのか。」

「ええ」


足下に転がる肉塊を見下ろす。

牙と爪、そして魔物さながらの身体能力を備えた、かつて人であった者達。


人狼(じんろう)とでも呼ぶべきか。

肉体を魔性に支配されながらも、こちらの(とい)(こたえ)を返す知性が不気味であった。

彼らが魔物のなりをしながら本性は人であることに気付いたのは運があったからだろう。

その言葉を聞いて親父さんが眉根を寄せる。


「それなりの人数がいただろうに、無茶しやがって」

「魔物に近い力を宿すとはいえ、元は素人なのでしょうね。本気になったゲイルを相手にするよりも楽勝でしたよ。それに魔力を使うことには慣れていない様子でしたから変化してから間もないという事でしょう」

「だが全員殺すことはなかったんじゃないか?」

「大丈夫ですよ。彼らの証言は全てここに。ああ、偽証であるかの検証は不要ですよ? 嘘はつけませんから」


掲げた映像と音声を記録する魔道具が僅かに光を帯びているのは、その魔道具が使われた証。

親父さんが目を細め、こちらを見る視線が一層鋭くなる。


「……どうやって喋らせた」


ディノルゾは笑みを浮かべ無言のまま口元に指を添えた。


「言わねえつもりか。」

「今の貴方は知らない方がいいことですから。」

「…まあ、そういうことなら仕方がないが。それで、どう処理するんだ?」

「何も?」

「ん?何も、とは?」

「ここでは()()()()()()()()()()()のですよ」


ディノルゾはポケットから取り出した魔石に魔力を流す。

それをポンと足下へ放り投げると青白い炎が広がり一瞬にして肉塊を焼き尽くす。

後には、僅かに焦げたような黒い跡だけが残った。


「ほらね?」


ディノルゾは形ばかりの笑みを浮かべる。

彼ら(・・)には、どう始末されたかすら教えない。

差し向けたの者達が綺麗に消え失せ、何の音沙汰もないとすればどう思うだろう。

再び同じ手を使うか、警戒して手出しを控えるか。

それとも更に上の力をぶつけてくるか。


「楽しみですねー、本当に」

「全く、どこの誰だよ。お前達に喧嘩を売った阿呆は…色々後始末が面倒くさいというのに」

「えへへ、ごめんなさいー」

「四十歳を過ぎた男が照れくさそうに言っても、可愛げの欠片もないわ!」

「ええと、なら、ごめんなさい?」


ディノルゾが首を傾げる仕草付きで謝ると今度は盛大にため息をつかれた。

謝ってるのに、なぜ?


「……もういい。周りを掃除しがてら焼け焦げはきれいにしておく。あと、なにか聞かれたら適当に返事しておけばいいな?」

「そんなかんじで!」

「しかし、お前、何処でどんな恨みを買ったんだ?魔物をけしかけられるなんて」

「んー、狙いは私じゃないです。もっと貴重な存在に、ですね!」

「…そんな奴がいるのかい?」

「貴方も噂くらいはご存知でしょう?」

「なるほど、アレか」

「ええ、か弱く愛らしい姿で、未知の力を躊躇うことなく振るう彼女ですよ」

「また女か。お前、女で命を落とすタイプだな…しかも『それなら本望』とか言いそうだ」

「よくご存知で!!でも今回は大丈夫ですよ、貴方がいましたから。私の分が悪くなったら介入して下さるつもりだったでしょう?彼らの動きが鈍かったのは貴方の威圧のおかげでもある」


気付いていた。

裏口から気配が漏れているのを。

無意識のうちに彼の手に握られた得物がその証拠。

魔物は気配に敏感だ。

それが自分達よりも圧倒的に力のある者の発する気配なら、尚更。

親父さんは舌打ちする。


「気付いてやがったのか。面倒くさい奴だな、相変わらず」


鬼のような形相で厳しい事ばかり言うくせに、面倒見はいい人なんだよな。

その優しさに甘える格好となったことは、偶然ということで許してもらおう。


ディノルゾは笑みを深める。

片手で足りる程度の頭数しかいないのは、たぶん彼らが陽動を目的としているから。

主力を集めた部隊は別にあるのだろう。

だがあの二人(・・)なら十分対処できるはずだ。

純粋な攻撃力だけであの二人を上回るのは相当難しい。


「しかし今更彼女をどうこうしようとするとはな」


焦っているのか、それとも次の一手への布石か。

彼女の意に背いて手を出した者が、どんな目に合わされるのか考えてもいないのだろう。


「今までが大丈夫だったからといって、これからもそうとは限らない。彼女に手を出したことを後悔してもらおうか」


"双星"の立場で力を振るうことを許された今、遠慮はいらない。

ロイト、ゲルター両組織も、彼女の与える影響力を考慮して護衛の強化を命じたという。

きっと今までの鬱憤をはらすように張り切って暴れてるんだろうな。


「……なんだけど、大丈夫かな〜。あんまり派手に暴れると怒られちゃう」


それに日常的に死と縁遠い彼女に知られたら、きっと気にするからね。

生まれ育った環境で培った価値観というものはそう簡単には変わらない。


「だからエマにバレないよう、こっそり始末をつけようって言ったのに。」



まずはディノルゾの番。

長くなりそうなので区切りのいいところで切りました。

お楽しみいただけると嬉しいです。

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